キミと空とネコと
キミと空とネコと113
「あーあ。いい天気なのに一人なんて・・・。」
海人は洗濯物を干してそのままベランダの手すりにもたれひとりごちる。
響夜は出掛けていていない。今日は高校の同窓会で帰ってくるのは遅くなるって言ってた。
この頃はいつも響夜といたから一人になるとすることがなくて困る。
「響夜がいないと何も出来ないなんてオレこんなじゃダメだよな。」
響夜が海人を一人にさせたくないのか何処へ行くにも付いて来るので一人でいるのは久し振りなのだ。
「武蔵はいてくれるけど・・・。一人で散歩でもしてこよっかな?そうだ買い物しとかなきゃ卵切れてたな。」
海人は一応響夜に言われた通りに『痴漢撃退スプレー』と『防犯ブザー』を荷物の中に入れる。
「てか、響夜ってどんだけ心配症なんだ?オレも言われた通りに持ってるし・・・。」
一人苦笑しながらも海人は久し振りに自転車に乗る。
「ああ、風が気持ち良いな。」
髪の毛や頬に風を感じる。初夏を思わせる陽気だ。響夜と出会う前はこんな風に季節を感じてただろうか?ふと思いながら一人の時でもいつも響夜の事を考えてる自分に驚く。
「オレこんなに一人の人を好きになったのなんて初めてなんだ。」
今更ながら響夜の存在の大きさを感じる。そしてだからこそ響夜がいないとダメな自分ではいけないんだと思う。
「オレ、ちゃんと仕事探さないといけない。いつまでも響夜に寄りかかってちゃダメだ。」
麗華に言えば又雇ってくれるかもしれないけど、ただでさえ迷惑を掛け通しなのにこれ以上甘えられない。
「オレってほんとに何にもないんだ。」
自分の能力のなさをつくづく感じる。
頭が良い訳でもない。愛想が言い訳でもない。体力がある訳でもない。特殊な能力もなければ特技もない。年齢だってもう26だ。いつの間にか海人はいつも昼食を食べていた公園に来ていた。
買い物をする気力もなくなり公園のベンチでぼーーっとこれからの事を考えるが何も浮かばない。
「あっ、又オレ携帯持ってくるの忘れた。けど響夜もいつ帰ってくるかわかんないし、きっと今頃は友達と楽しんでるだろうからオレに電話してくることもないからいいか。はぁ。オレはどうしたらいいのかな?響夜はこんなオレの事をどう思ってるんだろ?響夜がオレの事を好きでいてくれるのはわかるけど、このままじゃコウキの時と同じになるんじゃないのか?」
ふと思い浮かんだ事なのに全身に寒気が襲う。
「イヤだ。そんなのイヤ。響夜はコウキとは違うけど、それはわかってるけどオレのしている事はコウキの時と同じなんじゃないのか?」
いつもコウキが来てくれるのを待ってて、コウキだけしか見て無くてコウキのために何でもしていた自分を思い出す。
「やっぱりこのままじゃダメだ。」
海人が響夜に依存し、響夜も海人が傍に居る事を良しとしていたので響夜は海人のマンションで同棲しているような生活になっていた。
「好きだけど、ずっと一緒にいたらオレは響夜をダメにしちゃうんじゃないか?ただでさえ小説家をやめてしまっている。オレは響夜が傍にいるのが当たり前だと思っているけど、響夜は違うかもしれない。今はいいけどいつかは疎ましく思う時が来るかもしれない。響夜の事を疑うつもりは無いけど、人の気持ちなんていつ変わるかわからない。ましてや響夜はバイセクだ。女の人が相手なら、響夜がその人を選ぶならオレは縋るような事はしたくない。響夜には幸せになって欲しい。」
いつの間にか涙がぽとぽとと落ちてくる。
「あはっ。オレ響夜と出逢ってから泣いてばっかだな。・・・っく・・・。うっ・・・。でも響夜の事が好きなんだ。っう・・・。」
どれくらいそうしていたのかいつの間にか空が暗くなって来ている。
海人の目はさんざん泣いたためか赤く充血し腫れていた。
「もう夜になるんだ。武蔵のご飯しないと。」
そうは思うのだけど身体が動かない。身体が鉛のように重い。
「そういえばオレ今日は何も食べてない。水分も殆ど摂ってないし。何かヤバイ気がする。」
暑い日中からずっと水分も摂らずにいた。せめて水分だけでも飲まないといけないと思ってベンチから立ちあがっつたとたんに立ちくらみがしてそのままベンチに座りこむ。冷や汗が出てきた。
「オレ何してんだよ。一人で落ち込んで、こんなになって。携帯もないし。てか一人で何とかしなきゃ。誰かに頼ってばかりじゃダメだ。」
とりあえず座っているのもしんどくなってベンチに横になる。横になると少しマシだが冷や汗をかいたからか身体がゾクゾクする。自分の身体を抱きしめるようにするがそんな事で寒気が収まるわけではない。
「もうちょっとこのまま休んでれば少しは動けるようになるかな?」
その時、遠くで落雷の音が聞こえた。
「エッ雷?雨が振るのか?」
目を開けるとあんなに天気のよかった空が雨雲に覆われようとしている。
動けないでいるうちにポツポツと雨が降ってきた。
「これって最悪だよな。多分。」
雨脚はどんどん酷くなってくる。海人の口にも雨粒が落ちてくる。
「でもこれって水分補給になるのかな?」
夜の公園でしかも雨。こんなところに人が通るわけもない。
「ううっ。寒い。何か関節まで痛いし・・・。でも時間が経って少しは動けるかも・・・。」
何とか上体を起こすがそれ以上は動かせない。
「はぁ・・・。どうしよう。響夜が帰って来るまでには何とか帰らないと心配かけちゃうよな。とにかく何とかして通りに出ないと。タクシーつかまえないと。でもこんなずぶ濡れでも乗せてくれるのかな?」
それから30分ほどかけて何とか通りに出てきたけどもう立ってる事も出来なかった。その場に座りこみ足を投げ出して空を見上げる。
「あ、武蔵のご飯・・・。やっぱり携帯がないって不便なんだな。公衆電話もないし。」
意識が遠のきそうになりながらも何とか意識を保とうとする。
「これってタクシーよりも救急車?今何時くらいかな?響夜はもう帰ってきてるかな?まだだといいんだけど・・・。」
通り雨だったのか雨は止んでいた。
「あっ、雨止んだんだ。」
ぼおーーーっとする意識、熱が出ていることは確実で身体がやけに熱く感じる。
「んっ。ダメだ。オレ頑張れっ。帰らないと・・・。」
フラフラと立ち上がると通りに向けて物を伝いながら歩く。歩くといっても一歩踏み出すのに何分もかかるのだが・・・。数歩歩いては立ち止まり休むことを繰り返す。
「通りまでこんなに遠かったっけ?」
かすむ目をこすり意識を保つが限界が来ていた。
「はぁはぁ・・・。」
息をするのも苦しい。こんな時でも響夜を頼ろうとしてしまう。
「響夜助けて・・・。」
壁に手をつき身体を支える手が崩れて前のめりに倒れる。
「オレ倒れちゃうのか。ごめん響夜帰れそうにない。」
「海人っ!!」
「あれっ?オレ倒れてない・・・。」
海人の身体は力強い腕に支えられていた。
「夢見てるのかな?オレが響夜に助けて欲しいって思ったから。」
「夢じゃない。心配させるなよ。」
「・・・響夜・・・おかえり・・・。ごめ・・・。」
「バカかっ。何が『響夜おかえり』だっ。」
「響夜・・・。寒い・・・。」
結局オレは響夜に助けられるんだ。自分では何一つ出来ない。情ないと思う自分と響夜に縋りたい自分。力強く抱きしめてくれる響夜の腕はやはり心地よくて離したくないと思う。
「響夜好き・・・。一人で何も出来ないオレでごめん・・・。」
「海人っ。」
そのまま海人は響夜の腕の中で意識を失った。
*:..。♡*゚¨゚゚・*:..。♡*゚¨゚゚・*:..。♡*゚¨゚・*:..。♡*゚¨゚゚・*:..。♡*゚¨゚゚*:..。♡*゚¨゚゚・*:..。♡*゚¨゚゚・*:..。♡*゚¨
いつも読んで下さってありがとうございます。海人はグルグルしております。幸せの裏にあるものに怯えています。幸せ過ぎて失うのが怖くなってます。前にも同じように悩んでいたくせに響夜の手の中が心地よすぎて以前以上に怯えてしまう海人なのです。自分に自信を持てないようです。もうすぐこのお話も終ります。よければそれまでお付き合い下さいませ。
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~ Comment ~
Re: ( *´艸`) ぽっ‥甘甘‥いいじゃないのぉ
ハル様こんばんは☆
今日は眠れそうになくいろんなページを見ていました。
好きな人には嫌われたくないから自信をなくす事もあるんだと思っています。
海人には響夜がいるからいいなって自分で書きながら思っています。
好きな人が好きでいてくれるって幸せですよね。無くして後悔しても遅い。だから海人にはそうなって欲しくないと思っています。
不器用なりにも少しずつ進んでいく2人です。まあ海人が不器用すぎるのかもしれません。
響夜に支えられるだけでなく響夜を支えたいのに何もできないと思ってしまう。響夜は海人に十分支えられてると思ってるのにね。
いつの間にか100回を超えてしまった『キミ空』ですが早かったようなそうでないような・・・。終りが近づいているから少し淋しい気がします。
2人で支えあっていける海人と響夜になって欲しいと思います。
ハル様コメありがとうございました☆
今日は眠れそうになくいろんなページを見ていました。
好きな人には嫌われたくないから自信をなくす事もあるんだと思っています。
海人には響夜がいるからいいなって自分で書きながら思っています。
好きな人が好きでいてくれるって幸せですよね。無くして後悔しても遅い。だから海人にはそうなって欲しくないと思っています。
不器用なりにも少しずつ進んでいく2人です。まあ海人が不器用すぎるのかもしれません。
響夜に支えられるだけでなく響夜を支えたいのに何もできないと思ってしまう。響夜は海人に十分支えられてると思ってるのにね。
いつの間にか100回を超えてしまった『キミ空』ですが早かったようなそうでないような・・・。終りが近づいているから少し淋しい気がします。
2人で支えあっていける海人と響夜になって欲しいと思います。
ハル様コメありがとうございました☆
- #203 † Rin †
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- 2012.05/21 03:21
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( *´艸`) ぽっ‥甘甘‥いいじゃないのぉ
分かりますよ、好きな相手と結ばれて‥
相手は優しい‥かいがいしく務世話を妬いてくれる。
なにもしなくても痒いところにまで手が届く感じで。
自分、大丈夫か?
自分の脚でたってるか?
って思うこともあります。
誰と居ても自分であることが大切なのですね。
でも不器用なひとはいる訳で。
心の問題を考えるのが苦手なひと‥
考えすぎて心が悲鳴をあげちゃうひと。
つまりカイくんですが。
急がなくていいのですよね。
ゆっくりお互い、寄りかかることなく対等な立場になる―
甘えすぎ、いいじゃない。
今はまだリハビリの途中んですから。
考えすぎずに甘甘で参りましょう!
甘ったれるのと甘えるのは少し違うのでしょうが、
そんなに自分に厳しくしないでね、カイくん
もうすぐ大団円ですか。
終りよければすべてよしですね。
また参ります(^v^)