「キミと空とネコと」
やさしいkissをして

やさしいKissをして9

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何事もなく金曜日を過ごし、今日は土曜日。そう、今日は土曜日。バイトに黎が来る日だ。

朝から少し浮かない気分で講義を受けていた。いつもならもっと集中できるはずなのに講義の内容が入って来ない。オレはシャーペンを指でクルクルと回していた。

それでも時間は過ぎていく。土曜日だから講義は昼まで。バイトは夕方からだから帰りに夜の飲み会用の材料を買って帰り下ごしらえをしておく。

そうだ、今日はバイトが終ったら飲み会だ。うん、頑張ろう。オレは気を引き締めなおし、シャワーを浴びてサッパリした気分になる。黎とこの事はなるようにしかならないと開き直る事にした。

まだバイトに行くまでに少し時間があるなって思ってた時に携帯がなる。オレの携帯がなるなんてめずらしい。かけてくるのは家族か、アキさんか隆耶さんくらいのものだ。誰だろう。

「もしもし?」

「ああ、凪?オレッ!!」

なんでこいつがかけてくんだ?

「ちょっと聞いてる?達樹だけどっ。」

「聞いてるよ。何?オレこれからバイトなんだけど。」

「そうそう。凪バイトだよな。こないだの膝枕のお礼に今日凪のとこに食いに行ってもいい?」

「ハア?何いってんの。ダメに決まってるだろ。今日は土曜日で店忙しいの。今日はダメだ。平日なら…。」

言ってから「しまった」と思ったけど後の祭りだ。

「そっか。そうだよな。今日土曜日だもんな。そっか平日ならいいんだ。うん。わかった。凪の声聞けて良かったよ。じゃ、バイト頑張れよ。じゃあな。」

オレが返事をする間もなく、一方的に電話は切れてしまった。オレはバカだ。これで達樹は絶対に平日に店に来る。でも、今日でない事だけは救いだ。黎も達樹もなんて構ってられない。どんなミスを起こすか分からない。

「あ、ヤバイ。時間…。」

達樹との会話は数分だったがどっと疲れた。あいつが店に来たら…考えるだけで恐ろしい。厨房から一歩もでないでおこう。それだけは決めておく。

冷蔵庫に入れていた飲み会用の食材を持ってバイトに出かける。黎に会ったら取りあえずは普通にしていないとな。挨拶して、後は志希に任せておこう。うん。そうしよう。そんですぐに厨房に入ればいい。

「おはようございます。」

夕方なのに「おはよう」はおかしいって?確かに朝じゃないけど、入りの挨拶は「おはようございます」なんだから仕方ない。もう慣れた。

「凪くんおはよう。今日は今の所顔色はいいね。うん。」

「今の所?」

「まあ、気にすんな。今日もよろしく頼むぜ相棒さん。」

「はい。よろしくお願いします。冷蔵庫借りていいですか?今日の夜用の食材入れておきたいんですけど。」

「ああ、かまわないよ。スタッフ用の冷蔵庫に入れてたら後の2人が不審に思うかもしれないから厨房の冷蔵庫にいれておいてね。」

「はい。わかりました。じゃ、オレ着替えてきます。」

着替えて食材を冷蔵庫にしまうとスタッフルームへ戻る。

「なあなあ、凪。ジャンクなピザってどんなだ?こないだ聞いてから気になってよお。」

隆耶さんは気になって仕方なかったらしい。ジャンクと言われてもピザのことなのだ。どんなピザなのか興味津々だ。

「夜のお楽しみです。」

「はよーっス!!」

そこにめずらしくギリギリではない志希が入ってきた。

「志希くんギリギリじゃないなんてめずらしいね。」

「おいおい、今日はスコールでも降るんじゃないか?やめてくれよ志希。」

「ちょっと2人とも酷くないですか?オレを何だと思ってるんです?」

「まあ、言われても仕方ないな。いつもギリギリだから志希は。」

オレがそう言った時に後から黎が入ってくる。

「えと、おはようございます。」

「おはよう黎くん。」

「おはよ。今日も頑張れよ黎。」

「おはよう。」

オレも何とか普通の顔のつもりで挨拶する。

「はい。今日もよろしくお願いします。アキさん、陵耶さん、凪さん。」

黎に名前を呼ばれるとドキッとする。黎の視線がオレを捕らえてるのがわかってオレは心拍が上昇してきた。

「オレの家、黎の近くってこの前いったでしょ。したら今日は黎がオレを迎えに来たんですよ。オレ寝ててあわてましたよ。」

「なるほどね。だからギリギリじゃないんだ。」

「黎ってばバイトに行く1時間も前に来たんですよ。」

「だって志希くん、この前志希くんの家で飲んだ時、起きれないんだってぼやいてたから。目覚まし5つもかけても起きれないって…。だから今日もそうなんじゃないかなって思って行ったら案の定まだ寝てたし。」

「志希、これからは黎に起こしてもらえ。」

「これで水曜日と土曜日は志希くんは遅刻の心配をしなくて済みますね。」

「アキさん、土曜日は起こしますけど、水曜日はボクも大学からなので起こせません。」

「そっか。そりゃそうだわな。志希そんなでよく彼女に怒られないな。」

「呆れられてます。オレ捨てられるかも…。」

一斉に笑いが起こる。オレは黎の視線から逃れられた事にホッとしていた。

黎の何か言いたげな瞳。

わかってる。でもごめん。オレまだ自分の中であん時のことが忘れられないんだ。黎を見ると否応なしにあの時の事が蘇るのが辛いんだ。ごめん。

オレは心の中で黎に話かける。それが聞こえたかのように黎の目がオレの方を向いた。

「っ…。」

落ち着いたはずの心臓がバクバクしだす。

「凪さん制服のタイが歪んでますよ。」

黎はそう言うとオレの傍にきてタイを真っ直ぐにする。オレはきっと顔はひきっていたと思う。オレより背の高い黎はオレに合わせるようにかがんでタイを直す。

「はい。これで真っ直ぐになりました。」

距離をつめるような黎の身体から一歩後へ下がる。

「あ、ありがとう。」

これがオレの精一杯だった。きっと黎はオレと話がしたいんだろうけど今のオレは無理だ。

「さあさあ、2人とも着替えてきてください。そろそろオープンの準備を始めますよ。」

アキさんの言葉で2人はロッカーへと移動する。オレはその場に崩れるようにイスに座りこんでしまった。

「大丈夫ですか凪くん?」

「ほらな、顔色いっぺんに悪くなっちまって…。」

「凪くん、落ち着いたら厨房に行って下さいね。ボクはロッカールームで2人とフロアの事で話があるのでしばらくここには来ませんから。」

「厨房は座るとこなんてないからな。今のうちに平常心取戻しとかねぇとこの前の二の舞だぞ凪。」

ウインクして厨房に隆耶さんは入って行き、アキさんもロッカールームへ消えた。

あの2人は何か感づいてるんだろうな。聡い人達だから。

オレは2人の心遣いに感謝して少しの間そこで心を落ち着かせてから厨房へと入って行った。



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