月と太陽がすれ違う時

月と太陽がすれ違う時4

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次の日はとてもいい天気で、猫のおかげなのか音楽のおかげなのか、久々にしっかり眠った。

いつもなら昼前に起きる流星が、今日は朝に目を覚ましたのだ。

学校に行くまでにはまだ時間がある事を確認し、流星は布団から抜け出るとカーテンを開けて陽の光を浴びる。

この前、朝の日の光を浴びたのはいつの事だったか…。そう思いながらシャワーでも浴びようと風呂場に向かった。猫はまだベッドで丸くなっている。

名前考えないと…。

昨日、片桐に言われた事を思い出したが猫は猫でいいじゃないかと思う。そう思うと余計に名前なんか思いつかないもので、熱いシャワーを浴びながら考えるのが面倒になって考える事を放棄した。

キュッとシャワーを止め、バスタオルでガシガシと拭いていると猫が足にすり寄ってくる。

「何だ?腹減ったのか?」

独り言を言う自分の声が妙に部屋に響いていて少し笑えた。

ああ、今までは独り言も言ってなかったのだと思う。

音楽の音しかない部屋だったのだ。

妙な感覚に囚われながらミャーと鳴く猫の声を後ろにして猫のごはんを用意する。

ミルクと猫缶を少し。

猫缶は食べられるのかわからないからお試しだ。

ミルクだけじゃ帰ってくるまでに腹をすかせるのではないかと思ったのだ。

猫はミルクも猫缶もペロリと平らげまだ欲しいのか流星の顔を見上げる。

「何だ?まだ食うのか?」

又、独り言だ。でも猫に話してるから独り言とは言わないのか?などと思いながら猫缶を少し入れる。

ミルクは飲んでしまうから水を用意する。自分がいない間に喉が乾かないようにと用意する自分に苦笑する。だって流星は何も食べていないのだから。

飲み物くらいは買っておかないといけないと思う。コーヒーさえないのだ。水しかない。

猫缶を食べる事がわかったのだから、もう少し買っておいた方がいいだろうと学校の帰りに買い物する事に決めた。

猫の器を洗っているうちに学校に行く時間になり、猫の頭をひと撫でして流星は学校に向かった。

久し振りに朝、登校してくる流星を他の生徒が見てこそこそと話しているのが目の端に写って、流星は不機嫌な顔を見せた。

だから嫌なんだ。学校に行くのは。俺が登校したらおかしいのか…。

流星は人から見た自分は蒼井の名前にしか興味がないのだと思っているが、それだけでなく流星自身が目を引いているのだとは思ってないのだ。

長身でスラリと伸びた手足。無表情でも整った顔立ちが人の目を引かないわけはない。女だけではなく、男でもため息をついてしまうのが流星なのだ。

そんな視線の意味するところには無関心に学校の門をくぐり、教室に入ると窓際の一番後ろの席に座る。

すると一人の生徒が流星に近づいてきた。

「よう流星。珍しいな、お前が朝から登校してくるなんて。前に学校に来たのいつだ?」

「さあな。これ以上サボるとさすがに進級出来ないらしい。」

二人の会話をクラス中が聞き耳を立てて聞いている。

「もういいだろ津野。話すと疲れる。」

「はいはい。何かあれば俺に聞けよ。お前が休んでる間の事でも何でも話してやるから。」

「必要ならな。」

そう言うと流星は音楽を聴きだし、もう話す必要はないと意思表示する。

津野と呼ばれた男もそれ以上は話すことなく自分の席に戻っていった。

この学校の中で流星と会話をするのはこの津野というクラスメイトだけだ。

会話すると言っても津野から話しかける事がほとんどで、津野が話しかけなければ流星の声を聞くことはないのではないかと思う。

クラスメイトもしばらくすると流星をチラチラと見るくらいで、いつもの雰囲気に戻って行った。

そんな時だった。

「やっと会えたっ‼」

そう言うなり流星の前に一人の少年が立つ。

静かになっていた教室がざわめく。

流星は自分の前に立った少年を一瞥してそのまま外を見る。

「ちょっと無視しないでくれるかな?蒼井流星くん。」

流星に初対面で声をかけてくるような人間はいない。

みんな流星が他人に関わられることを極端に嫌っている事を知っているからだ。

流星が1年の頃は誰しもが流星と友達になろうとして話しかけたものだが、流星がそれを一切無視するような態度を取り、それでもしつこい奴は話しかけてくるなと言われ、腹を立てた奴とは喧嘩。

喧嘩といっても自分身を守るために武術を習っていた流星にかなうものはおらず、そのうちにみんな流星の事は遠巻きに見るようになった。

津野だけは特別だった。なぜか流星もいつの間にか受け入れていたのである。喧嘩をして仲良くなったのでもなく、いつの間にか普通に話していた。どうして津野だけがそうだったのかは流星にもわからない。

そんな事があったから、今では流星に話しかけるような人物はいなくなっていた。

「ちょっと聞いてる?俺、高野 日菜太(タカノ ヒナタ)。あ、ちょっと‼」

学校に来たと思ったらこれだ。

どうして俺をほっといてくれないんだ。

流星は最悪に気分が悪くなった。

学校に来るのでさえ嫌なのに、話しかけてくる奴が津野以外にいるなんて。

目の前の少年を疎ましく思い、流星はガタンと大きな音をたてて立ち上がると教室を出ていこうとした。

「ねえちょっとって‼」

出ていこうとした流星の手を、その少年が掴んだ。

「うるさいっ‼俺に触るな。話しかけるな。俺はお前に用はないっ‼」

「お前じゃないよ。高野日菜太だよ。日菜太って呼んで。」

流星のイライラがMAXになり、掴まれていた手を振りほどく。

「俺がお前の名前を呼ぶことはない。俺に近づくな。」

そう言うと流星は教室を出て行ってしまった。

教室の中がシーーンとなる。

「あーあ。流星怒らせちゃったな日菜太。ああなるとお前ガン無視されるぞ。」

「そうなの?間違ったかな。でも大丈夫。津野くんは話してるじゃない。俺もそうなるから。俺根性だけはあるんだ。流星追いかけてくる。」

「おい日菜太っ。…あいつ俺の言った事わかってんのか?」

流星の後を追って教室を飛び出していった日菜太の背中に津野は首を傾げる。

こうして流星と日菜太は出会った。

この時は誰しもが流星と日菜太が仲良くなるなどとは思ってもいなかった。

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