「キミと空とネコと」
やさしいkissをして

やさしいKissをして84

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あれから3日。

眠るとあの日の光景が夢の中に出てくるようになってロクに睡眠が取れていない。

憔悴しきった顔で大学に通う日々。

他の人と話す事のない毎日は色のない世界にいるようで、自分が何者なのかさえ忘れてしまいそうだ。

いっそ心などなくなってしまえばいいのに…。

食欲もなく睡眠も満足に取れていない身体は日に日に痩せていき、貧血なのかよくめまいを起こすようになっていた。

何を食べても味がしないとなれば食欲もわくわけがない。

登録が一つしかない携帯にビクビクしながら1日が過ぎる。

下條が忘れるわけもなく携帯が震える。

「凪お待たせしました。やっとあなたと過ごす時間が作れました。いつものように数時間ではもったいないので休みを取ったんですよ。今日はゆっくりと過ごせます。どうやらあなたの周りにも嫌な影はないようですしね。」

「仕事には毎日行っているのか?」

「おや心配してくれるんですか?」

「違う。オレの事を監視してるんだろ。仕事なら1日監視出来ないはず。以前からどんな時間の事でも行動でもお前には筒抜けだったからだ。」

「そうですね。種明かしすれば私には探偵をやっている身内がいましてね、そいつに凪の事を見張らせていたんですよ。でももう必要はなくなりましたけどね。凪が私の物になりましたから。でも安心しない方がいいですよ。いざとなれば私はどんな事でも平気で出来る人間だってことをあなたが一番知っているでしょう。私を怒らせない事です。いいですね。今日も21時に2110号室で会いましょう。」

いうなり電話は切れてしまう。いつもの事だ。オレにNOと言う事は出来ない。

今日もオレには監視が付いているのだろうか?

周りを見たところで誰が探偵なのか分からないのだから仕方ない。

とうとう下條の言いなりになる日が来たんだと冷めた心で思う。

どこかで悲鳴を上げている自分を見ないようにして家に帰ると時間を潰す。

21時が近くなるにつれ吐き気を伴って目がグルグル回るような気がするが行かなければ何をするかわからない。

早めに家を出てタクシーを探す。

いつもならつかまりにくいのに、今日に限って通りに出た途端に掴まった。皮肉なのか…。

行先をつげシートに背をもたせネオンの光る空虚な街を眺める。きれいなネオンの色には現実味が感じられない。うわべだけの色。

達樹といたころは太陽を浴びて自然の色に包まれていた。

夜でさえ夜ならでの漆黒の闇の色があって、それさえも自然の色として傍にあった。達樹の温もりと一緒に。

今の闇は只の黒だ。色じゃない。

ホテルなんかに着かなくていいと思うのに、すぐについてしまい、ノロノロと支払を済ませるとタクシーを降りる。

ホテルの玄関は意味もなくきらびやかで、闇を抱えたオレには眩しすぎる。

そう思ったからなのか、これからの事を身体が拒否しているのか吐き気が酷くなり、あわててトイレに駆け込んだ。

吐くものなんか何もない。胃液だけが上がって来て涙がこぼれる。

21時まではまだ時間が少しある。

洗面所で顔を洗っていると誰かが入って来た気配がし、顔を伏せるように下を向いた。誰にも見られたくない。これから起きる事を思うと尚更だ。

外に出ようかと思ったが、時間前に部屋に行きたくないし、コーヒーなんか飲む気分でもなくオレはそこで立ち尽くしていた。

「あれ?もしかして凪くんじゃない?」

名前を呼ばれてビクンと身体がこわばる。

誰だ?オレを呼ぶ人間はこの何週間もいなかったはず。オレが避けていたのだから。

オレを知っている人?あまり聞いたことのない声に恐る恐る顔をあげる。

「やっぱり凪くんだ。覚えてる?アキのお店で響夜のお祝いしてくれた時に会ったんだけど…。」

響夜さんのお祝いの時…。

カイトさん…。

「カイトさん。」

「どうしたのこんなところで会うなんてね。あの日以来だね。って凪くん顔色がすごく悪いよ。それにあの時に比べるとすごく痩せてない?何かあったの?」

「オレに関わらないでください。知らない顔してここから出て行って。お願いします。じゃないとあなたまで巻き込んでしまう。」

「凪くんっ‼」

ずるりと身体の力が抜けて座り込む。

「大丈夫ですから。カイトさんは早く離れて。オレの事は知らない顔をして。もしかしたらもう見られたかもしれない。でもオレが守るから。ちゃんとみんなをオレが守る。大切な人達はオレが…。」

「ダメだよ。凪くんをほって行くことなんか出来ないよ。何かわけがあるんだろう。オレじゃ力になれない?」

「そういう事じゃないんです。これはオレの問題だから他の人を巻き込んじゃいけないんだ。」

「あのね凪くん。そんなキミをみてほっておけるほど酷い人間にはなれない。ボクここに部屋を取ってるんだ。そこに行こう。」

「ダメです。奴に見られたらあなたに迷惑がかかる。オレは監視されているかもしれないからカイトさんの部屋には行けない。」

「そんな事言ってる場合?そのままじゃなければいいのか。ちょっとここで待ってて。いい?絶対に動かないで。動いたら警察呼んで探させるからね。いい?わかった?」

強い口調で言われ力なく頷く。どうするつもりなのか知らないけど、21時まではまだ時間がある。少しここで休んで行こう。

座り込んだままうなだれていると人の気配がして顔を上げる。

そこにはなぜかドアボーイが立っている。

ああ気分が悪いのかと思ってか…。ずるずると壁伝いに身体を起こす。

「高瀬様から言われて来ました。」

「高瀬?」

「高瀬 海人様です。」

「ああ。で、何?」

「この服に着換えて3005号室まで来てくださいとの伝言です。」

ドアボーイは紙袋をオレに差し出す。

そこにはドアボーイの制服が入っており、帽子まで一式入っていた。

「私はトイレに行くふりをしてここに来ております。ほかに人がいない事は確認しておりますので急いでこの服に着換えて下さいますか?」

「あ、はい。」

何だかわからないがホテルマンのふりをしろって事か。

オレは渡された紙袋から制服を取り出すと着換える。ご丁寧に靴まで入っていて帽子を目深にかぶって俯けば顔はわからないかもしれない。

「サイズもぴったりですね。さすが高瀬様です。お洋服は紙袋に入れてください。持ってきた荷物がないと不信に思われるかもしれません。あなたは私のふりをしてこのまま高瀬様のお部屋に行ってください。私は少し時間をおいてからここを出ますので。」

「ありがとう。でもいいんですか?こんな事をしても。」

「心配いりません。高瀬様がきちんとオーナーに話をして下さってますから私が叱られることはありませんので。お気遣いありがとうございます。さあ早くお部屋に行ってください。ここを出て左に行くと非常口があります。その扉の中に入ると奥に従業員用のエレベーターがありますからそれで30階まで行ってください。人目に着かずにお部屋まで行けると思います。」

「あ、ありがとうございます。」

「お礼は高瀬様に。何か困ったことがあればすぐに言って下さい。当ホテルは安心して来て頂いてリラックスしていただくことをモットーにしております。お客様にとりましてもそうであって欲しいと思います。」

オレは着ていたものを紙袋に入れるとトイレを後にして言われた通りに非常口から従業員用のエレベーターに乗ってカイトさんの部屋の呼び鈴を鳴らした。

ここまで誰にも会っていない。気を抜かないように背中をピンとはりホテルマンのふりをする。

呼び鈴をならしてすぐにカイトさんがドアを開けてくれて中に入る。

中にはさっきのドアボーイが居てビックリしてるとカイトさんがフフッと笑った。

「驚いた?でもさっき凪くんの会ったドアボーイさんじゃないよ。彼はお兄さん。一卵性の双子なんだ。ここにドアマンが入って来て出て来なかったら問題だろ。だからここに来てもらってたんだ。ありがとう。もう仕事に戻っていいよ。助かりました。オーナーにはちゃんと言っておくから。お兄さんにもお礼言っといてね。もし誰かにこの事を言われたら知らん顔してその人の顔覚えといてくれる?お兄さんにもお願いしておいて。」

「わかりました。じゃあこれで失礼します。」

ドアボーイはきれいにお辞儀して部屋を出て行った。

携帯が紙袋の中で震える。

気が付くと21時を回ってる。

オレとんでもない事をしてしまったのではないだろうか。

身体がガタガタと震えて血の気が引いてその場に崩れ落ちる。

震える手で紙袋から携帯を取り出して出ようとしてカイトさんに電話を取り上げられた。

「出る必要ないよ。」

「でも出ないとあいつ何するかわからない。」

「誰に何をするって言うの?」

「オレに関わる人に何をするか…。命を奪うような事も平気でするかもしれない。やっぱりオレ行かなくちゃ。」

よろよろと立ち上がり行こうとしてカイトさんに手をつかまれた。

「そうやって相手の言う通りにしていて凪くんは大丈夫なの?」

「オレの事はどうでもいいんです。みんなに被害がなければそれでいいんだっ。」

パシンと乾いた音がして頬を殴られた。

「しっかりしなよ。凪くんがそんなでみんなが守られて嬉しいと思う?キミの周りの人達ってそんなに頼りないかな?自分を犠牲にして守られたって嬉しくないよ。卑怯者の言いなりになんてなる必要ない。」

強く言われて涙が溢れる。

「でも、オレのせいで黎はけがをしたし、聖夜さんやアキさんだって交通事故にあったかもしれないんだ。それに達樹は何されるかわからない。一番あいつが目の敵にしてるから。達樹を守らなくちゃいけないんだ。」

「凪くん落ち着いて。ちゃんと一からボクに話して。もう知らないふりは出来ないよ。こうして関わってしまったからね。大丈夫だよ。キミの周りにいる人達はとても賢くてこういう事には長けてるからね。」

鳴りやんだ電話の電源を落としてカイトさんはボクにお風呂に入って温まるように言う。

達樹やそれ以外の人の心配をするオレにちゃんと連絡を取って身を守るように言うからって。それでも言い募るオレに達樹をアキさん家に行かせるように車を手配するからと言われ、達樹が聖夜さんの家の中に入ったことをカイトさんが確認してからオレは風呂に入った。

バラの香りのする風呂はアキさんの家で入ったお風呂を思い出させる。

そのバラの香りとはちょっと違う香り。久しぶりにバスタブに浸かりながらほーーーっとため息をつく。

ほんとなら今頃は下條のおもちゃにされてたはずなのに。

でもこれからどうしたらいいんだろう。いつまでもここにいるわけにはいかないし、下條が諦めるとは思えない。

少し元気が出たと思ったけどこれからの事を考えるとこうして良かったのかと頭の中はグルグルと負の感情が回りだす。

達樹、訳も分からずに聖夜さんの家に連れてこられてビックリしただろうな。ごめん。卒論で忙しいのに…。

小さなため息を一つ漏らしてオレは風呂を出た。

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