たとえこの世の終りが来ようとも

たとえこの世の終りが来ようとも8

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凌駕は聖蓮に騙されたと思っている。あの時から・・・。

同じ年で隣同士だったから、小さい頃から一緒に過ごすことが多かった。

凌駕の両親も聖蓮の両親と仲が良かった事もある。聖蓮の両親は小学3年の頃に亡くなってしまったから、それ以降は凌駕の両親も聖蓮を不憫に思ったのか、家族で出かける時は聖蓮も一緒に出掛ける事が多かった。

共有する時間が長ければ長いだけ、凌駕は聖蓮の事が好きだったし、何をするにも一緒でそれが楽しかった。そうして聖蓮と過ごすことが当たり前だった。

自分より小さくて女の子みたいな聖蓮をいつも凌駕が守っていた。女の子みたいな聖蓮はいじめられることが多かった。いじめられても聖蓮は何も言わないから、そんなことを知らなかった凌駕はいつも傷だらけの聖蓮を不思議に思っていた。

そんなある日、聖蓮が複数の男の子達にいじめられているのを見て聖蓮を守る為に初めてケンカをした。

初めてのケンカは凌駕の完全な敗北。複数いたのだから当たり前なのだが気がつくとボコボコにされた凌駕を抱きしめて、聖蓮はわんわん泣いていた。顔や手、足にすり傷をおい、自分のために大きな目からポロポロと大粒の涙を流し続ける聖蓮を守らないといけないと凌駕は幼いながらに思った。

それからの凌駕は聖蓮を守るためにいろんな武術を習った。空手に合気道、剣道も・・・。特に凌駕の剣道の腕は優れていて先生も目を見張るほどだった。今でも凌駕は剣道を続けている。

聖蓮がいるところには常に凌駕がいた。聖蓮がいじめられることのないように聖蓮のそばにいつも凌駕がいて、それ以外の時間は武術にあてていた凌駕なのだ。

暁水に言われたとおり、あの日の記憶は曖昧だ。気がついたら紅色の目をした聖蓮が凌駕を押さえつけていた。無性に怖くなって、何故かイラついて聖蓮を突き飛ばして家に帰った。

その日から3日間、凌駕は高熱にうなされ続けた。聖蓮は化け物だった。人間じゃなかった。オレを騙して人間のフリをしてオレを騙し続けた。熱が下がった時に凌駕はそう思った。両親にあの日の出来事を話、これからは聖蓮と遊ばないし、友達でもなんでもないと宣言した時、何故か凌駕の両親は悲しそうな目をして凌駕を見たが、凌駕が聖蓮と関わらないと言った事に何も言わなかった。それからは聖蓮を誘うこともしなくなった。両親は凌駕の意思を尊重してくれた。

「聖蓮はオレやオレの両親まで騙したんだ。オレはアイツに殺されそうになったんだ。アイツの紅色の目はオレを睨んでいた。手はオレの自由を奪うように掴まれて押し倒されていたんだ。間違いない。」

「でも・・・。」

凌駕はその場面は覚えていたが、その前の記憶が抜けていた。何で聖蓮に押さえつけられていたのかわからない。ただ、怖かった。聖蓮からぽたぽたと紅いものが凌駕の顔に滴っていた。それが何だったのかも覚えていない。

「あれは血?誰の?オレじゃない。オレは熱は出たけど怪我はしていなかった。聖蓮の血?」

暁水にその前後の記憶は?と聞かれて思い出そうとしたが思い出せない。暁水に言われるまで「オレは聖蓮に殺されかけた」と思い込んでいたから、その前後の記憶がない事も何とも思っていなかった。思い出そうとした事もあったがそんなに大事な事だとは思わなかった。聖蓮に騙されていたという事のほうがショックだった。

聖蓮は凌駕が熱が下がり学校に行くようになってからもしばらくは学校に来なかった。1カ月程して登校してきた聖蓮は顔色は悪く、やせっぽっちだった身体がもっと痩せていた。何より表情がなくなっていた。凌駕の方を見ようともしない。もともと凌駕の他に仲のいい友達なんていなかったから聖蓮はどこででも1人になった。

「凌駕、アイツ化け物なんだって。」

クラスメイトが聖蓮を指差して大きな声で言う。

クラス中が聖蓮を指差して「化け物」とはやしたてても聖蓮は何も言わず、表情も変えずにいた。凌駕と目が合った時に悲しそうな目をしてたけど凌駕はすぐに視線をそらした。聖蓮は前みたいに凌駕の傍に来る事はなくなった。それは年を重ねていく度に2人の間に壁を分厚くしていった。暁水に言われるまで思い出そうともしなかった聖蓮とあの日の事。

「聖蓮が騙したんだ。アイツのこと友達だと思ってた。守ってやらないといけないって思ってた。なのにアイツが裏切ったんだ。」

凌駕は頑なにそう思う事にしていた。何故?どうしてなのかわからない。

どうしてオレはあの日の事を思い出そうとしなかったのか。それは思い出そうとすると頭がガンガンと金槌で殴られるような痛みと吐き気が襲うからだ。何度も思い出そうとしては同じようになり思い出そうとする事をやめた。別に思い出さなくても支障はなかった。

聖蓮がひとりぼっちになってチクッと胸の痛みを覚えたが知らないフリをした。何でアイツのことでオレが胸の痛みを感じるんだとイラついた。アイツに関わったからオレは殺されそうになったんだ。騙されたんだ。聖蓮に・・・。その思いは今も確かにあるのだが、暁水に言われたことで何か忘れていることがあるのかとも思う。

あの日、聖蓮の祖母が亡くなったと後で母親に聞かされた。理由は知らない。優しいおばあさんだったことは覚えている。それ以来、聖蓮とおじいさんの暮らしとなって聖蓮の笑う顔を見なくなった。凌駕は聖蓮の笑顔が好きだった。だから聖蓮が笑ってくれるのが嬉しくて聖蓮を笑顔にするために頑張っていた自分を思い出す。聖蓮の笑顔も・・・。

「聖蓮の笑顔なんて何年も見てないな。」

あの日以来、聖蓮とまともに口を聞いていない。担任に言われて伝言を伝え会話したが、それ以前はいつ話したのか覚えていない。聖蓮は「ごめん」をやたらと凌駕に言うようになった。何か伝えるたび、話す度に「ごめん」と言う。聖蓮が「ごめん」と言う度に苛立ちを覚える。だから聖蓮とは話をしたくない。

どんどん大人に身体は近づいて行く。空手や剣道はまだ続けている。聖蓮を守る必要はなくなったが、空手や剣道をしていると身体と心が燃えた。力がわいてくるのを感じ、それが心地よかった。ずっと続けているおかげで凌駕の身体はしなやかな筋肉がついた。身長も190㎝あり、文武両道を兼ね備えた凌駕は端正な顔立ちをしており聖蓮とは違う魅力を持っていた。

聖蓮は年を重ねる度にキレイになると凌駕は思っていた。憎んでいるはずなのにいつの間にか聖蓮を目で追っている自分にうろたえた事もある。しかし目が追ってしまうのだ。それは他の友人達も同じ事で、関わってはいけない、化け物だと思うのとは別に聖蓮は人の目を引きつける美しさを持っていた。顔だけでなく、内面からも美しさがにじみ出ている。それが何なのか誰にもわからないが見ている分には害はないと男も女も聖蓮を見てしまう。言っている事と矛盾しているのに、それは置いてしまっている。聖蓮が滅多に学校に来なくなってからは特に視線が聖蓮に向く。凌駕はそれにも何故だか苛立ちを覚える。来なければいいのにとさえ思っている。それは聖蓮が憎いからだと思っているのだが・・・。

凌駕は考えていることが支離滅裂になって何を考えていたのかわからなくなってきた。あの日の事を思い出そうとしていたのだと思い返すが考える事が面倒になってきた。

「なんでオレが聖蓮のためにこんな思いをしなくちゃいけない?やっぱ聖蓮と関わるとロクな事がない。」

暁水に「悪者呼ばわりしている」と言われて今、聖蓮がひとりぼっちなのは自分のせいだと言われているような気がした。聖蓮の悲しげな瞳が浮かぶ。

「何でオレが聖蓮のことを考えなくちゃいけないんだよ。」

そう思わせた暁水にも苛立ちを覚え、凌駕も教室を出て行く。1人になりたかった。

凌駕はずんずんと歩き校庭の裏で頭を抱えた。

「あの日はどうしてあんな事になったんだ?」

久し振りにあの日の事を思い出そうとする。

あの日に記憶が近づいていくたびに頭が割れるように痛くなり吐き気をもよおしてきてえずく。

「ハァ・・・ハァ・・・。」

えずいたためか涙が浮かぶ。

「クソッ。何で思い出せないんだよっ。」

それからも思い出そうとする凌駕だったが頭痛と吐き気が酷くなるだけで何も思い出せなかった。







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