たとえこの世の終りが来ようとも
たとえこの世の終りが来ようとも30
暁水と紫炎が部屋から出て行ってしまうと急に部屋が広く感じられる。
3人ともしゃべらずに沈黙が続く。凌駕はお爺様を睨んでいるがお爺様は気にならない様子で冷めてしまったお茶を飲んでいる。
「お爺様、ボク達に何かお話でもあるのですか?」
いたたまれなくてお爺様に声をかける。
「聖蓮、オマエはまだあの竜笛を持っているのか?」
「お父様の形見です。持っています。」
「そうか。都の形見は久遠。アヤツの形見は竜笛・・・。」
「何が言いたいんだ?まだ聖蓮の父親の事が許せないのか?」
「もう済んでしまった事だ。都も奴ももうこの世にはいない。オマエ達を残したのはそんな話をするためではない。」
「じゃー何だってんだ。オレは聖蓮の事をとちっとも大事にしないあんたが聖蓮の家族とは思えねぇ。聖蓮はあんたの事を家族として大事に思ってるのに。」
「私は聖蓮の家族である前に篠宮の当主なのだ。そして篠宮家は異界の者を排除しなければならない役目にある。」
「役目がそんなに大事なのかよっ!!」
「ああ、大事だ。聖蓮1人の命と他の人間のたくさんの命のどっちを取るかと言われれば、ためらう事なく人間を選ぶであろう。聖蓮とて同じではないか?」
「はい。オレ1人の命で他の人が助かるならオレは死んでもかまいません。」
「聖蓮バカじゃねぇのかっ!!オレは聖蓮の命と引き換えにしてまで生きていようとは思わないっ!!」
「凌駕、オマエはそう思ったとしても、他の人間はそうは思わないだろう。聖蓮の命と引き換えにしてでも生きたいと思うだろう。」
「そうかもしんねーけど、オレは絶対やだね。そんな事を平気で言うアンタも気に入らねーなっ!!」
「凌駕止めて。いいんだよ。もうずっと小さい頃からそう言われて来たんだ。あの日から。」
「あの日って何なんだよ。オレは一部しか覚えてねーんだ。ちゃんと教えろよ。」
「それは絶対に教えられない。知りたいのなら凌駕が思い出すしかないんだ。お爺様も教えてくれないよ。ボクが教えないようにお願いしてるから。」
「そうだな。聖蓮との約束だ。悪いが私は教えてやる事は出来ない。」
「聖蓮とどんな約束をしたんだよ。どうせ見返りに無理な事を約束させたんだろ。」
「それはオマエには関係のない事。私と聖蓮の約束の内容を聞かせてやる義理はない。」
「だた、明日からはオマエ達2人で森の中の異界の者を倒さなくてはならない。聖蓮、いつものようにあちらの世界に帰してやろうなどと甘い考えはもっておるまいな。もうそんな甘い相手が敵ではない事はわかっただろう。」
「はい。」
「帰してやろうなどと、オマエのチカラごときの者が言うなど奢りでしかないわ。」
「何だよ、その言い方はよっ。聖蓮は帰りたいと思ってるものを消すよりも帰してやりたいと思って行動してるだけだろ。帰れた異界の者は聖蓮に感謝してるはずだ。」
「馬鹿者っ!!帰すにも霊力がいるのだ。帰すには消すよりも霊力を使う。たくさんの異界の者に襲われた時はどうする?倒せなかった異界の者が町に入り込んで人間を食らったらどうするのだ。霊力は無限にあるのではないのだぞ。」
「わかっています。お爺様。凌駕も止めて、お願いだから・・・。」
「暁水と紫炎を欠いたオマエ達だけでは心もとないのでな、オマエ達に婆様が施している封印を解く事にした。」
「ちょっと待てよ。オレはいいけど、聖蓮は今まで封印されていたチカラがあったって事か?それが封印されていなければこんなに傷を負う事はなかったんじゃねーのかっ!!」
「いちいちうるさい奴だ。この封印は凌駕が目覚めぬ事には聖蓮にかけた封印も解けなかったのだ。2人で1人と言うのがパートナーなのであろう。」
「チッ。オレかよ、聖蓮のお荷物は・・・クソッ!!」
「凌駕、凌駕はお荷物なんかじゃないよ。ボクの心の支えだったから。これからはボクを助けてくれるんでしょ。だったら封印を解いてもらおう。ね。」
「聖蓮がそう言うならそうする。オレだって闘うのに聖蓮の荷物にはなりたくねーし、聖蓮の事を守りたいんだ。」
「凌駕ありがとう。」
「ここでは出来ぬ。2人とも本堂に来なさい。」
そういうと庄之助は音も立てずに立ち上がり部屋を出て行く。
「凌駕、イヤな思いをさせてごめん。でもたくさんボクを庇ってくれてありがとう。ボクの代わりに怒ってくれてありがとう。すっごく嬉しかった。」
もう無理だった。爺さんが本堂で待ってる事はわかってたけど、聖蓮を抱きしめずにはいられなかった。
「バカか聖蓮。オマエあんな風に言われてなんで怒らないんだ。家族だろう?なんでアイツはオマエの事を替え駒みたいに言う?悲しすぎるだろ、唯1人の唯一の家族なのに。」
「そうなのかな?ボクはお爺様と2人家族になってからずっと言われてきた事だからそうなんだと思い込んでるのかな?でもボク1人とみんなの命ならみんなの命の方が大事でしょ。」
「そんな事ない。どの命だって大切だろうが。大切じゃない命なんてこの世にあるわけないだろっ!!しっかりしろよ聖蓮。」
「ありがとう凌駕。凌駕の胸は温かいね。」
目を伏せて言う聖蓮の睫毛が涙で光っている。オレはその涙を唇で拭うと聖蓮の唇と重ねた。
「聖蓮みんなの代わりに命を捧げるなんて考えるな。オレのためにも生きようとしてくれ。もしそうなった時は替わりの方法を考えよう。絶対に何か方法があるはずだ。」
「ああ。ありがとう。ボクは凌駕にそう言って欲しかったのかもしれない。だってやっぱり死ぬのは怖いしひとりぼっちは寂しい。」
「当たり前だ。死ぬのが怖くないはずねーだろ。今まで我慢してきたんだな。これからはオレがいるからそんな事は考えるな。聖蓮が死んだらオレも死ぬからな。だから聖蓮は死ぬな。オレに生きていて欲しいと思うなら死んじゃダメだ。」
「うん。凌駕と一緒に生きるよ。」
ずっと一緒だと言う誓いのようにオレ達は唇を合わせる。深いキスではないけど堅い誓いのキス。
「そろそろ本堂にいかねーとヤバイな。」
「ふふっ。そうだね、行こうか。」
凌駕は聖蓮の手を握り本堂へ向かう。
本堂では目を閉じて座っている庄之助がいた。
「お爺様参りました。」
「私の前に2人とも座りなさい。聖蓮、首に掛けている勾玉をこちらへ。」
聖蓮は勾玉をはずし手渡す。
「私には異界の者と闘うチカラはないが、婆様がこの封印を解くチカラだけは私に残してくれた。婆様の最後の力だ。聖蓮、凌駕受け取りなさい。」
庄之助は袂から青い勾玉を取り出し聖蓮の紅の勾玉と並べて床に置く。再び袂から札を取り出すと勾玉に向けて術を唱える。青い勾玉からも紅の勾玉からもまばゆいばかりの光が放たれ一度放出したかと思うとその光は勾玉に吸収されてしまった。
「クッ・・・。」
庄之助が身体を支えきれずに床に手を着く。
「お爺様っ!!」
「大事ない。ちょっと婆様のチカラに酔っただけだ。6年ぶりなのでな。婆様のチカラに触れるのは。私も歳を取ったということだ。」
庄之助は息を整えると勾玉を二つ持ち青い勾玉を聖蓮に、紅の勾玉を凌駕に手渡す。
「えっ。間違ってねーか?聖蓮が紅色だろ?」
聖蓮も不思議に思った。お婆様の形見としてもらった勾玉だったのだから…。
「違う。もともと紅色は凌駕のものだった。オマエ達は対なのであろう?お互いの者を交換してつけあうのが習わし。聖蓮に紅色を持たせたのはオマエが思い出して再び異界の者と対決する時に闘いから離れていたオマエに同等のチカラを授けるために聖蓮に持たせ闘わせていたのだ。もともと聖蓮は闘いに向かぬ。防御と術で闘いを手助けするのが得意なのだ。闘いは凌駕、オマエこそ得意であろう。武術にオマエが秀でているのもその現れ。紅色の勾玉は攻撃を、青色の勾玉は防御を手助けして己のチカラの手助けとなろう。」
お婆様は凌駕と聖蓮が結ばれるように凌駕の勾玉をくれたのではないかと聖蓮は思った。愛しい人と一緒にいられるように。聖蓮は1人で闘っていたけれど、首に付けていた勾玉は凌駕のものだったのだから…。
お互いに自分の勾玉を見つめ首にかける。
「何だ?中からチカラがみなぎるような感覚がする。」
「ボクもだ。紅の勾玉を付けている時には感じなかった感覚。」
しばらくすると勾玉が光を放ち点滅して光は消えた。
「どうやら無事に封印は解けた様だな。勾玉もオマエ達を主と認めたようだ。しかしこれでオマエ達のチカラ全てが開放されたわけではない。凌駕があの日の事を思い出した時に全てのチカラが覚醒されるであろう。凌駕、その時にチカラを全て覚醒した時、そのチカラを自分のものに出来ないと・・・わかるな。」
「ああ、雷の王にオレの身体を乗っ取られるって言うんだろう。そんな事はさせやしねー。オレの身体はどんなチカラを持とうとオレのもんだ。」
「そうなることを祈っておるよ。雷の王にここに居られても迷惑なのでな。ここは人間界だという事を忘れるな。もうよい。すべき事はもうない。明日に備えてもう休むが良い。凌駕、今日は聖蓮の部屋で休め。お互いの空白の時間を少しでも埋めよ。」
それだけ言うと庄之助は先ほどと同じように音もなく立ち上がり本堂を出ていった。
*:..。♡*゚¨゚゚・*:..。♡*゚¨゚゚・*:..。♡*゚¨゚・*:..。♡*゚¨゚゚・*:..。♡*゚¨゚゚*:..。♡*゚¨゚゚・*:..。♡*゚¨゚゚・*:..。♡*゚¨
読んで下さった皆様ありがとうございます。もうこのお話も30話まで来てしまいました。まだ終りが見えないのですが・・・。中盤といったところでしょうか?どうぞ最後までよろしくお願いします。
ところで、あれよあれよと言う間に50,000HITを超えてしまいました。涙が出るほどに感激しています。去年の12月の中旬に始めて、こんなに読んで頂けるなんて思ってもいませんでした。『腐』万歳です(。-ܫ-。)ムフッ♥
ホントなら記念作品でも書くところなのですが、そんな余裕もなく今はこのお話を書上げようと思います。これからもよろしくお願いします。


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✽✽✽目次✽✽✽

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ご挨拶

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貴方の腕の中で

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たとえこの世の終りが来ようとも

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キミが思い出になる前に

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月と太陽がすれ違う時

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S.S

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イラスト

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頂きもの☆

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雑記

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土曜の雨のジンクス

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さよならが言えなくて。

~ Comment ~
Re: (@∀@;)まだ覚醒するには程遠いですか?あ、50000hitもおめでとうございます。
ハル様ヾ(◕ω◕❀)コ(✿◕ω◕)ノ゙ンヾ(❀◕ω◕)ノ゙チャ!!
お祝いコメアリガトウ✾“ヽ(。◕‿◕。)ノ”です
何時の間にやら50,000超えてて本当にビックリです。他の方は記念にS.Sとか載せてらっしゃるけど今のお話でいっぱいすぎて出来ませぬ。キリ番の時は書こうかとも思うのですが無理なようです。余裕なさすぎです・・・。
毎日UPになっちゃってて、予約投稿出来てないので今週は0時更新出来なかったり、書きかけの記事をそのままUPしたりと皆様にご迷惑をお掛けしましたm(*・´ω`・*)m ごめんЙЁ
ファンタジーってホントに幅が広がっちゃうんですよねー。何時終れるのか心配になって来た((유∀유|||))
登場人物を消す事が出来そうにないんですよぉ。竜王でさえ愛着が湧くんですよね。竜王のお話はただの悪役にするつもりだったのですが・・・。
凌駕が正式にパートナーになるまでは、と言うか思い出すまでは聖蓮が凌駕を守ります。一応それだけのチカラは持っているんです。しばらく出て来ない久遠もいますしね。凌駕の勾玉を持った事で聖蓮のチカラは増大していますし、凌駕にもチカラの端くれが備わりましたしね。
空白の期間は闘いの中で埋めていきます。あとキスとね。凌駕はキス魔ですから(゚m゚*)プッ
凌駕にとって思い出す事はショッキングな事です。でも思い出さないと覚醒できないですから・・・。もうすぐ凌駕は思い出すはずです。その時凌駕と聖蓮はどうするのか・・・。
ハル様コメありがとうございましたヽ(〃^・^〃)ノ
お祝いコメアリガトウ✾“ヽ(。◕‿◕。)ノ”です
何時の間にやら50,000超えてて本当にビックリです。他の方は記念にS.Sとか載せてらっしゃるけど今のお話でいっぱいすぎて出来ませぬ。キリ番の時は書こうかとも思うのですが無理なようです。余裕なさすぎです・・・。
毎日UPになっちゃってて、予約投稿出来てないので今週は0時更新出来なかったり、書きかけの記事をそのままUPしたりと皆様にご迷惑をお掛けしましたm(*・´ω`・*)m ごめんЙЁ
ファンタジーってホントに幅が広がっちゃうんですよねー。何時終れるのか心配になって来た((유∀유|||))
登場人物を消す事が出来そうにないんですよぉ。竜王でさえ愛着が湧くんですよね。竜王のお話はただの悪役にするつもりだったのですが・・・。
凌駕が正式にパートナーになるまでは、と言うか思い出すまでは聖蓮が凌駕を守ります。一応それだけのチカラは持っているんです。しばらく出て来ない久遠もいますしね。凌駕の勾玉を持った事で聖蓮のチカラは増大していますし、凌駕にもチカラの端くれが備わりましたしね。
空白の期間は闘いの中で埋めていきます。あとキスとね。凌駕はキス魔ですから(゚m゚*)プッ
凌駕にとって思い出す事はショッキングな事です。でも思い出さないと覚醒できないですから・・・。もうすぐ凌駕は思い出すはずです。その時凌駕と聖蓮はどうするのか・・・。
ハル様コメありがとうございましたヽ(〃^・^〃)ノ
- #258 † Rin †
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- 2012.06/24 12:09
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(@∀@;)まだ覚醒するには程遠いですか?あ、50000hitもおめでとうございます。
2000も過ぎてますけど‥50000hitおめでとうございますm(__)m
お仕事しながらの毎日のUP大変ですね。
すごいなぁって思います。
おまけに今書いておられるのはファンタジー‥
自由に書けますけど広がりをどこまで持たせて
いいのか‥
分らなくて難しいです、私には。
そうそう凌駕‥パートナーとしては認められたけど
いつ記憶を取り戻すのでしょうね。
取り戻さないと真のパートナーとして
聖蓮を守れないですよね、
でもとんでもなくショッキングなことだったのでしょうか?
ソレを思い出す時ってどんなんだろう‥ちょっと‥ドキドキします。
とりあえず空白を埋めないと!
‥どうやって?‥触れ合って?(笑)
腐り放題の私をお許しくださいませ
また参りますm(__)m