キミと空とネコと4

ずぶぬれのままマンションのエントランスに入る。

しばらく留守にしていたので、郵便ポストをのぞくとＤＭがあふれていた。

ネコを抱きながら、ＤＭをすべて出すと、下から家の鍵が出てきた。


？？？


「これ、オレの家の鍵だよなぁ･･･。」

「あっ、家あけっぱ･･･。」

一人暮らしの自宅で死のうとして、病院に運ばれたというコトは家に誰かが入って発見したというコトだ。

音信不通の家族が来る事は100％ない。

もし万が一家族が見つけたなら、何かしら言って来るだろうし･･･。

で、当然、意識の無いオレが鍵を閉めれるわけもなく･･･。

まぁ、盗られるもんなんか何も無いけど･･･。

そして玄関のドアを開けようとすると鍵は閉まっていた。

「鍵かかってる･･･。」

オレを助けてくれた人は鍵までかけてくれたのか？

親切な人だな･･･。

逢う事もない人に心で「ありがとう」と告げる。

ポストの中に入っていた鍵で開けると、何日も窓を開けてなかったせいか空気がよどんでいる。

ネコが逃げないように上の窓だけ開けると、風呂場に湯をはった。

びしょぬれのせいで、歯がガチガチと音をたてる。


「寒いだろ。オマエも一緒に風呂に入ろうな。」

ネコもブルブルと震えている。

「あっ。ネコって確か水嫌いだよな。また引っ掻かれるかな？」

？な顔をしてブルブル震えているネコを抱いて風呂場へ行く。


最初は逃げ回っていたネコだったが、たらいにお湯をはりその中で身体を洗ってやると気持ちよさそうな顔をする。

震えも止まり、オレはネコを抱いて浴槽に浸かった。


「おい、オマエこれからどうしようか？」

「オレと二人で暮らすか？」

「にゃーーーん。」


お湯が気持ちいいのか、ゴロゴロと喉を鳴らしだす。

「オマエ、ネコなのに水が嫌じゃないのか？変わってんな。そうだ一緒に住むのならオマエの名前決めなきゃな。何がいいかな？」

一人しゃべり続ける。

ネコがいなかったら、もっと悲惨だったかもしれない。

しゃべることもなく、何を見る事も無く、ちっとも進まない時間に恐怖におびえていただろう。

この小さな温もりが今のオレを支えてくれていた。

「んっ。決めたっ!!オマエは今日から『武蔵』だっ!!」

？？？な顔をしてオレを見る武蔵に頬ずりする。

べちゃべちゃに濡れてる身体は気持ちよいものではないのはお互い様のようで、武蔵もオレから逃れようと身をよじる。

「ごめん。ごめん。もう温もったから上がろうな。」

武蔵を抱いて上がると、丁寧にタオルで水を拭き取る。

「武蔵ガリガリだなぁ。ご飯買ってこなくちゃな。近くに動物病院もないか探しとかないとな。」

嫌がる武蔵をドライヤーで乾かすと、ほあほあのキレイな毛並みになる。

「おっ。武蔵はイケメンだな。」

目の色はアイスブルー。

グレーがかった毛並みは縞模様で、武蔵はほんとにきれいな顔をしていた。

「武蔵、これからヨロシクなっ。」

一人じゃないことに救われた思いがした。

一人だったら、何をするかわからない。

コンビニの弁当の魚やミートボールを湯で洗い、少しご飯をたして味を薄くして武蔵のご飯を作る。

「武蔵、今日はこれで勘弁な。明日、ちゃんとしたご飯買ってくるから。」

お腹が空いてたのか武蔵はモグモグと食欲旺盛に食べる。

生きるために。

オレは弁当を満足に食べられなかった。

「オレ、武蔵に負けてる･･･。」

このままじゃダメだと無理やり弁当を食べると吐き気がこみあげる。

それでも、無理やり飲み込んだ。

オレがいなくなったら武蔵はどうなるんだと自分を叱咤する。

武蔵を餓えさせないためにも、オレは責任をもたねばならず、そのことがたった一つ生きることへと繋がっていた。






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