キミと空とネコと117（最終話）

それからの2週間は楽しくあわただしく過ぎた。

日中は作品を読み込みタイトルのイメージを膨らませて書く事に専念する。その間は部屋にこもりっきりになるので響夜は拗ねていたのだが、夜は響夜の部屋のベッドで一緒に寝る事で渋々了承してくれる。響夜もオレの仕事の邪魔にはなりたくないとは思っているらしいのだが、傍にいて触れられないのがイヤなんだと子供のように言う。

夜の営みも響夜なりに我慢してくれている。オレだって響夜と一緒に一つのベッドで眠るのだから響夜と繋がりたい。ダメだと言っても押さえきれない時もあってそんなときは繋がるのだけれど、1回だけと響夜に釘をさす。じゃないと意識を手放すまで響夜はオレを離してくれないから。オレもそれが嫌じゃなくて響夜を求めてしまうから。だから最初にそう決めた。響夜はオレの意思を尊重してくれている。ただし、この仕事が終ったら一日中ずっとベッドで過ごすことを約束させられたけど･･･。

食事は雪夜さんが来て作ってくれたり、アキが店の残りを持ってきてくれたりして、仕事に専念出来る環境を整えてくれた。

2週間後に出来た作品を佐久間書房の社長に見せる。何も言わずに持ってきたタイトルの文字を難しい顔で見ている。やっぱりオレの字じゃダメなのかな？って思った時に数人の人が社長室に入ってきてオレの作品を見る。

「うん。やっぱり私の目に狂いはなかったね。」

社長が微笑んでオレを見る。

「すごいですよ。ほんとに素人なの？タイトルだけでこの話が見えるようだ。」

「オレの思ってるものと違ったら即断ろうと思ってた。素人が書くと聞いて期待していなかったけど、悪かった。すごいよ。タイトルに命を吹き込んでくれたよキミは。」

見る人見る人が褒めてくれる。オレは嬉しくて嬉しくて･･･。

「高瀬さん、これで行きましょう。編集者も作家も気に入ったようです。」

「ありがとうございます。」

仕事が認められたことが嬉しくて達成感でいっぱいになる。

「高瀬さん、また仕事をお願いすることになると思います。よろしくお願いします。」

「はい。こちらこそお願いします。」

「高瀬さんの書いたものは評判になっていくと思いますよ。それにつれ私ども以外でも仕事が来るようになると思います。それほどあなたの書く文字は生きている。素晴らしいです。だから思いっきり書いて下さい。」

「はい。ありがとうございます。」

気分が高揚したままビルを出る。

オレの作品が認められたんだ。良かった。

ビルを出た先にはやっぱり響夜がいて･･･。

「海人、お疲れさん」

思わず響夜に飛びついてしまう。

「オレの作品が認められたんだ。これからもよろしくって。素晴らしいって。タイトルが生きてるって言ってもらえたんだ。響夜オレ嬉しい。」

嬉しくて涙が溢れる。前まではキレイな字と褒められても何とも思わなかったのに、今は書道をやっていて良かったと思う。続けさせてくれた両親に感謝する。

「書道を続けさせてくれた父さんや母さんに感謝しないと。」

「そうだな。電話して伝えてやれよ。」

「うん。今から電話してもいい？響夜傍にいてくれる？」

「ああ。」

オレは実家に電話する。久し振りに実家のナンバーを押す。最初は緊張して掛けたのに切ってしまった。深呼吸して再び電話する。

「･･･あの･･･オレ･･･。」

「海人？海人なの？海人が電話してくれるなんていつぶりかしら。」

電話口の向こうで涙声になる母さんにオレも涙がこみあげる。

「母さん、オレに書道を続けさせてくれてありがとう。」

「どうしたの？急に。」

「母さん、オレの字が本の表紙に使われるんだ。もうすでに響夜の本で出てるんだけど、そうじゃなくて他の作家の本でも採用された。仕事として･･･。」

「響夜さんの本って『激流』？」

「そうだよ。」

「やっぱりあれ海人の字だったのね。」

「母さん見たの？」

「お父さんが本屋で見つけて買ってきたの。この字は海人の字に似てるなって。」

「そうなんだ。父さんもオレの字がわかるんだ。」

「当たり前よ。あなたの書道の作品まだちゃんと残してるのよ。」

傍で聞いていた響夜が「よかったな」と頭をなでてくれるので涙がポトリと落ちた。

「じゃ、その本が出来たら母さんに贈るよ。」

「ありがとう海人。母さんほんとに嬉しいわ。」

ちゃんと普通にしゃべれるか心配してたけど、母さんと普通に話せた。わだかまりがないって言ったら嘘になるけど、それでもこの前まで音信不通だったんだ。自然に話せるのは傍に響夜がいてくれてるからかもしれない。

「海人。お父さんにも伝えておくわね。だけどお父さんも海人から聞きたいと思うわ。海人さえイヤじゃなければ響夜さんと遊びに来ない？」

「考えとくよ。今日は報告したかったから電話した。」

「何もなくてもいつでも電話してきてね。」

「うん。わかったよ。じゃ。」

電話を切って響夜を見る。優しくオレを見る目が『愛してる』って語ってくれているようで･･･。

「響夜愛してる。」

気がついたら声に出して言っていた。

「ああ、オレも海人を愛してる。」

見つめ合い2人の視線が絡まるとそこはもう2人だけしかいなくて、往来の真ん中なのにオレ達は口付けを交わしていた。深い口付けではなかったけど、お互いの熱を唇から感じる。

「海人、家に帰ろう。海人が欲しい。」

「うん。オレも響夜が欲しい。」

誰が見てようが構わない響夜にオレは卑屈になることはないんだと思う。響夜がいる限り。

オレ達は男同士で非生産的な関係で、普通の人達からみればいびつで許されない関係なのかもしれないけれど、愛してるという気持ちは変わらない。オレ達は誰よりも愛し合っている。オレは響夜とならこの先もずっと2人で進んでいけると思う。途中でケンカしたり迷うこともあると思うけど、響夜となら大丈夫だ。お互いに支えあって生きて行く。それが嬉しい。

家に帰ると服を脱ぐのももどかしくお互いを抱きしめ求め合う。何度も口付けを交わし、何度も交わる。

「愛してる」とお互いに言いながら･･･。

生きていれば良い事がある。幸せはやってくる。だから諦めないで。

愛し、愛されるために人は生まれてくるのだから･･･。

ベッドの上で重なり合い抱きしめあって眠る二人に優しい月光がさしていた。もちろんそばには武蔵も寝ている。

明日もきっと晴れるだろう。

眠っている海人が微笑む。どんな夢を見ているのか。

きっと先の未来も響夜と武蔵と愛しあって過ごすそんな穏やかな日々の夢。

「響夜愛してる。」

海人の小さな寝言が聞こえる。それに答えるかのように抱きしめている響夜の腕に力がこもり海人を抱きよせる。

海人の左の薬指には響夜が贈った指輪が月光に照らされ青い光を放っていた。



　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　Fin



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読んで下さってありがとうございます。『キミ空』最終話を迎える事が出来ました。いろいろなコメントやぽちして下さった皆様、読んでくださった皆様、本当にありがとうございました。100話を超える長期連載となり、途中いろいろと落ち込むこともありましたが、こうして最終話を迎えられたのも皆様のおかげです。3万Hitも超えることが出来ました。拙い文章にお付き合い下さいまして感謝です。次回の作品もお付き合いくだされば嬉しいです。皆様が幸せでありますように･･･。



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