「キミと空とネコと」
やさしいkissをして

やさしいKissをして25

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「先輩コーヒーでいいですか?」

「ああ。おかまいなく。話するだけだし…。」

オレの言葉を聞いていないのか、オレの返事はどうでも良かったのか、黎はコーヒーをマグカップに入れると持ってきた。

黎のマンションは1Kだけど広めだ。12畳は軽くあるだろうな。片隅のベッドはロールスクリーンで仕切られていて見えないようになっている。きれいに片付いていて、物がごちゃごちゃしてなくてシンプル。だけど、落ち着きのある色で統一されていて居心地のいい空間で、黎らしいなって思った。

黎は高校生の頃はオレより年下なのに、妙な落ち着きがあって、オレより身長は高いし、しっかりと筋肉のついた身体はしなやかで動物で例えるなら豹。足も速くてこれだと思ったらボールを取りに行く姿はまるで獲物に向かって走り出した豹だと思ったもんだ。黎と同じポジションを争ってて最後に勝てたのが不思議なくらいだった。

「先輩。どうして進路変更したんですか?」

コーヒーを飲んでいると黎がオレを見ながら聞いて来る。やっぱりそこ聞くよな。わかってた事だけど、話すのは勇気がいる。でも話さなくちゃ次に進めないんだ。

「しんどくなったんだ。どこに行っても足の心配をされ、大丈夫だからって言わないといけない自分が…。これからもずっと言い続けるのかと思うとうんざりした気分になった。それにあの時から部活は出来なくて、勉強が出来る時間は増えたし、勉強に力を注いで他の事を考えないようにした。ここの大学にくることで地元とも離れられるって思ったんだ。」

「やっぱりそうだったんだ…。」

「もう走れない。サッカーは出来ないって思ったら、そこにいるのが苦痛になった。」

「ごめん先輩。オレがあの時ちゃんとボールにタックルしてれば…。」

「もういいんだって黎。蒸し返したところでオレの足は治らないんだ。全く走れないわけじゃない。全力疾走をせずに少し走るくらいなら出来る。サッカーに怪我はつきものだ。たまたまオレは運がなかっただけだ。」

「違うっ!!オレが先輩にタックルしなければこんなことにならなかったんだ!!」

「もう!!何度も言わせるな。黎のせいばかりじゃない。いい加減にしてくれ。何で忘れようとしてんのにオレの前に現れたんだよっ!!黎がいなければ忘れられたかもしれないのに…。」

「忘れられると思ってるの?先輩。忘れられないから苦しんでるんだろ。それはオレだって同じです。あの時の事が忘れられずに…。誰にも責められませんでしたよ。先輩がみんなに「黎のせいじゃないから、アイツを辞めさせるな。責めるような事を言うな」って言ってくれたおかげで、オレは誰からも責められる事はありませんでした。だけど、それが余計に辛かった。オレのせいでって言ってくれたほうが良かったよ。」

黎は下を向いていた。黎の膝の当たりにポトンポトンと涙が落ちて染みを作る。

「オレはもっと走りたかった。大会に出たかった。もっとサッカーを続けたかった。でもオレの足じゃもう出来ないから、その分黎に走ってもらおうと思ったんだ。黎の事を恨んで無いといえば嘘になるけど、本当に心の底から恨む事はオレには出来ないよ。黎がサッカーの事を真面目に練習してた事を知っているから。サッカーを愛してたのを知ってるから。みんなが帰った後も黎は残ってシュートの練習したり、ドリブルしたりしてただろ。」

「知ってたんですか?先輩。」

「ああ、オレは黎の事が気になってたからな、ライバルだろ。気にしないほうが無理ってもんだ。」

「オレの事を気にしていてくれたんですか?それがサッカーのためだとしてもオレは嬉しいです。」

「そう言えばお前もうサッカーしてないのか?黎にはサッカーセンスがあったし、どっかに所属してるのかと思った。」

「先輩、オレみたいな奴はその辺にゴロゴロいるんですよ。プロを考えた事もありましたけど、プロテストを受けてみてオレにはそこまでの才能がない事がわかりました。でもサッカーは好きなんです。先輩がその楽しさを教えてくれました。だから今は大学のサークルでサッカーをしてます。」

「そっか。辞めてはいないんだな。良かった。オレの事を気にしてあきらめちゃってたらオレ、黎にどうしたらいいのかわからないから。そっか。オレ、黎にサッカーの楽しさをちゃんと伝えてたんだな。それが聞けて嬉しいよ。」

「先輩、コーヒーのお代わり入れましょうか?」

「ああ。頼む。」

あんなに黎の事を避けてたのに、黎の話を聞いていてオレがサッカーの楽しさを後輩に伝えられていた事が嬉しくてしかたなかった。途中で辞めてしまったけど、オレがいた証は後輩達の心の中に残ってるんだ。それだけでも高校時代にサッカーをやった意味があると思った。


「じゃ、黎がこの大学に来たのは?」

「もちろん先輩の後を追いかけるためです。先輩はオレの憧れの人なんです。ちゃんと先輩の気持ちを受け止めて、オレも乗り越えて行かなくちゃいけないって思いました。そうしないと二度と先輩は地元に、オレのところには帰って来ないんだと思ったんです。バイト先も先輩の後を付けて知りました。」

「後をつけてって、それ犯罪だぞ。ストーカーじゃないか。」

「すいません。ごめんなさい。でもオレ必死だったんです。先輩との繋がりを少しでも持ちたくて…。」

「普通に声掛けてきたらよかったんじゃないか?学校でさ。」

「先輩、高校時代とは雰囲気が全く違ってて、他人を傍に寄せ付けないってバリア張ってて中に入る勇気が持てませんでした。」

「まあ、オレは他人から一線引いてるからな。」

「どうしてですか?やっぱり高校時代のせい?」

「ああ、そうだな。友達を作れば面倒になるかもしれないとは思っていたからな。」

「でもあの達樹とか言う人はいつも先輩の横が当たり前のように立っていたじゃないですか!!」

「黎、子供みたいな事言うな。達樹はオレで遊んでるだけだ。あいつには友達がたくさんいるし、女だってたくさんいるだろ。あの顔だからな。女受けする。唯、オレが珍しかっただけだ。オレを走らせてしまった罪悪感もあるのかもしれないな。大学で見たろ。大きな声で『凪走るなっ!!』って叫んだところ。気にしてくれてるんだよ。大学ではオレは話すのは達樹くらいしかいないしな。友達を作ろうとしないからオレだけでもそばにいてやろうって思ってんのかもな。」

「ほんとにそれだけですか?」

「それだけって他に理由があるのか?」

「先輩は男同士が愛し合う事をどう思います?」

「何だよいきなり…。どう思うって言われても…。お互いを必要としてて、それがたまたま同性だったならあるんじゃないか?」

アキさんと聖夜さんを思い浮かべる。あの2人は一緒にいても不思議とは思わない。2人でいる方が自然だと思う。

「それは先輩自身にも当てはまりますか?」

「オレ?」

オレが男を好きになる?女もろくに知らないのに…。

「わかんね。てか、ろくに女の子とも付き合った事がないのにそんな事言われても分かるわけ無いだろ。」

「そうですか…。男同士の恋愛は認めても自分と置き換える事は出来ないんですね。」

「まあ、そうなるな。そう言えば黎は女の子と良く付き合ってたよな。彼女が試合に来る事ざらにあったもんな。でもあんまり長続きしなかったような気がする…。」

「昔の話です。あの時は女の子達に酷い事をしたと思ってます。本当に好きな人がいたのに、その人がオレの事を好きになってくれる可能性はほぼ0%で、その穴埋めに彼女達を利用したんです。」

「黎、お前って最低だぞ。」

「オレもそう思います。だからそれに気が付いてからは女の子と付き合うのは止めました。それまでオレ自身、その人の事を愛してるっていう事に気が付いていなくて。なんでこんなに気になるんだろうって思ってたらもう好きになってたんです。」

「まあ、人を好きになるのは理屈じゃないしな。」

「先輩は憎んでる相手でも好きになれますか?」

黎がオレの顔をじっと見ている。オレはその視線が怖くて目を逸らしてしまった。

何だ?あの黎の視線が意味するものって…。


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