月と太陽がすれ違う時

月と太陽がすれ違う時3

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猫は静かでいい。

ピアノの下で丸まる白い小さな物体を見ながらそう思った。

犬はうるさくて苦手だ。

愛してくれ、愛してくれとねだられているようで苦手なのだ。

その点、猫は気まぐれに近づいてくる事はあるが、必要以上に求める事がないのがいい。

この白い猫もしばらく流星につきまとっていたが、眠たくなったのか陽の当たるピアノの下で丸まると眠ってしまった。

流星も必要以上に猫をかまったりはしない。

この白い猫のせいで今日も学校に行けなかった。

いや、この白い猫のせいにして行かなかったと言う方が正しい。

「きっと片桐は電話してくるだろうな。いちいちめんどくさい人だ。そんなに必死ならなくてもあの人は俺の事なんてそんなに考えちゃいないのに。」

仕事熱心な片桐の事だ。きっと流星が登校したか担任に電話するに違いない。登校してないのを知ればお小言を言うに決まってる。

明日は必ず学校に行かないと。

毎日、片桐の声を聞くのもたまったもんじゃない。

案の定、夜になると片桐から電話が入る。

「流星様。」

「わかってる。今日は行かなかったが、明日は必ず行く。」

「私はまだ何も言っておりません。」

「言いたい事はそういう事なんだろう。だから先に言ったまでの事。」

「エントランスに来ています。ドアを開けてください。顔を見るまでは帰りませんから。」

顔を見るまでは帰らないと言うなら見せない限りはそこにいるつもりなのだろう。

片桐はとんでもなく頑固でもある。

流星は大きなため息をもらすとオートロックを解除する。

「ありがとうございます。」

そう言って片桐は電話を切った。

ほどなく部屋を訪れた片桐が、いつもの表情のない顔を驚きの顔に変えて固まってしまった。

「何だ?何をそんなに驚いている?」

「そ、そこにいる白い物は何です?」

「見ればわかるだろう。猫だ。」

「猫はわかります。わかりますがどうしてここに猫がいるんです?」

「俺が連れて来たからだろう。ほかにどんな理由が?」

「流星様が連れて来たんですか?猫を?」

「連れてきたが何かまずかったのか?ここは分譲だからペットを飼っても問題ないだろう?」

「ええ。ええ。ペットの飼育は大丈夫です。そんな事で驚いているのではありません。流星様がほかの生き物に興味を持たれた事に驚いているんです。」

「片桐。お前は失礼な事を言っているとわかっているのか?俺を何だと思っている。」

「どこでいつ拾われたのですか?」

「今日だよ。今日学校に行こうとして学校の近くに捨てられていたんだ。連れて帰るつもりはなかったが、こいつが俺の足にしがみついてきた。そんな奴を蹴飛ばすほど酷い人間ではないつもりだが?」

「そうですか。一応学校に行こうとされたんですね。」

「ああ。俺の話を信じるのか?」

「当たり前です。そんなつまらない嘘をつくような人ではないと思っています。私だって2年も流星様を見て来たんですから少しはわかっているつもりです。だから驚いたんですよ。でも良い事です。自分以外の温もりが傍にあるという事は…。」

「お前がそんな事をいうとは意外だな。お前こそ、他人に興味がないような感じなのに。」

「流星様ほどではありません。私は他人と関わり持って生きております。ちゃんと興味のあるものもございます。それを他人に見せないだけです。それよりも流星様、その猫を抱いてもよろしいですか?」

「猫が好きなのか?別にかまわない。猫さえ嫌がらないなら。」

片桐は静かにピアノの傍に行くとそっと猫に手を伸ばし小さな身体を抱き上げる。

猫も嫌がらずに片桐に抱かれている。

するといつもは無表情な片桐が愛おしそうに微笑むと、白い身体に顔をうずめて頬ずりした。

いつもは見せない表情に今度は流星が固まる。

「お前でも笑うんだな。この2年間で初めて見た。」

「失礼ですね。私にも喜怒哀楽はありますよ。流星様と一緒にしないで下さい。流星様のように何をしても無表情の方に笑いかけるような事はしません。無駄な労力ですから。」

「そうか。まあ、その方が俺も落ち着く。無意味に笑いかけられても気持ち悪いだけだ。」

「そうでしょうね。それより、この子の名前は何というのですか?」

「名前なんてない。猫だ。猫。」

「そんな。名前が猫だなんて、この子が可哀そうです。次に私が来るまでに名前を付けておいてください。しばらく社長のお供で海外に出張となりますので来ることが出来ません。だからといって自由だなどとは思わないで下さいね。代わりの者が流星様の事は見守っておりますので、何かありましたらすぐにお電話しますし、伺います。よろしいですね。」

「わかっている。ちゃんと学校も行くから、安心していつまでも出張に行っておけばいい。何ならそのまま帰って来なくてもいいぞ。」

「何をバカな事を。帰ってくるに決まっているじゃないですか。おやもうこんな時間ですね。じゃ、私はこれで失礼します。ちゃんとこの子の面倒を見てあげて下さいね。」

「ああ。」

片桐は猫を下に降ろし一礼すると部屋を出て行った。

「名前か…。」

流星の頭の中に名前が浮かぶ事はなく、考えるのも面倒になり思案する事を放棄する。

明日は天気だろうか?

どうせ学校に行くなら天気の方がいい。

雨だからというわけでもないが、外に出る気にもならず猫のごはんをすると風呂に入りオーディオの前に立つ。

今日はベートーベンのテンペストの気分だな。

CDをセットし、ベッドに横になり、音の波に身をゆだねる。

「何だ、お前も聞きたいのか?」

猫が流星の横にやって来て流星を見上げるとニャーと鳴く。

小さな身体を流星に引っ付けて丸くなる猫に不思議と違和感はなく、そのまま目を閉じて音の世界に同化していった。

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読んで下さいましてありがとうございます。
新連載も読んで下さってる皆様、初めて来てくだっさった皆様、ご訪問ありがとうございます。
なかなかもう一人が登場しなくてごめんなさい。皆様に流星を知ってもらいたくて流星のことばかりで…。あ、片桐は全然恋愛には関係ないので(苦笑)流星と片桐の話ではありません(笑)
明日、学校に登校して日菜太と出会います。流星と日菜太のお話がやっとスタートです。

流星はベートーベンが好きですが、私はモーツァルトが好きです。ベートーベンは胸が締め付けられる事が多いような気がします。切ないっていうか…。月光もそうですが。テンペストは第3楽章が有名でしょうか?聞けば知ってるって思う方が多いんじゃないかな。2楽章は優しいけど、3楽章は切ないかな。あ、クラッシック興味なかったらごめんなさい。すっとばしてくださいね。そんなに深く絡めるつもりはないです。私もそんなに詳しくないし…。ピアノの音が好きなんです。

では明日からの流星と日菜太を見守って下されば嬉しいです。最後までありがとうございました☆

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