キミと空とネコと

キミと空とネコと98

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海人を連れてユウと共に病院で診察を受けた。

海人はあまり知らない人には怖がる事はなかった。どうも自分と関係がない人に対しては恐怖はなく、何とも思わないようだ。

診察の結果もはかばかしくない。恐怖のためか、自我を守るためか、理由は定かではないが無意識のうちに自分を守るためにこうなってしまったのではないかとDrは推測していた。とにかくあせっても、こちらが過敏にしすぎてもよくない。今海人は落ち着いているので時間をかけて見守っていくしかない。何か心を動かすことがあればあるいは戻ってくるかもしれないが、それがどういったものなのかはわからないとDrは言った。

海人の心が不安定な事は確かで、いつ過呼吸や、精神が崩れるかわからないため、精神薬や睡眠導入剤、睡眠薬が処方される。

診察の間は大人しくしていた海人。やはり一言も発する事はなかった。

帰りに3人で百貨店に寄る。ユウが仕事絡みで行く用事があったためなのだが、ついでに夕飯の買い物もしようという事になり食品売り場でウロウロしているのだ。海人はいろんな商品を手に取りどんどんカゴの中に入れていく。

「玉葱、人参、しめじ、マッシュルーム、合挽き肉、パン粉、溶けるチーズ・・・。海人は何したいんだ?」

海人に問うてもニッコリ笑うだけで他の物もどんどんカゴに入れていく。

「カイくんご飯を作るつもりなんじゃないのかな?」

「作れるのか?」

「カイくん、お料理するの好きだったからね。そういうとこは身体が覚えてるんじゃない?何にせよカイくんのご飯はおいしいから食べれたら嬉しいな。」

「そりゃ、オレだって海人の手料理は食べたいよ。」

そんなやり取りを2人でしている間に買うものが揃ったのか海人が戻ってくる。支払いをして荷物を入れ終わると海人が何かを見つけて走り出した。

「海人、走ったら危ないって。」

追いつくと海人の手には『FORTNUM & MASON (フォートナム・アンド・メイソン)』のロイヤルブレンドを持っている。

「FORTNUM & MASON ってオレの好きな紅茶覚えてたのか?」

うんうんと頷く海人にやられたと手で額を押さえる。

「海人にはかなわないな。何でそんな嬉しい事してくれるかな。」

海人が愛しくて思わず抱きしめてしまう。頭にキスまで落としてしまった。

「ええっと。響夜さん、ここどこだかわかってますか?すっごく視線を集めてます・・・。」

「なんだ?そんな事かまわしねぇよ。海人がこんなに可愛いんだから仕方ねぇ。」

海人も嬉しそうに響夜に抱きついている。そのピンクに染まった頬を見れば何も言えなくなる。

「はいはい。わかりましたけどいつまでそうしてるんですか?カイくんのご飯食べれませんよ。」

「それはダメだ。海人、その紅茶買って帰ろうな。」

響夜を見上げて「うん」と頷く仕草も見惚れるほどで、それは響夜に限った事ではなくお店の人もそうだったようで、おまけに何やらたくさんの紅茶を付けてくれた。

「よかったな海人。」

そして家に帰ると海人は嬉しそうにキッチンに立ち料理をし始める。

ユウが言った通り海人は料理については覚えているらしく楽しそうに作っている。

そして出てきたのは玉葱と人参のコンソメスープにミモザサラダにハンバーグ。付け合せに人参のグラッセが形良く添えられていて、ご丁寧にクルソンまで色を添えている、ハンバーグにはマッシュルームをスライスして玉葱の細切りと炒めたものをデミグラスソースであえてある。かなり本格的じゃねぇか?

「すっごいおいしそうなんだけどぉ。相変わらずカイくんのお料理は目でも楽しめるね。」

「おわっ。ハンバーグの中からチーズが溶けだしたぞ。肉汁と相まってめちゃくちゃうめぇ。」

そんな2人の様子をニコニコと見ている海人。

「響夜さん、カイくんの和風ハンバーグも絶品ですよ。」

「何ぃ。ユウはそんなに海人の料理を食べてるのか。ちくしょー。海人っ。これからはオレのためにどんどん作ってくれ。」

「そんなことで妬きもちやかないで下さい。これからたくさん作ってもらえばいいじゃないですか。カイくんが作ってくれたらですけど?」

「なんかムカツクんですけど、その言い方っ。なっ、海人作ってくれるよな?なっ。」

「?」

「やーい。響夜さん振られましたね。カイくんはボクの方が好きなんですよ。きっと。」

「そんなはずねぇ。海人はオレの方が好きだよな?」

食事をするのも忘れて言い合う2人に次第に海人の表情が怒っているように見える。

「っとユウ。今はメシ食おうぜ。こんな上手いのに冷めたら台無しだ。ほら海人もちゃんと食べないと傷が治らないぞ。」

「響夜さんはほんとにカイくんの事がわかってるんですね。カイくんが怒ってるのにボクは気がつきませんでした。」

「ほら。くっちゃべってないで食べよう。」

響夜とユウが話をして海人は見ているだけなのだが海人はとても嬉しそうな顔をしていた。

「海人は薬をちゃんと飲まないとダメだそ。」

コップに水を入れ薬を渡すと素直に飲む。

「さて、ユウも帰ったし風呂に入って傷の消毒するか。」

相変わらず一緒に入らないと機嫌を損ねるので、武蔵も一緒に入ってもらう。

「仕方ないなー」と武蔵に思われているような気がするのは気のせいか・・・。最近、武蔵の哀れむような「ふっ」という鼻息をよく聞いている気がする。

3人での入浴は2人で入った時のような危機感はなく(響夜にだが・・・。)子供が風呂に入っているような感じで、それでもふとした拍子にみせる海人のほのかに香る色気や肌の白さ、艶は響夜を苦しめる。海人にその気がないからタチが悪い。黙り込んで耐えている響夜の傍に寄ってきて心配そうに下から見上げる海人を見れば押し倒したくなる。

「耐えろ。耐えるんだ響夜。」

ブツブツと念仏を唱えるかのように目を固く瞑っている。

「キョウヤ?」

(ああ、だめだ。海人の声を聞いたら耐えられねぇ・・・。)

「海人。キスしてもいいか?」

「?」

「キスって言ってもわかんねぇか。」

響夜は海人を抱き寄せると軽く唇と唇を触れるだけのキスをする。

「これがキス。でもオレが海人にしたいのはもっと大人のキス。愛してる人だからしたいと思うキス。」

海人はじっと響夜を見ている。海人の目には響夜が映っている。海人は静かに目を閉じて上を向く。

響夜はゆっくりと海人の唇に触れる。自分の唇が少し震えていた。今海人にキスをするのは卑怯なのかもしれない。海人は海人であって海人でないのだから。けれど海人を愛しいと言う気持ちは押さえがたく、海人の赤い小さな唇に触れたい衝動は押さえる事ができなかった。

触れて少し離れる。海人の様子を見て怖がるようであればやめなければいけないと思っていた。海人は目を閉じたまま動こうとしない。さらに強く唇を押し当てる。角度を変えて唇を重ね合わせ、下唇を啄ばむように甘噛みする。上唇もそうしたあと唇を舌で舐める。

海人の口が少し開いて「・・・あっ・・・」と小さな吐息が漏れる。目はうるみ、目元は薄く朱をおびて響夜を見ている。

「ヤバイって。ごめん海人。嫌だったか?」

これ以上はヤバイと何とか理性を取り戻し(息子はそそりたっているのだが・・・)海人に聞く。

海人は嫌じゃないと言うように頭を横に振る。

「そっか。海人が魅力的すぎてごめん、キスしちまった。さぁ、海人先に武蔵とあがって着替えておいで。オレは風呂の掃除をしてあがるから。」

海人が言われた通りに武蔵を連れて出て行くとほぉーーーーっと大きな溜め息が出る。

「武蔵と3人で入ってもこれかよ。やっぱ海人には一人で入ってもらわないとな。」

いまだに落ち着かない響夜自身を見ながらさっきの海人とのキスを思い出す。それだけで響夜は熱を放出してしまった。

「海人。オレは海人を抱きたい。でもそれは海人が海人を取り戻すまで、オレが海人にちゃんと好きだと伝えるまで我慢する。海人が欲しいから。」

気持ちと踏ん切りをつけるように深呼吸をして風呂掃除をはじめた。





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~ Comment ~

今は耐えどき 

うわー響夜くん試練やーw けど無理強いしないのは海人くんを凄く思いやってるからなんですよね。
このお話を読んでて本当に響夜くんは大人になった気がします。好きな人を全力で守ろうとする響夜くんんはカッコイイです。
海人くんは響夜くんの名前だけ声出すんですよね。きっと本心のあらわれなんでしょうね。求めている心が今は素直に出ているのかなと思います。
少しずつ癒されていますよね。もちろん響夜くんや周りの人たちのおかげで。

Re: 今は耐えどき 

音夜様こんばんは☆

はい。響夜めちゃくちゃ耐えてます。書いてて可哀想になるぐらい・・・。でもやっぱHって愛がないとダメやと思うんです。そりゃ男だから快楽があればいいのかもしれないけど、腐の私の求めるものはやっぱ愛しあってるからこそ感じるHなわけです。愛があるから心があるから感じるHなんです。だから相手の事を考えない自己中のHはアカンのです。気持ちよくない・・・。想像力がイマイチなんですよね。愛がないと。書いてて自分もその中に入り込めたらって上手には書けないんですが・・・。

響夜カッコイイっすか?かなり成長したと思います。包容力が出てきたかな。それぐらいじゃないと海人の相手は務まりません。すぐに落ちちゃう子ですから海人は。音夜様にカッコイイと言われて響夜は喜びまくりだと思います。そこで調子に乗らなきゃいいんですけどね。

海人も緩やかな時間の中でゆっくりと心のリハビリ中です。周りが良い人なので安心できるんですね。海人がうらやましいわっ。

さてもう一つの問題を片付けなければなりません。もう終盤に入っております。見守っていただけたらありがたいですv(〃☯‿☯〃)vあぃ!

音夜様コメ(。◕‿-) ありがとう ✿でしたっ☆
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