たとえこの世の終りが来ようとも

たとえこの世の終りが来ようとも32

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さんざん食べた夕飯の片付けは凌駕がかってでてくれた。その間に聖蓮はお風呂に入る。

聖蓮はお風呂が嫌いだった。否応なく身体中の傷が見えてしまうから。後悔しているわけではない。凌駕の代わりに追った傷だと思えば誇らしいとさえ思える。だけど、何も纏わぬ姿となった時にどうと思われるのかと思うと落ち込んでしまう。男なら傷の一つや二つあったところで闘った印、勲章だと思えるが、聖蓮の傷は一つ、二つどころではなく、身体中に小さいものや、大きいものがあり、勲章とは言いがたかった。さらに背中の大きな傷を見ると大きな溜め息が出る。この傷は特別な傷。闘いのさなかの傷とは言え、異界の者に追わされた傷ではない。凌駕が見ればあの日の事を思い出し、後悔するかもしれない。

「お風呂は1人で入ろう。みんなと一緒には入れないな。」

暁水や紫炎にも多少の傷はあるが、聖蓮のような悲惨なものはない。お互いにどの傷がいつのものか知っているだけにそれさえも2人の絆になっている。

実際、暁水と紫炎と凌駕は一緒に風呂に入る事はあっても聖蓮は固くなに拒み、聖蓮はしなければいけない事があるからと一緒に入った頃はなかった。男なのだから、気にせず入ればいいのだが、傷を見せる事で凌駕が聖蓮に対して負い目を感じるのではないかと思うと一緒に入れなかった。

聖蓮がお風呂からあがると、凌駕は布団を並べて敷いていてくれた。聖蓮の部屋は和室なので隣同士に布団を敷いてある。少しの隙間もなく敷いてあるので笑えてしまった。

「凌駕、こんなに布団を引っ付けなくても場所あるじゃない。」

「いやいや、親交を深めるためにはこうでしょう。てか聖蓮こそ頭ちゃんと乾かせよ。こっち来い。俺が拭いてやるよ。」

聖蓮は大人しく凌駕の傍に座る。

「凌駕は髪の毛かわかすの上手だったもんね。気持ちいい。」

微妙な力加減で水滴を拭いていく。

「聖蓮の髪の毛は柔らかいからな。ゴシゴシすると痛んでしまうんだぞ。」

ドライヤーまで掛けてもらう。気持ち良すぎてうとうとと眠くなってしまう。

「おいおい。こんなとこで寝るなよ。これからたくさん空白の時間の話をしようってのに。聖蓮、コーヒーでも飲むか?入れてくるよ。」

「ん・・・。じゃ、お願い。でもカフェオレにしてね。ボクあんまり苦いコーヒーダメだから。」

「わかった。帰ってくるまで寝るなよ。」

「・・・ん・・・がんばる・・・。」

うつらうつらする聖蓮を見て急いでコーヒーを入れて持って行く。なんとか起きている聖蓮にカップを渡すとコクリと飲む音が聞こえた。

とたんに聖蓮が目を覚ます。

「凌駕、これブラックだよぉ。苦くて飲めないって。」

「でも目が覚めただろ。ほい、ホントはこっちが聖蓮の。ブラックはオレのでした。」

すっかり目が覚めてしまった聖蓮はブツブツ言っているが二人ですごす貴重な時間を大事にしたかったのだ。

今日、やっとお互いの気持ちを繋ぎ合わせて一緒の夜を過ごせているのにこのまま寝てしまうなんてもったいないと凌駕は思っていた。

しばらく静かにコーヒーを飲む音だけが聞こえる。その後はお互いの布団に潜り込み昔の話に花を咲かせる。

小さい頃は聖蓮はいつも苛められていて、凌駕が助けてくれた事。聖蓮には凌駕が正義の味方に見えて憧れていた事。傍にいてくれるのが自慢だった事。

小さい頃に砂場で山を作ったり、泥団子を作った事。昆虫採集をして可哀想だと聖蓮が泣いた事。川遊びをしてサンダルが流された事。思い付く限り話した。

でもそれはある日を境になくなってしまう。

「聖蓮、あの日も異界の者と闘ったんだよな。」

「そうだよ。でもあの日の相手はボク達には強すぎた。逃げればよかったのに逃げ切れなかった。」

「オレはそれさえ覚えてないんだよな。」

「あの時の凌駕は凌駕であって凌駕じゃなかったから・・・。これ以上は言えない。思い出すと怖いんだ。」

聖蓮の肩が震えていた。よほど怖かったのか。

「その時の相手を覚えているか?」

「竜王だった。敵うはずないよね。今より若かったけど、チカラは並大抵のものじゃなかったよ。」

「そっか。でも今回は負けられない。暁水と紫炎と聖蓮と久遠とオレでなんとかしないとな。オレは今まで聖蓮に任せてた分を挽回するから。」

「でも凌駕。異界の者はそんなに簡単なものじゃないから。ホントに命を落とすかもしれないからね。無理はしないで。」

「大丈夫だ。オレには聖蓮がついてる。回復の術でちょちょいのちょいで治してくれよな。」

「そんなお気楽な事いってるけど、回復の術にも全てが治せるわけじゃないんだからね。」

「わかってるよ。怖いけど、聖蓮と一緒なら出来そうな気がするんだ。闘いの方法だって思い出せるって確信してる。」

「その凌駕の自意識過剰なところはかわんないね。頼もしいよ。でもボクは凌駕になにかあったらと思うと怖いんだ。」

「それはオレも同じだぜ。聖蓮に何かあったらって心配だ。」

お互いの顔を見合わせて瞳と瞳が交差する。

「聖蓮、こっちに来いよ。一緒に寝ようぜ。昔みたいに。」

聖蓮は自分の布団から抜け出すと凌駕の布団に潜り込む。

「凌駕の布団、温かいな。」

凌駕は聖蓮の小さな身体を自分の胸に優しく抱きしめる。ボディーソープの香りが漂う。オレも同じ物を使っているのに聖蓮が使うと違う香りに思えるから不思議だ。

「凌駕・・・。」

「聖蓮のいい匂いがする。今までオレは自分の気持ちに嘘をついてきた。オレは何時だって聖蓮をこうしてオレの腕の中に抱きしめていたかったんだ。聖蓮はオレだけのものって言いたかった。ごめんな寂しい思いとか嫌な思いさせて。」

「ううん。いいんだ凌駕。こうして凌駕の腕の中にいられるなんて夢でしかなかった。それが叶ったんだ。凌駕の胸の中で凌駕の温もりも心臓の音も聞こえる。すごく安心する。1人じゃないって言ってくれた凌駕を信じる」

身体を寄せあって眠るだけで、今までのわだかまりが溶けてく。お互いに子供で心の底ではわかっていたのに口に出来なかった思いを告げあった事で空白の時間が埋まっていく。今の2人には身体を繋げる行為よりもお互いの温もりを傍に感じる事の方が大事だった。

聖蓮がスースーと静かな寝息を立て始める。凌駕はそんな聖蓮の寝顔を愛しく感じ、優しく見守る。これ以上聖蓮に傷を負わせないためにもオレは闘わなければならない。正直に言えば怖い。だけど、聖蓮は1人で今まで闘ってきたことを思えば、自分の持つ恐怖なんて何て事ないと思う。それに闘う時には聖蓮も久遠もいる。明日からの闘いの中で俺は闘い方を思い出していかなければならない。闘っているうちにあの日の記憶を取り戻せるかもしれないのだ。

凌駕は腕の中で眠る聖蓮の頭を胸にかき抱くと頭のてっぺんにキスを落とす。

「聖蓮、オレ頑張るからな。オマエを守れるように。おやすみ。」

窓の外ではふくろうが鳴いている。静かな星空の瞬き、すこし太った三日月の明るい光が差し込めていた。





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