たとえこの世の終りが来ようとも

たとえこの世の終りが来ようとも2

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もうすぐ朝のホームルームが始まる時間ギリギリに聖蓮は教室に入る。

それまで騒がしかった教室は、聖蓮が来た事により突然静寂が訪れたかと思えば、あちこちでヒソヒソと囁く声が聞こえる。みんなの視線は聖蓮に注がれている。

聖蓮はその絡みつくような視線の中を窓際の一番後ろの席に向かって歩く。

(いつもの事だけど、やっぱり居心地が悪いな。)

心の中で大きな溜め息をつきながら思う。

聖蓮は自分が他の人と違う事を身を持って知っているので友人は作らない。というより作れない。聖蓮の力については幼い頃から人前では見せなくなったので知っているものは少ないと思うのだが、こうも誰も聖蓮に近寄ろうとしないのだから誰もが知っているのではないかと思ってしまう。しかし、クラスメートが聖蓮を見るのはそんな理由からではない。聖蓮の歩く姿に、その容姿に魅入られて目が離せないでいる事に気がついてはいない聖蓮なのだ。

長めの黒い前髪で隠されている目は長い睫毛に縁取られ、大きな瞳は潤んで見える。小さな唇は赤く熟れたさくらんぼのようで、姿勢よく歩く姿は爽やかな風が通り過ぎて行くかのよう。透明な清い衣を纏っているかのように聖蓮の周りの空気は清らかで他の者が近寄る事を許していないかのように思える。滅多に登校しない聖蓮に話掛けたくても誰一人として聖蓮に話しかける勇気のあるものはいなかった。ただ一人、凌駕を除いては・・・。

「昨日はありがとう。迷惑掛けてごめんね。凌駕。」

「オレに話掛けんな。迷惑だと思うならちゃんと学校に来い。」

「出来るだけそうする。先生には凌駕に言付けないようにお願いしておくから。」

「ああ。」

凌駕はもう聖蓮と話す事はないと言うように背中を向ける。

聖蓮は自分の席に座ると頬杖をついて空を眺める。

(空が高いな)

ずっと見ていたら空に飛んで行けそうな気がした時に本鈴が鳴り、ガラガラと戸を開けて担任が入ってくる。

「おっ。篠宮やっと来たか。篠宮は今日の終りのHRが終ったら職員室に来るように。じゃあ出欠をとるぞ。」

担任は聖蓮に告げると朝のHRを始める。

「途中で帰ろうと思ってたのにな。これじゃあ授業が終るまで帰れない。」

ぼそっと小さな声に反応した久遠が机に現れる。

「ダメだよ。久遠出てきちゃ。誰も久遠は見えないと思うけど今はダメ。後で遊んであげるからね。」

久遠の目を見て頭の中で話しかけると久遠はスッと姿を隠した。

再び空を見上げる聖蓮だったが、その様子を凌駕が嫌そうな顔をして見ていたのには気がつかない。

凌駕は聖蓮の2つ隣の席で、何気なく聖蓮を見た時にその様子を全部見ていたのだ。

聖蓮は知らないのだが、凌駕には久遠が見える。何故かはわからないが久遠が見えるのだ。凌駕が久遠の存在に気がついたのはずいぶん前の事なのだが、その事を誰にも言ってない。凌駕にとっては久遠が見える事も嫌な事だった。聖蓮に関わるとロクな事がないの事を小さい頃に経験した。だからもう聖蓮には関わらないことに決めている。久遠の事も見えないふりをして聖蓮との関わりを断つのだ。凌駕はそれきり聖蓮の方を見なかった。凌駕にとって聖蓮はいなかったらいなかったで、いたらいたで迷惑にしか思えない。聖蓮もそんな凌駕の気持ちを知ってるからか、よっぽどの事でも無い限り話かけることはない。

学校での聖蓮は口を開くことは滅多になかった。必要最低限の言葉しか発しない。まあ家での聖蓮も同じようなものなのだが・・・。

午前の授業が終り、クラスメート達はそれぞれ仲の良い者達でお弁当を広げたり、学食へ行ったりして昼食を食べる。聖蓮は一人お弁当を持つと教室を出て行く。

聖蓮が歩く度にいろんな視線が絡みつくのがわかる。それに気がつかないふりをして聖蓮は足早に歩く。

学校で唯一聖蓮が落ち着ける場所は旧校舎の屋上だった。

旧校舎は古く近々取り壊される予定で立ち入り禁止なのだが聖蓮は高校1年の時に偶然中に入れる扉を見つけた。何故かそこは鍵がかかっておらず中に入る事が出来る。知っているのは聖蓮だけなのか未だに誰かにかちあった事がない。取り壊す予定だが予算がおりないのか現在もそのまま旧校舎は残っている。聖蓮にとっては古かろうが一人で心地よく過ごせる空間なのだった。

「久遠もう出て来てもいいよ。」

屋上に着き、聖蓮が声にだすと久遠が出てくる。

「久遠、教室では出てきたらダメだよ。出て来てもいい時はちゃんと呼んであげるからね。」

自分で作ったお弁当を広げる。家では家事一切は聖蓮の仕事なのでお弁当も自分で作る。祖父用にも作って置いているが祖父が食べてくれることは滅多にない。それでも毎日聖蓮は祖父のためにお弁当を作る。祖父はお弁当を要るとも要らないとも言わないからだ。一度作らずに学校に行った事があったのだが、その日はずっとお弁当を作らなかった事が気になって仕方がなかった。学校から帰ってから祖父は何も言わなかったのだが、それ以来毎日学校に行く日はお弁当を作っている。

「久遠一緒にお弁当を食べようか?」

聖蓮はお弁当の蓋に久遠の食べる分を乗せ一緒に食べる。

「青い空の下で食べると気持ちいいね、久遠。おいしい?」

「おいしいよ。聖蓮、今日の卵焼きは出し巻きだね。」

聖蓮の頭の中で声がする。久遠はこうやって聖蓮に話しかけてくる。久遠は人間の言葉を理解し、話掛ける事が出来る。他の人に久遠の声が聞こえるのかどうかは聖蓮にも久遠にもわからない。だって久遠が見える人に出会った事がないのだから・・・。

昼休みが終り午後のHRが終ると聖蓮は職員室の担任の所へ行く。

「あのなぁ篠宮。オマエ卒業したらどうするんだ?大学行くのか?この時期で決まってないのはオマエぐらいなもんだぞ。3者面談も残ってるし・・・。」

「その事ですが3者面談に祖父が来る事はないので無理です。祖父が大学に行ってもよいと言えば進学したいのですが、ダメと言われたら神社を継ぐ事になるので就職する事はありません。申し訳ありませんが大学についてはまだお返事のしようがありません。」

「はあ。そうか。お爺さんって『篠宮 庄之助氏』だよな。オレからは何とも言えん。一介の平教師が介入することはできんからな。篠宮も大変だろうが、決まったらすぐに教えてくれ。オマエの成績ならどこだって大丈夫だろうからその心配はしてないんだ。」

「わかりました。決まりましたら先生にお伝えします。」

「ああ。頼んだぞ。」

「それと先生。」

「何だ、まだ何かあるのか?」

「あの、オレへの連絡を八神くんにお願いするのはやめてもらえませんか?八神くんに迷惑掛けたくないので、電話して頂くかFaxで送って欲しいんです。お願いします。」

「八神を使うほうが伝わりやすいし、篠宮も無視しないから八神に頼んでたんだがマズイのか?」

「はい。八神くんもオレとは関わりを持ちたくないのはみんなと同じですから。だからよろしくお願いします。」

「オマエは学校でも家でも一人ぼっちじゃないのか?それでいいのか?」

「先生。オレにあんまり関わらないほうがいいですよ。先生は他の都市から来たからわかってないだけです。『篠宮』という家を。オレが一人なのはいいんです。先生や八神くんに迷惑を掛ける方が心苦しいのでお願いします。」

「わかった。篠宮がそこまで言うなら八神に頼むのは止めるよ。でも篠宮と関わるなって言ってもオマエはオレの担任しているクラスの生徒だからなあ。」

「先生もそのうち他の先生から聞くと思いますよ。なんなら教頭先生や校長先生に聞いて見たほうがいいです。先生がその話を聞いてオレと関わりを断ってもオレは何とも思いませんから大丈夫です。ではお話がそれだけなら失礼します。」

まだ何か言いたそうな担任を残してキレイな姿勢でお辞儀すると職員室を後にして下駄箱で靴を履き替える。

外にでると真っ赤な夕焼けが目に映る。

キレイな空。でも今日の夕焼けは赤すぎる。まるで血の色のよう。

「久遠、今日当たりは裏山に行って見よう。こんな夕日の日は異界の者が紛れ込みやすい。」

胸の勾玉が点滅するかのように光る。他の人には点滅しているようには見えない。力のあるものだけが見えるのだ。

「やっぱり出てきているようだよ。久遠急ごう。」

高校の裏手にある山道を急ぐ。あちらこちらにお地蔵さんが建っているのは、昔ここで大飢饉があり人柱として何人もの小さな命を生贄にし、その子供達の魂を弔うために建てられたためらしい。

山道の奥の方は木々が鬱蒼と茂り、太陽の光も届かず禍々しい空気が立ち込めている。

一段とその空気が重くなっている場所にその者がいた。

「あなたはこの世界のものではありませんね。迷われたのですか?」

聖蓮は優しく声をかけるが返って来たのは振り上げた拳だった。









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~ Comment ~

連コメ失礼いたします(^v^) 

連コメ失礼いたします~

なんか‥悲しい‥
凌駕くんて‥そんな子ですか?
ロクなことが無かったから近付かないように?
だったら聖蓮くんが可哀想‥

でもきっと彼と関わるようになるのですね。
本当は友達思いの優しい子だと思います。
そして‥普通の子じゃない。
彼も不思議な力を持っているのですね。

でもクラスの中の彼の位置と言うか、
彼自身が誰にも迷惑をかけたくないと思っているから
避けているのでしょう。
苦しいとか、辛いとかよりも
‥それがさだめだと思って生きているのですね。

これからなにが起きて行くのか、
どう動いて行くのか楽しみにしております。

お邪魔いたしましたm(__)m

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Re: 連コメ失礼いたします(^v^) 

✿ฺ(pq◕ฺ∀◕ฺ*)キャ♬ハル様連コメありがとです゚.+:。(〃ω〃)゚.+:。

凌駕はちょっと訳ありです。いい子なんですよ。幼馴染ですしね。少しひねくれてますが・・・。
おいおい出て来ますので。凌駕もキーポイントなので・・・。

何処まで頭の中の世界を表現出来るか心配でもありますが、うちの子達は自由に動き回ってくれることと思っております。

陰陽師にはこだわらないことにしました。ホントはそうしようかとも思ったのですが、ちゃんとした知識もないので・・・。陰陽師は現在でもいらっしゃるし、間違った事を書きたくないので・・・。それにどうしても陰陽師を意識すると『安倍清明』が出てきてしまって・・・。

あくまで頭の中のファンタジーですのよっ(゚m゚*)

ではでは、又遊びに行きますね。ハル様コメありがとでしたv(。・ω・。)ィェィ♪

Re: タイトルなし 

R様ありがとです(。ゝ(ェ)・)-☆ CнЦ

アヤカシも登場しました!!闘うシーンも出てきますがBLですからそんなお話も織り交ぜつつ進んで参ります。

聖蓮の事を心配してくれて・・・。聖蓮は幸せ者です。今は1人(久遠はいますが・・・)ですが、ちゃんとお仲間出来ますので見守ってください。

ありがとうございました(★’ω’o%)pq⌒Y⌒♫*。
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