たとえこの世の終りが来ようとも

たとえこの世の終りが来ようとも7

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聖蓮は制服に着替えていたが学校に行こうか行くまいか迷っていた。

何だか行く気がしない。

気がつくと、学校とは反対方向にある森の中を歩いている。

「あっ。森の中に来ちゃった・・・。」

ふと何かの気配を感じ立ち止まる。この世の者ではない気配。

すぐ横の木の影に一つ目の小さな異界の者が立っていて聖蓮の顔を見ている。

「・・・カエリタイ・・・カエリ・・・タイ。」

「自分達の世界に戻りたいの?」

コクコクと頷く異界の者に邪気は感じられない。少し覗いて見るつもりでやって来て帰れなくなったのだろう。

「アナタの世界に戻りなさい。」

聖蓮が言霊を乗せ印を切ると異界の者の身体は小さな光で包まれ消えていく。

「・・・アリ・・・ガト・・・ウ・・・」

小さな声が聞こえてその場は静寂に包まれ光は消えていく。

聖蓮の足に尻尾を絡ませる久遠も心なしか嬉しそうだ。

「いつもあんなだったらいいのに。」

「そうだね。でも人間の欲や憎しみの気に煽られてしまうんだよ。こっちに来ちゃうと。」

「人間には感情があるからね。特にこの世界は負の感情が溢れてるから。」

「そうだよ。負の感情を餌に異界の者は変わって行く。さっきのはまだこっちに来て間がないんだろうね。だからすぐに帰れた。聖蓮の心が清めたんだ。」

「オレのチカラなんて弱いものだよ。久遠も知ってるでしょ。」

「それでも聖蓮は諦めないんでしょ。消すんじゃなくて帰すんでしょ。」

「出来る限りは・・・。父様も母様もお婆様も優しい方だった。きっと同じ事をしたと思うから。」

「やっぱりね。消すことは帰すよりたやすいのにそうしないよね聖蓮は。そんな聖蓮だからボクは守るよ。キミのお母さんと約束したんだ。お母さんは守りきれなかったけど、キミの事はボクが守るからね。」

「ありがとう久遠。学校に行こうか。今からなら3時間目には間に合う。」

「そうだね。そうしなよ聖蓮。ボク、聖蓮の机から見える空の景色好きだよ。」

「そうなんだ。オレと一緒だね。屋上の方がいいけど、まずは授業を受けないとね。昼休みに屋上に行こう。」

聖蓮は久遠と一緒に学校に向かい、いつもの席に座る。

視線はいろんな所から感じたけど知らない振りをする。

「いい加減、ほっといて欲しいよね。」

ぼそっと呟いた時に隣から声がかけられる。

「もう3時間目だぜ。何してんだよ聖蓮。」

ふと目を向けると暁水が聖蓮を見ている。聖蓮は興味がないというように目を逸らす。

「ちょー。又無視かよ。なんか感じ悪くねー?」

それでも聖蓮は暁水を見ない。

「わーった。オマエがそうくるならオレはこうしてやるっ。」

席を立った暁水は聖蓮の前に座ると聖蓮の顔を両手で挟んで固定する。

「何?離してくれないかな。この手。」

「おっ、やっとオレを見たな。」

このやり取りをクラス中が見ていた。

あの聖蓮に自分から話掛けるなんて・・・。

聖蓮は冷静に頬を挟んでいる両手を離す。

「オレさキミに言ったよね。オレに関わるなって。言い方がわかりにくかったのかな?オレは1人でいたいから放っておいてくれる?」

少し言い方がキツイかなとは思うが転校生の事を思えばこれくらい言っておいた方がいいかと思い言い放つと暁水を睨む。

「聖蓮ってそんな顔してもキレイだな。まあオレは紫炎の方が好みだけど。」

「キミ、オレの話聞いてる?」

「聞いてるよ。それに『キミ』じゃなくて『暁水』って呼べよ。」

クラス中が聖蓮と暁水の会話を聞いている事にふと気がついた聖蓮は暁水をもう一睨みすると、席を立って教室から出て行ってしまった。

暁水は聖蓮が風のように、立ち去って行った姿に見惚れて追いかけるのが遅れた。

「チッ。オレ何見惚れてるかな。オレ達のお姫様はあんな顔してけっこう気が強いところもあるんだな。って言ってる場合か。おーーいっ。待てよ聖蓮。」

暁水はあわてて聖蓮を追いかける。2人が居なくなった教室では早速2人の話があちこちでされている。

「あの2人ってどういう関係?」

「篠宮は避けてるみたいだけど、橘は追いかけてるよな。」

「橘は外から来たから知らないんじゃない?顔はキレイだから篠宮に興味を持ったんじゃないの?」

「誰か橘に教えてやれよ。篠宮の事。」

「そうだよ。転校生には親切にしてやれって先生も言ってただろ。」

そんな話をしている時に聖蓮を見失った暁水が帰って来た。

「聖蓮、足はえーんだよ。気配も感じられねー。あいつオレが思ってるよりも能力たけーんじゃないか・・・?」

1人ブツブツと呟きながら教室に戻ってきた暁水にクラスの生徒が話しかけてくる。

「橘って篠宮に興味があるの?」

「は?」

「まあ確かに顔はいいけど、あんまり関わらない方がいいよ。」

「はあ?」

「橘は転校してきたばっかだから知らないんだろうけど、篠宮ってここらの大地主なんだ。」

暁水は嫌な雰囲気だと思ったが聖蓮の事を知りたいとそのまま話を聞く。

「だから?」

「昔からこの土地を守ってくれてるらしいけど、それがどんな意味なのかは知らないんだ。」

「変なチカラを持ってるらしいよ。」

「アイツに近づくとそのチカラで殺されちゃうよ。」

「アイツじゃなくてもアイツの周りにいる何かに殺されちゃうんだって。」

「は?何だよそれ?誰かが殺されたとか、殺されそうになったとか見た事あんのかよ?」

「あるよ。」

暁水の隣の席の凌駕が暁水を見て言う。

「えっ?」

オレ達は異界の者を相手にするけど、普通の人にチカラは使わない。普通の人にはチカラは通じないのでチカラを使う意味はないのだ。異界の者が普通の人を狙う事はある。餌が欲しいときだ。異界の者とて食べないとチカラを保てない。人の負の感情はチカラにはなるが、人間そのものを食べる方が早いしチカラも増す。

凌駕の目に憎しみが浮かんでいるのを暁水は見て取る。他の生徒も畏れている目をしている。

「オレはアイツに殺されそうになった。」

「やっぱりアイツは人を食うんだ。」

「やだ。怖い。」

「アイツは人間じゃないんじゃ・・・。」

「篠宮家には化け物が生まれるって聞いた事があるよ。」

「じゃ、篠宮は化け物?」

「いい加減にしろよな。」

暁水は猛烈に腹が立っていた。聖蓮は異界の者と闘うことはあっても人を襲うような事は絶対にしない。篠宮家の人間に聖蓮のようなチカラのある子供が生まれる事がある事は知っている。暁水や紫炎も篠宮の分家で同じようなチカラがある。聖蓮は異界の者が人を襲わないように闘っているというのに、こいつらは何を言ってやがるんだ。

「おい。オマエ。殺されそうになった?それは本当のことなのか?何時の頃だよ。」

「小学6年の時だ。」

「ふーん。で、その記憶は確かなものなのか?間違っていないと断言出来るのか?」

「で、出来るよ。オレを押さえつけて睨んでいた。その時のアイツの目は紅色だった。」

「見間違いとかは?」

「あんな光景見間違える訳ないだろ。」

「でもさ、アンタが覚えてるのはその部分だけな訳?その前後の記憶は?」

「その前後?そんなの覚えてる訳ないだろ。オレは必死で逃げたんだ。逃げてなければ殺されていた。その日から3日高熱でうなされたんだ。」

「何でそうなったのか覚えてないのに悪者呼ばわりするんだ。」

「アイツの目は紅色だったんだぞ。普通の人間じゃねー。アイツはそれを黙ってた。オレを騙してたんだ。」









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~ Comment ~

 工工エエェェ(*´Д`*)ェェエエ工‥‥凌駕くん‥ 

Rinさま、こんにちは(^-^)

そうか‥ふたりはお兄ちゃん的な‥
だから心配してるんですね。

私、凌駕ってもっと聖蓮と近いのかと思ってたんですけど‥
何か勘違いと言うか、
ボタンの掛け違い‥
または彼の能力を見ちゃったんでしょうね。
でも見れるってことは彼も普通ではない気がするし。

久遠!
そうですか、いつも出てくるのですか、
だったら嬉しいですねv-10

エロい大人なふたりもいいのですが
‥主人の傍に絡まるようにくっ付いてる子が
好きなんです(≧∇≦)

でも凌駕‥彼が聖蓮のこともっと分ってくれると
いいですね。

ではまた~m(__)m

Re:  工工エエェェ(*´Д`*)ェェエエ工‥‥凌駕くん‥ 

ハル様こんにちは♡〜٩( ╹▿╹ )۶〜♡

暁水と紫炎は分家筋で実は年上です。見た目が若いのと本家が操作して聖蓮と同じ年で学校に潜入しているのです。ファンタジーだからこその設定です(笑)
本家のことをあまりよく思わない部分もあるのですが聖蓮を放っておけないんです。本家のやり方は大人のやり方なので聖蓮にも暁水にも紫炎にも理解しがたい部分があるのですが・・・。

凌駕は・・・。この先にますます絡んできます。聖蓮の幼馴染ですもの。

ハル様に気にいってもらえた久遠は聖蓮のいる所には必ずいますので・・・。久遠もキューピッドになるという重大な役目があるので(。◠‿◠。✿)ぅんぅん
あら、これってネタばらしなのかな(。´・ω・)ん?

ハル様コメありがとうでした(●'ω'σ)σணღ*
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