たとえこの世の終りが来ようとも
たとえこの世の終りが来ようとも12
聖蓮の身体の事を考え、紫炎は1人で薬局とスーパーに行き、聖蓮と暁水は先に聖蓮の家に行く。聖蓮は少し寝たのと帰りは暁水におぶされていたので少し元気を取り戻していた。
「オレの部屋に来てくれる?お爺様はまだ帰ってきてないから他の部屋に通していいのかどうかわからないから。」
「何だ?聖蓮は家でも気を使ってるのか?たった一人の家族に?これじゃオマエどこにいっても1人じゃないか。」
「それは・・・。それにお爺様は優しい人だよ。前はそうだった。お婆様が亡くなって寂しいんだよ。」
「だからって・・・。」
「お爺様の事を悪く言わないで。オレが悪いんだから。」
「それはどういうことだ?」
「そんなことより異界の者と闘ったって本当?」
「ああ。でもその話は紫炎が戻ってきてからだ。聖蓮少し横になれ。」
「いいよ。もう大丈夫だから・・・。」
「そんな青い顔してどこが大丈夫なんだよ。横になれって。オレが横にいてやるから。てよりオレが眠たいんだよ。紫炎が帰って来るまで寝てようぜ。」
暁水は聖蓮のいう事などおかまいなしにさっさと押入れから布団を出して敷くと聖蓮に横になれと言うように布団をめくる。布団の誘惑に勝てず、聖蓮が大人しく横になると暁水はその横に寝転び、聖蓮を自分の方に向かせるとトントンと背中を叩く。まるで親が子供を寝かしつける時にするように優しく…。
聖蓮は昔、母様に同じ事をしてもらったと思い出す。淡い幸せな思い出・・・。今はもうない幸せ。暁水の手がとても暖かくて、久し振りに触れる人の温かさに聖蓮は胸を小さく震わせた。それはもう二度と自分に触れる事のない温もりだと思っていたから。自然と嗚咽が漏れ聖蓮は泣いていた。
「バーカ。何泣いてんだよ。オマエはもう1人じゃねぇ。オレも紫炎もいる。だから安心して眠りな。」
「・・・うん・・・・・」
泣きながら眠ってしまった聖蓮の頭をなでてやる。
「よく今まで1人で頑張ってきたな。えらいぞ。でも今日からはオレ達に甘えていいんだからな。」
涙で濡れた頬を拭ってやる。そのまま聖蓮の顔を見ているうちに暁水も眠たくなってくる。
「紫炎が帰ってくるまでする事もないしな。オレも寝不足なんだ・・・。」
だれに言うとなく呟くと暁水は本格的に眠りに落ちた。
⁂ ⁂ ⁂
「ちょっとこれどういう事?」
薬局とスーパーで買い物をして返って来た紫炎は仲良く眠る2人の姿にあきれたようにつぶやいた。
聖蓮はわかる。暁水が眠れと寝かしたのだろう事は。昨日寝てないみたいだったし怪我をしている。すぐに眠ってしまったのだろう。だが、暁水は何で横で寝てるんだ?まるで聖蓮を守るように聖蓮をかこって寝ている。そこに色はなく暁水も聖蓮の事を弟のように思っているのだとわかるのだけれど。
「何だ。暁水もなんやかんやいいながらも聖蓮の事が心配でしょうがないんじゃないか。本家とか分家とか関係ないよね。聖蓮は守ってやらなくちゃね。今まで1人だった分ね。」
紫炎は寝ている2人の部屋の戸をそっと閉めキッチンでオムライスを作り始める。
聖蓮の性格が現れているそのキッチンはきれいに整頓されとても使いやすかった。きっと祖父が家にいる時は聖蓮がご飯を作っているのだろうが、いない時は殆ど使われることがないんじゃないかと思う。案の定、冷蔵庫には何も入っていない。ご飯もいつ炊いたのか・・・。
「おいしいオムライスをご馳走するからね聖蓮。」
紫炎は腕まくりすると早速ご飯を炊き、野菜のたくさん入ったスープを作る。サラダはミモザサラダ。これも暁水の好きなメニュー。
「聖蓮の好きなものも聞かないとね。」
ふんふんと鼻歌を歌いながら作っていると、匂いに起こされたのか暁水がやってきて紫炎にキスをする。
「もうダメだよ。ここはボク達の家じゃないんだから。」
「なんでだよ。おはようのキスくらいいいだろ。」
ダメと言いながらも2人は何度もキスをする。甘くて深いキス。
「ダメ。暁水。まずは聖蓮の事でしょ。」
「ああ。わかってる。でも紫炎の唇が甘すぎて・・・。愛してるぜ紫炎。」
「ボクも・・・。でももうキスはダメ。ご飯出来たから食べよう。」
「ご飯なら仕方ない。温かいうちに食べないとな。」
「聖蓮は起きれるかな?」
「まあ、今日は学校から戻ってきちまったし大丈夫だろ。話をしたら又寝かせればいい。」
2人で食事を聖蓮の部屋に運び、聖蓮に声を掛ける。
「聖蓮、ご飯出来たよ。起きられる?」
「・・・・んっ・・・・母様?・・・」
「聖蓮は寝ぼけてるみたいだね。」
「聖蓮、起きろ。メシが冷めちまうだろ。せっかく紫炎が作ったのに。」
「・・・・。エッ橘くん?」
あわてて目を開けた聖蓮の目の前には暁水と紫炎が微笑んでいた。
「3人で食べようね。勝手にキッチン使ってごめんね。すごく使いやすかった。」
「いいです。ご飯作ってくれてありがとうございます。」
「そんなかたっくるしいあいさつはいいから食べようぜ。」
布団をよけてテーブルに並べて3人で食べる。
とても温かくて愛情がいっぱいこもったオムライスはとてもおいしかった。聖蓮は黙々と食べている。いつも1人で食べる食事と違って、今日はにぎやかだ。それが食欲を呼んできたのかもしれない。あっと言う間に食べてしまった暁水が紫炎に向かって満足そうに笑う。
「やっぱ紫炎のオムライスが一番だ。」
そういって紫炎の唇に軽くちゅっと唇にキスをする暁水。
「もう、聖蓮が見てるでしょ。ダメ。」
とかなんとか言いながらも嬉しそうな紫炎。
「ほんとに2人は仲がいいんですね。」
いつかはこんな2人みたいになれたらよかったのに。あの日でオレ達は終ってしまった。もう帰らない日々。オレにはこれからも暁水と紫炎みたいに仲睦まじく出来る人はいない。
スプーンの止まってしまった聖蓮に気がついた紫炎が暁水を突く。今、聖蓮にはパートナーがいないのにその目の前で仲良さそうなのを見せつけてどうするのって紫炎の目が暁水に言っている。さすがにマズイと思った暁水は紫炎から離れる。なんとかこの空気を変えようと聖蓮に違う話題を投げかける。
「前から思ってたんだけど、なんで聖蓮は自分の事を『オレ』って言うんだ?なんか聖蓮は『ボク』の方が似合ってると思うけど・・・。」
「それは・・・。」
聖蓮が遠い昔の事を思い出す。まだ穏やかだった幸せな時の頃・・・。
「オレって女の子みたいな顔してたから子供の時からすごくいじめられてた。いっつもいじめられて泣いてた。そん時に少しでも男っぽく見えるから『ボク』じゃなくて『オレ』って言えって・・・。それからずっとだよ。」
言った聖蓮の表情はやっぱり悲しそうで・・・。
「それを言ったのは誰だ?」
「凌駕?」
紫炎の言葉にハッとしたように聖蓮が顔をあげる。
「凌駕か。そうだな。幼馴染だもんな。ずっと聖蓮の傍にいたんだろ。何で今は傍にいないんだ?」
「凌駕は・・・凌駕はこっちの人じゃないから・・・。」
「巻き込みたくない?」
「そう。・・・巻き込みたくないじゃなくて、巻き込まない。凌駕は・・・。」
「それだけ?凌駕を巻き込みたくないからずっと一人なの?もしかして聖蓮のパートナーは凌駕なんじゃないの?」
「違うっ!!凌駕はパートナーなんかじゃないっ!!」
聖蓮の大きな声に紫炎も暁水も驚く。聖蓮は目にいっぱい涙をためて苦悶の表情をしていて、今は深くこの事を追求する時ではないと紫炎は判断し暁水に目で伝える。
「ごめんね。そうだよね。考えなしに言っちゃってごめんね。」
「ううん。ごめんオレこそ大きな声を出して。」
わかってもらえたと安心した聖蓮は残りのご飯を食べ終える。
「さあ、ご飯も終ったし傷の手当をしようか。ボク得意なんだよ傷の手当。暁水の手当てをずっとしてるから。」
「ああ。紫炎は上手だぜ。おかげでオレの傷はすぐに治る。」
「まあ、暁水はボクをかばって傷を負うことが多いから・・・。」
「そんなことないぞ。紫炎のおかげで助かった事がどんだけあると思ってんだ。」
「いいね。パートナーがいるって。オレはお爺様にしてもらってたよ。酷い傷は。でもたいていは1人で処置出来る傷だから。」
何を言っても聖蓮に寂しい思いをさせてしまう。そう思った紫炎は聖蓮にシャツを脱ぐように声を掛けた。


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