キミと空とネコと

キミと空とネコと116

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響夜が佐久間書房の社長から預かったという封筒を受け取る。

B5サイズの茶封筒に入っていた書類を読むけど意味がわからない。

「響夜どういう事なんだろ。契約書とか入ってる。」

「ん?見せてみろ。」

響夜はその書類を読み返す。

「ああ、そうか。海人わかった。これ仕事の依頼だ。」

「佐久間書房がオレに仕事の依頼?そんな訳ないよ。オレ小説とか書けないし。」

「バーカ。誰が小説家って言った?小説家って大変なんだぞ。人に読んでもらえるような作品を素人がすぐに書けるわけないじゃん。みんなが書けたらオレ凹むわ。」

「じゃ、何の仕事だよ。オレ社長の顔も知らないぞ。」

「『激流』だよ。あれがきっかけ。」

「『激流』がきっかけ?」

「海人にあの字書いてもらっただろ。一発OKだっただろ。すごく評判よくてさ、名もない、書道家でもないのにみんな一目で気に入ったんだ。『字は体を現す』って言うじゃん。オレの『激流』をまさしく表現してるって・・・。で、社長もそれを見て気にいってたんだよ。それで海人にオレだけじゃなく他の作家のタイトルの文字も書いてくれないかって仕事の依頼だ。」

「オレの字でいいの?」

「海人の字がいいんだろ。」

今まで役に立たないと思っていた書道が認められた・・・。

「海人は作品を読んでそれを表すことが出来るんだ。立派な特技じゃないか。」

「オレの特技・・・。」

「そうだ。海人の特技。実際に海人の字を見た何人かの編集者が海人を指名してるらしい。海人はどうなんだ?やってみたいのか?」

「・・・やりたい。響夜、オレこの仕事やりたいっ!!」

「まあ、海人は書道家じゃないからいつもこの仕事があるわけじゃないぞ。不安定な仕事だ。その作品を読んで作者が求めている字を書くって大変な労力かもしれない。一度引き受けたら求める字が書けるまで書かないといけないぞ。出来るのか?」

「失敗するかもしれないけど、字を書くのも本を読むのも好きなんだ。やってみたい。」

「じゃ、やってみろ。」

響夜は海人の頭をグリグリなでて「よかったな」と言ってくれる。

海人も嬉しかった。自分を認めてくれる人が身内以外にもいることが海人の自信へとつながっていく。

海人は自分で佐久間書房の社長に連絡し、一人で契約に行く。

「やっぱりオレがついて行こうか?」

「いらない。何で響夜がついてくる必要があるんだよ。これはオレの仕事の事なんだからオレがする。響夜は響夜の仕事をして。」

「社長に言い寄られても拒否しろよ。『痴漢撃退スプレー』と『防犯ブザー』持ってるか?」

「響夜しつこい。ちゃんと持ってる。」

「携帯は?」

「もう。持ってるってば。じゃ行ってくるから。」

「終ったら電話してくれよ。」

「わかった。」

響夜はほんとに心配症だ。父さんみたいだ。

佐久間書房の受付で名前を告げると社長室に案内される。本当なら社長が会う事じゃないと思うけれど、響夜絡みだからかな?

社長はとても穏やかな人で、オレは緊張しながらも話を聞いて契約をする。まあ、正社員になるわけでもないし、いつも仕事があるわけじゃなく、依頼があった時だけだからそんなに仕事になるわけではないかもしれないけど、今日はすでに3つも依頼が来ていた。響夜の『激流』はすごく売れているらしく、その表紙も自然と人の目にとまるわけで・・・。誰の字かって少し話題になったらしい。こんなこともあるんだな。素人なのに。

社長に素人の字なのにいいんですか?って心配で聞いたら、素人も玄人も関係なくこの字体がいいんですよって言ってくれた。

1件のタイトルを書くごとに収入がある。でもオレには1件でどれぐらいの収入が見合っているのかさっぱりわからない。『激流』の字体は響夜が全部してくれたからオレは知らない。金額は社長にまかせて契約書にサインする。響夜が信頼している人だから大丈夫だろう。

「高瀬さんは杉野先生の知り合いだからと言うわけではありませんが、ちゃんと仕事に見合った金額を渡しますよ。じゃないと杉野先生に何をされるかわかりませんから。」

社長は苦笑しながら響夜が小田切の事でぶちぎれて困ったんだと教えてくれる。佐久間書房で響夜が書くのをやめても社長と響夜は良い関係を保っているらしい。

契約後、3つの作品を渡される。

「しっかり読み込んで書いてください。本になるのはまだ先ですが出来るだけ早く決めたいので、2週間で書いてもらいたいのですが出来ますか?」

「わかりました。出来る限り読み込んで気にいってもらえる文字が書けるように頑張ります。」

「私も楽しみにしていますよ。」

社長室を出て、ほっとすると同時に嬉しくてニンマリしてしまう。作品を大切に胸に抱えビルを出ると響夜が立っていた。

「響夜。迎えに来てくれたの?」

「家でじっとしてられなくてな。大丈夫だったか?」

「うん。大丈夫。一人でも出来た。社長が良い人でよかったよ。」

「ああ、ここの社長は信頼の置ける人だからな。よかったな海人。」

「うん。締め切りは2週間後だから作品を読みこまないと。」

「ああ。オレも応援するよ。」

「と言うわけで、響夜は2週間は響夜のマンションに帰ってね。」

「なんでだよっ。」

「当たり前だろ。他の作家の話を読むんだ。響夜には見せられない。」

「マジかよ。」

「マジです。部屋がないんだから仕方ないだろ。」

「オレ2週間も海人に触れなかったら死んでしまう。」

「そんな事で死んだりしないよ。」

「海人は冷たい。」

「そこで拗ねないの。」

「部屋が分かれてあったらいいのか?」

「そりゃね。ちゃんと分かれてたらいいけど。」

「じゃあ、引越しだ。」

「は?そんな金オレにはありません。それに部屋を探す時間もないだろ。オレは今日からでも読み込みを始めるんだから。」

「家ならある。オレの実家。」

「実家って聖夜さんが住んでるとこ?」

「そうだ。無駄に部屋はあるから問題ない。」

「問題ないって聖夜さんに聞かないとわからないだろ。」

「じゃ今聞く。それで聖夜がいいって言ったらすぐに引越しするぞ。」

「響夜は言い出したら聞かないもんな。聖夜さんにちゃんと了解もらえたらだからな。」

響夜はさっそく聖夜さんに電話すると聖夜さんは一発OKを出す。

「何か聖夜嬉しそうだった。早く引っ越して来いってさ。」

「武蔵もだけど大丈夫なの?」

「大丈夫。聖夜はネコが大好きだから。」

「でも、引越ししながら仕事なんて器用な事オレ出来ないよ。」

「まずは必要な着替えとかだけ持っていけばいい。武蔵も一緒に。で、仕事が終ったら本格的に引越しすればいいじゃん。」

「響夜は実家はイヤじゃないの?」

「海人と一緒ならいいんだ。聖夜と2人きりになるのがイヤだっただけ。うるさいから。いちいちオレの行動に文句つけるんだぜ。イヤにもなるだろ。でも海人がいたら聖夜も海人には甘いし、オレに被害が及ぶ事ないからな。」

「響夜がいいならオレはそれでいいけど、もし武蔵が嫌がったらダメだからね。ネコは家につくって言うから気にいらなかったら不可だよ。」

「わかってるよ。でも武蔵も気に入ると思うぜ。なんたって広いから散歩し放題だし、高い所に登りたい放題だ。」

「じゃ、マンションに帰って武蔵に話して行ってみよう響夜。」

「おう。」

早速マンションに帰り、荷物をまとめ武蔵を乗せて響夜の実家に行く。確かにでっかい家だった。庭まで広い。ガーデンパーティとか出来る大きさだ。バーベキューも出来るよって聖夜さんは言ってた。聖夜さんは仕事を切り上げてオレ達が来るのを待っていてくれた。

響夜の部屋はもともと自分の部屋がある。雪夜さんの部屋もあって雪夜さんはたまに泊まっているらしい。

オレの部屋は響夜部屋の隣のゲストルームをあてがわれる。家具とかもすでにあるので持ってくるのは着替えだけで済みそうだ。今のマンションより広いんじゃないかと思う。武蔵は早速部屋の探検に余念がない。しばらくウロウロして気に入ったのか出窓のところでくつろいでいる。

「武蔵も気に入ったようだし決まりだな。」

「聖夜さん、突然ですいません。」

「カイくん気にしないで。いいんだよ。むしろ大歓迎だ。こんな広い家に一人だなんて寂しすぎるし、何よりカイくんが一緒なのが嬉しいよ。」

そういってオレを抱きしめ頬にちゅっとキスを落とす。

油断してた。そうだ聖夜さんはこんな事を平気でする人だった。

「やめて下さい」と言おうとした時・・・。

「あーーーーーっ!!聖夜オレの海人に何してんだよ。ダメだ。聖夜は海人に触れたらダメっ。聖夜にはアキがいるだろ。海人はオレしか触っちゃいけないのっ!!」

あわてて聖夜の腕の中からオレを引き剥すと自分の腕の中に抱きしめる。

「いいじゃないか。アキはつれないんだ。一緒に住もうって言っても仕事場から近すぎるって言ってなかなか来てくれないし・・・。」

「だからって海人に触れるな。アキに言いつけるぞ。」

「それはちょっと困るかも・・・。わかったよ。響夜が居ない時に触れる事にする。」

「だーかーらーっダメだ。オレがいようがいまいが聖夜が海人に触れるのは禁止っ!!」

2人のやり取りが面白くて吹き出してしまう。聖夜は冗談で言ってるのに響夜は必死なんだ。

「響夜、聖夜さんは冗談で言ってるんだって。」

「おや?カイくん。冗談なんかじゃないですよ。オレは本気です。」

「ええっ。それは困りますっ。オレが好きなのは響夜ですから。聖夜さんも好きですけど、家族としての好きで響夜の事は愛してるから・・・。」

必死で言うオレを2人は優しく見つめて・・・。

「ふふっ。カイくんわかってますよ。響夜を愛してくれてありがとう。今日からよろしくね。」

「海人。ありがとな。オレも愛してるぜ。これからもよろしくな。」

何だかオレ一人があたふたしてたのか・・・。この兄弟恐るべし。

少し溜め息が出た。オレやっていけるのか?


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いつも読んで下さってありがとうございます。残すところあと1回。次が最終話です。よろしければ最後までお付き合いくださいませ。



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