たとえこの世の終りが来ようとも

たとえこの世の終りが来ようとも29

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その日の夕方聖蓮は凌駕達より一足先に家に帰っていた。

玄関には庄之助の下駄があり帰宅しているのを確認すると、庄之助の部屋へ行き声をかける。

「お爺様おかえりなさい。聖蓮です。入ってもよろしいでしょうか?」

「聖蓮か。いいだろう。入りなさい。」

廊下に正座していた聖蓮は静かにふすまを開け中へ入るとふすまをしめ正座して一礼する。

頭を上げると、庄之助と目が合った。その目からは何も感じ取れない。いつものことだが庄之助は聖蓮でさえ感情を見せたりしない。何を考えてるのか誰にも悟らせる事のない瞳なのだ。

「お爺様すいぶんとお帰りが遅かったので心配しておりました。」

「暁水と紫炎がいるだろう。私がいなくてもなんの問題もないと思っていたのだが。」

「ボクの事ではありません。お爺様のことが心配だったのです。」

「私の心配など無用の事。オマエには与えられた使命がある。それを遂行すればいいのだ。私の事を心配している暇などないはずだ。」

「そうですが・・・。」

「神社もキレイにしておったようじゃな。異界の者の様子はどうなのだ?」

「はい。最近は町の方まで出てきております。ボクと暁水、紫炎で中までは入れてはおりません。」

「それは当たり前の事。それ以外は?」

「はい。異界の者のチカラが強くなっており、頻回に出てくるようになっております。」

「そうだろうな。それよりも竜王と闘ったのは本当か?」

「はい。凌駕といる時に出くわしました。凌駕を久遠に逃がしてもらい闘いましたが負けました。暁水や紫炎が来てくれなかったら死んでいたかもしれません。」

「聖蓮、竜王はまた来るぞ。何が目的なのかはわからぬが、婆様の施した封印はとけているようじゃからな。新しい封印を施すしかあるまい。」

「どうすればいいのですか?」

「それについての話はみなが集まってからにする。凌駕もくるのだろうな?」

「はい。凌駕は幼い頃はボクのパートナーであった事や異界の者と闘っていた事を思い出したようです。闘い方は覚えておりません。チカラを行使した事も覚えていません。」

「そうか。わかった。ではみなが集まったら私の部屋に連れてきなさい。」

「はい。わかりました。それでは失礼致します。」

聖蓮は一礼すると庄之助の部屋から出て自分の部屋に戻ると溜め息をついた。

庄之助との会話は日常でもあまりなく、したとしてもさっきのように家族としての会話ではなくなっている。お婆様がいたころはもっと家族らしい会話をしていた。お婆様が亡くなってから6年。ずっとこんな会話が続いている。最初の頃はそれが嫌でなんとか普通の会話をしようといろいろと試みたが庄之助は聖蓮に一線引いたかのような態度を変える事はなかった。聖蓮もそのうち諦めてしまい、一緒に住んでいながらも別居しているかのような暮らし振りで、食事でさえ一緒にとらなくなったのだ。

「お爺様が帰って来たのなら暁水と紫炎もここから出ていっちゃうのかな?」

今まで3人で仲良く自炊したり、掃除、洗濯、買い物と誰かと一緒に楽しくおしゃべりしながらやっていた。神社の掃除も3人でやった。一人で今までやってきた事だから仕事がイヤなんじゃない。1人でする寂しさがイヤなのだ。

「やっぱり1人って寂しい。」

自分の部屋でそんな事を思う。

凌駕も今は傍にいてくれるけど、いつかは離れるのではないかと不安がつきまとう。

でも今は凌駕との事をどうこう言ってる場合ではない。竜王にどう立ち向かうかだ。お爺様は封印しなければならないと言った。そんな事が出来るのだろうか。

メールの着信音が鳴る。凌駕から「今から行くぞ」と送られてくる。

凌駕からだというだけで嬉しい。今日、アドレスを交換したばかりなのだ。聖蓮はそのメールを保護する。凌駕から送られてきた初めてのメール。

「これじゃ、ボク女の子みたいだな。」

凌駕に「わかった。待ってる。」と返事を返す。そして部屋を出ると玄関に向った。丁度、暁水と紫炎も帰って来たところで庄之助の部屋に行くように言われている事を告げ、みんなで庄之助の部屋へ向かう。

「お爺様みな揃いました。」

「わかった。部屋に入ってよい。」

聖蓮がふすまを開け、暁水、紫炎、凌駕の順番で入り、聖蓮も最後に入ってふすまをしめる。

「みな長く家を空けて済まなかった。特に暁水と紫炎には突然、聖蓮を守るように言って迷惑をかけたな。」

「いえ。庄之助さん。オレ達はかまいません。聖蓮を守るのがオレ達の役目と心得ております。」

「右に同じです。少しでも聖蓮の役に立てるようにと考えております。そのためにこの命を懸ける所存です。」

「暁水、紫炎りっぱな覚悟じゃ。そなた達を選んでよかったと思う。」

「待ってくださいお爺様。ボクはイヤです。守護だと聞きましたが、ボクのために命を懸けるような事はさせないで下さい。」

「何を言っておる。オマエのチカラはまだ十分に覚醒もしておらん。今は暁水や紫炎の方が腕はたつ。オマエは篠宮の直系なのだから分家が守るのは当然の事。昔からそう決まっておる。」

「でも・・・。」

「そう言うのならオマエが暁水や紫炎を凌ぐくらいのチカラを持て。そしてオマエが守ってやればいいであろう。」

「・・・。」

庄之助の言葉に言い返せない聖蓮は唇をぎゅっと噛む。確かに今の実力では暁水や紫炎にかなわない。お荷物になっているのは自分なのだと改めて実感する。

「ところで凌駕。オマエは幼き頃の事を少し思い出したようじゃな。オマエの中に秘めてるチカラについても知ったのだな。」

「ああ。オレの中に何かがいるのは何となく感じてた。雷の王のチカラだ。オレは小さい頃は聖蓮のパートナーだった。今でもオレはパートナーなのか?」

「今聖蓮にはパートナーはいない。久遠が代わりを果たしているがな。凌駕は聖蓮のパートナーになりたいのか?」

「ああ。聖蓮1人に闘わせられない。今まで忘れてたオレが言うのもおかしいのかもしれないけど、聖蓮を守りたい。一緒に闘いたい。竜王なんかに負けたくないんだ。」

「そうか。暁水と紫炎も本家の聖蓮がパートナーもつけずに闘っていることに疑問を感じてたであろう。」

「はい。聖蓮にパートナーがいないので本当に驚きました。どうしてもっと早くに呼ばなかったのかと思ってました。」

「それには訳があるのだ。まず一つは聖蓮を強くするため。場数をこなさねば強くはなれぬ。聖蓮は甘えてしまうところがあるからな。自分で何とか出来るようにならなければこの先、命を落としてしまうのは確実だから実践で鍛えていたのだ。私にはチカラがないのでな、鍛える事は出来んからな。もう一つは凌駕が思い出すだろうと思ったからだ。まあ、なかなか思い出さないので暁水と紫炎を呼んだのだが。異界の者のチカラが大きくなってきてさすがに聖蓮だけでは防げないと思ったのでな。凌駕が思い出さない事には聖蓮も覚醒出来ないのだ。半分諦めていたのだが、凌駕は思い出した。」

「爺さん、それはひどくねーか。聖蓮の身体は傷だらけなんだぞ。オレが思い出さなかったらどうするつもりだったんだよ。」

「思い出さなければそれまでの事。それ以外の方法を考える。聖蓮が死んでしまっても、分家のチカラの強い者を養子に迎えるだけの事。現に今までも直系などといいながら分家の血がたくさん入っておるのじゃこの家は。都はチカラのない普通の男と結婚した。本来なら分家から婿をもらうのが筋だったのに、都はそれに逆らいおった。聖蓮がチカラを持って産まれたからいいようなものを。だから難産だったのだ。」

「聖蓮の前でそんな話するなよ。聖蓮の両親の話だろ。そんな事聞かされる聖蓮の身になれよ。」

「いいんだよ。凌駕。」

「凌駕。私にえらそうに言ってるが、オマエは闘い方を覚えているのか?すぐに闘えるのか?」

「それは・・・。」

「闘い方も忘れたような人間にとやかく言われたくない。オマエは分家でもないしな。部外者が家の事に深入りするのはやめてもらいたい」

「お爺様、今日はそんな話でボク達を呼んだのですか?」

凌駕が握りこぶしをぎゅっと握っているのを見て、凌駕を傷付けるような事を言ってほしくなくて聖蓮は無理やり違う話題に持っていく。凌駕の目は庄之助を睨んでいた。聖蓮に優しい言葉の一つもかけず、死んでしまったらそれまでと言った言葉が許せなかった。聖蓮の命はそんなもんじゃない。もっと言いたかったが聖蓮がぎゅっと握った握りこぶしをそっと包みこむように手を重ねてきたのでやめたのだ。

「そうであった。竜王が出てきた事で竜王の封印が解けてしまった事がわかった。もう一度封印せねば、異界の者が溢れ、町の人間達を食ってしまうだろう。異界の者が人間界に溢れることは避けねばならぬ。私はいろいろと竜王の封印について調べてきた。」

「それでお帰りが遅くなったのですか?」

「そうだ。分家にある資料と本家にある資料を調べていた。」

「それでわかったのですか?」

「竜王を滅するか、竜王が弱った時にこの札で勾玉に封印の術を施すかだ。」

「どっちにしても竜王と闘って負けられないということですね。」

「そうだ。オマエ達が負ければどうしようもない。」

その場が重苦しい空気に覆われる。誰もがあの竜王と闘って勝てるかどうか自信が持てなかった。

「暁水と紫炎は明日から修行をしてもらう。聖蓮と凌駕は森の中の見回りをし、異界の者を見つけたら排除する事。」

「お爺様、凌駕は闘い方を覚えていません。危険です。」

「オマエ達がパートナーだと言うならやれるだろう。今まで離れていた分を取り戻さなければならん。闘い方など実践してればイヤでも思い出す。凌駕にはその天賦がある。幼き頃に聖蓮を守っていたのは凌駕オマエなのだから。今でも凌駕が聖蓮のパートナーなのかどうかがこれでわかるだろう。」

「わかったよ。だてに今まで剣道や空手をならっていたわけじゃない。オレが聖蓮を守る。オレが聖蓮のパートナーだって認めてもらえるように頑張るだけだ。」

「では私の話はここまでだ。聖蓮と凌駕はここに残りなさい。」

暁水と紫炎は庄之助に一礼すると静かに部屋を出て行った。







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