キミが思い出になる前に

キミが思い出になる前に17

 ←キミが思い出になる前に16 →キミが思い出になる前に18



良太とカズサの毎日はこれといった変化もなく接触もないまま続いている。

1人で過ごすカズサと、終始玲奈が引っ付いている良太。

時折、玲奈の目を盗んでカズサを見る良太だけど、カズサはその視線に気がつくことはなく、いつも本の世界の中にいる。

「カズサ、なんだか顔色が悪いし、痩せたような気がする。」

内心、最近のカズサの様子が変わってきたのに気が付いて心配なのだけれど、今の状態では何も出来ない。良太は少しの苛立ちを感じていた。オレはこのままでいいのかと…。

カズサはカズサで眠れない毎日を送っていた。悲しくて寂しくて…。薬が効いてくれないのは心の要因が大きすぎるからなのだとはわかっているけど、病院に行って話す気にもならずに効かない薬を飲んで寝ている。何より、気力がわかないのだ。何をするにも…。

部屋の掃除をしようとしては「ここは良太が座ってたな」とその時に思いをはせる。洗濯しては「このシーツで一緒に寝たな」と思い出す始末で…。何もかもが良太に結びついてしまい、家の中は乱れていた。

いつものカズサなら乱れて入る事が許せないのに片付ける気さえ起こらない。気が付けば思い出ノートとデジカメの写真を見ては涙をこぼしている。

そんな状態だから食欲もなくいつも簡単に何かを口に入れておしまいになっていた。だから良太が思っている通りに痩せてしまったのは当たり前のことだ。

「ボクはこんなことじゃダメだ。女の子じゃないんだから一つ恋を失ったくらいでこんなことじゃ…。」

そう思いはするのだけど、良太への思いは小さくなるどころか、大きく膨らんでいく。

こんなことなら会わないほうがよかったとさえ最近は思ってしまう。

学校へ行って、良太を見ると心は高鳴るけれど、その横には必ずと言っていいほど玲奈がいて現実を目の当たりにする。

良太には玲奈がいるんだと…。それが普通の事で、男の良太が男のカズサを好きになってくれることなどないのだとわかっているのに夢見てしまう。しかし、所詮それは夢でしかないのだと毎日良太と玲奈を見て身を持って知る事となっている。

カズサが日常の中で周りの人とかわす言葉も少なく、人と話をしない日もある。それでもカズサはカズサで人を恨んだりする事はしない。むしろこうなってしまったのは自分の責任だと思っているのだ。だから、良太と自分の事で悲しむ事はあっても他人に対する態度は以前と変わらない。困っている人がいれば自分が出来る事は手伝うし、笑顔を見せたりもする。

「ヤッベー。次の物理、オレ当たるんだった。勉強してねーよ。」

「マジかよ。オレ、わかんねーぜ。」

「誰かやってねーかな?」

「良太に聞けば?」

「玲奈に睨まれるじゃん。最近少しでも邪魔すると鬼睨みしてくんだぜ。」

カズサの後で何気なく聞こえてきた会話。『良太』と言う言葉に読んでいた本から気がそれてしまった。

「ボクのでよければ見る?」

気が付けばその男の子達に話掛けていた。

「あ、ごめん。ボクと話すとダメなんだよね。ごめん。」

「あ、えと。貸してくれるのか?」

「うん。いいよ。でもボクと話してると迷惑がかかるかもしれないね。ん、じゃボクトイレに行くフリして横を通るからその時にノート渡すね。」

ボクはノートを持つと後の席の机にさりげなくおいて教室を出た。

「なあ、カズサってさ。いい奴なんだよな。」

「ああ。オレ達に無視されててもアイツは変わらないよな。」

「オレなんかすっげー悪い事してる気がしててさ、気がとがめるんだよ。」

「オレも…。カズサが何かしたわけじゃないんじゃないの?みんなカズサが良太と玲奈が付き合ってないって嘘を付いた、邪魔してるとかいうけどさ、あのカズサがそんな事するか?」

「だよな。オレは最初言われてそうなのかって何の考えもなく言う通りにしちゃったけど、よくよく考えればわかる事なのにな。」

「ああ、でも今更だろ。」

「まあな。でも女のいいなりみたいで情なくないか?」

「確かにな。おいカズサのノート見てみろよ。すんげーわかり易いし、きれいな字だぜ。」

「ほんとだ。あいつらしいな。テストの時に貸して欲しいくらいだな。」

そんな会話の中カズサが戻ってくる。

男の子達が口パクで「ありがとう」と言うとそれに気が付いたカズサがニコッって微笑む。話すと他の人にばれちゃうからカズサは「いいよ」っていう意味で笑顔で答えたのだけど、カズサにしてみれば久し振りに自分をみて声をかけてくれた事が嬉しくて笑顔で答えた。

一方でその笑顔を向けられた友人達は、久し振りに向けれらた笑顔に固まる。いつも良太に向けられていた笑顔を目の当たりに自分に向けられて、ドキドキとしてしまっている。それだけ魅力的だった。少し頬を赤くして顔一杯の笑顔にやられてしまうのは仕方のない事。沈んでいるカズサの表情しか最近は見ていなかったから、よりいっそうその笑顔が輝いて見えたのだ。

そのまま席について文庫本を読み出したカズサの後で男の子達がヒソヒソと話す。

「おい。今のカズサの顔見たか?」

「ああ。あいつの顔みてオレドキドキしちゃったよ。」

「お前も?オレも…。あれじゃ玲奈がカズサを目の敵にすんのわかるわ。」

「だな。ほんとにカズサが悪いのか?」

カズサはそんな会話がなされている事など知らず、目の端に見えた良太と玲奈の姿に胃が痛くなる思いだった。

1度気にすると見たくなくてもそこが目に入ってしまうし、声も聞こえてしまう。ダメだって思っているのに会話を聞いてしまう。

「良太。今日は部活ないでしょ。一緒に買い物に行って玲奈の家に来て。」

「玲奈の買い物は長くなるから嫌だ。」

「もう。じゃ、買い物はお休みの日でいい。駅前に新しいケーキやさんが出来たから連れて行って欲しいな。」

「それくらいならいいよ。」

「ほんと?玲奈嬉しいな。」

そんな会話にでさえ嫉妬して、自分とは紡げない時間も玲奈はやすやすと手に入れる事が出来るんだと羨ましくて。

何よりそんな事を考えている自分が嫌になって、胃の痛みが増す。最近ロクに食べてないから吐きたくても吐くものがないのか胃液が上がってきて、冷や汗が出てきた。机に突っ伏して痛みを逃そうと耐えるのだけど、耐えれそうもなくてとにかくトイレに行かないとと思うのに動けない。

痛いのに動けない。吐きそうだし、ここじゃみんなに嫌な思いをさせちゃう。

ノートを移し終わった男の子がカズサにノートを返そうとカズサの机に来てカズサの異変に気が付く。

「おいっ!!カズサ?カズサどうしたんだ?」

冷や汗を流して青い顔をしたカズサは力なく見上げるが、その顔に体調がすぐれない事は誰が見てもわかる。

「立てるか?」

答えないカズサを男の子達が抱えて保健室に連れて行く。

カズサたちの居なくなった教室ではカズサの様子をあちこちで噂していた。もちろん良太も気にしていたのだが、玲奈が傍にいるから動けない。

玲奈の友達が良太と玲奈の所に集まってくる。

「今の見た?」

「あれ、きっと演技よ。良太くんの気を引きたかったのよ。」

「ねえ、すっごく姑息よね。あんな事して気にしてもらおうなんて男のする事じゃないわよね。」

「良太、あれはあなたの気を引くための嘘なんだから気にしないでいいわよ。」

「良太はどう思ってるのかしらないけど、カズサくんってあんな事平気でする子だよ。玲奈知ってるもん。」

あれが演技?良太は玲奈から離れることも出来ずにイライラする。何よりも自分じゃない男がカズサを抱き抱えて行った事に苛立ちを覚えていた。

オレが傍にいたらオレがカズサを運んでやれたのに!!



ランキングに参加しています。ポチッと押してくだされば嬉しいです。いつもありがとうございます・:*(〃・ェ・〃人)*:・

にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ
にほんブログ村
にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ
にほんブログ村


関連記事
スポンサーサイト





もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
もくじ  3kaku_s_L.png ご挨拶
もくじ  3kaku_s_L.png 貴方の腕の中で
総もくじ  3kaku_s_L.png キミと空とネコと
もくじ  3kaku_s_L.png S.S
もくじ  3kaku_s_L.png イラスト
もくじ  3kaku_s_L.png 頂きもの☆
もくじ  3kaku_s_L.png 雑記
総もくじ  3kaku_s_L.png 新撰組物語
  • [キミが思い出になる前に16]へ
  • [キミが思い出になる前に18]へ

~ Comment ~

 

あ~これ読んでたら女が嫌いになってくる~
って自分も女なんだけどぉ~?

Re: タイトルなし 

蝶丸様こんばんは☆

女の嫌な面がたくさんですよね。はい。気を悪くされたらごめんなさいです。

恋する女って計算するから傍から見るとエグイですよね。実際にこんな女がいたので参考にして書いてます。

蝶丸様はこんな女の人じゃないですから、こういう女もいるよねーくらいにしておいてくだされば…。すいません、玲奈まだ出てきます・・・(・∀・i)タラー・・・

良太とカズサのハピエンに必要なので玲奈…。

蝶丸様コメありがとうございました☆

 

ロミオとジュリエットか、フランダースの犬状態になりつつあります、良太とカズサ(?・苦笑)。

でも、さらにカズサを好きになる男子が出てきたりしたら、どうなっちゃうんでしょ??(でも期待)。
あ、礼奈ちゃん、馬に蹴られます?

Re: タイトルなし 

良太とカズサって絶対に相性がいいと思ってます(笑)

悲しいお話は嫌なので私はハピエン主義です。現実はハピエンにならない事がどれだけ多いか…。せめて自分のお話の中だけでもハピエンにしたい…。だから悲恋にはならないですよシャキ─(。ì ‿​‿ í。)─ン!

玲奈も玲奈で嫌な女の子ですが、彼女もほんとに良太が好きなんですね。やり方は間違ってますけど、だから良太も無碍に出来なくて困ってるんですねえ。

玲奈の場合、玲奈に何かしようとすると親衛隊が出てくるので玲奈は無傷の可能性大なのです。そこは女王なのです。困ったもんだ。

ますみ様コメありがとうでした☆
管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • [キミが思い出になる前に16]へ
  • [キミが思い出になる前に18]へ