月と太陽がすれ違う時
月と太陽がすれ違う時5
流星はどうしようか迷っていた。
怒り心頭で教室を出て来たのはいいが、カバンを持ってくるのを忘れた。
財布も家の鍵もカバンの中だ。
このまま家に戻っても中に入れないし、猫缶も飲み物も買えない。
教室に戻るのも癪に障る。
何もかもさっきの奴が悪い。
一体何だっていうんだ。
俺の何があいつのフラグにたったのか?
取りあえず、気分を落ち着かせようと屋上に行く。
今日は運の良い事に天気で暖かい。
少しくらい外にいても大丈夫だろう。
屋上は陽もさしているはずだ。
屋上に行くとさらに給水塔に登る。
ここまで上がってくる奴はめったにいない。
学校で一人になりたい時にいつも流星はここに登る。
誰に見つかる事もなく一人でいられる場所だ。
さっきの騒ぎが嘘のように静かな空間がそこには広がっていて、流星はゴロンと横になると音楽を聞き始める。
少し毛羽立った気持ちも音楽が癒してくれるはずだった。
「見つけたっ‼」
大きな声がしてさっきの少年が嬉しそうに給水塔の梯子から顔を出して流星を見ていた。
「何でここがわかった?」
「津野くんに聞いてた。学校に来てもいない時は給水塔の上にいるって。流星酷いよ。俺が話しかけてるのに出て行っちゃうなんてさ。」
「お前俺をそんなに怒らせたいのか?」
「怒らせる?どうして?俺は流星に俺の事を知ってもらいたいと思っただけだよ。」
「俺は知りたくない。もういいからどっかに行けよ。」
「嫌だ。流星が俺の事をちゃんと覚えてくれるまで傍にいる事にするっ。」
「勝手に決めるな。何でお前の事を俺が覚えなくちゃいけないんだ。」
「俺が覚えて欲しいから。お前じゃなくて日菜太だよ。」
流星はもともとコミュニケーションを取るのが苦手だが、こいつは特に苦手だと思った。普通ならここまで言われれば離れていくのに、こいつは離れようとしない。
威嚇しても効かない奴は津野以外で初めてだ。
流星が思ったようにならない。
現に今も言葉を荒げたのにニコニコと笑っている。
「お前はバカか?」
「流星ほど頭は良くないけどバカじゃないと思う。」
何を真面目に答えてるのか。こいつは俺で遊んでいるのか?
こいつが何をしたいのかわからない。
知って欲しい?何で?意味がわからない。
こういう奴は相手にしない方がいい。
「お前、上に上がってこい。」
「うん。」
嬉しそうに梯子から上に登って来たのを確認して流星は下に降りる。
「え?流星?」
「じゃあな。」
「え?ちょっと待ってよ。」
さっさと歩く流星を追いかけて着いてくる。
「ねえ流星ってば。」
口を聞くから苛立つし、こいつも話しかけてくるのだと完全無視を決め込む。
「名前覚えた?日菜太だよ。流星に会えるのをずっと待ってたんだからね。」
こいつは自分は何をしても嫌われないと思っているのか?
人懐っこい笑顔で相手に話しかけてくる。
こいつはきっとみんなから愛されてきたんだろう。
だから愛されるのが当たり前だと思っているのか。
俺は愛なんて信じない。
こういうタイプの人間が一番嫌いだ。
結局、日菜太が1人でしゃべっているだけで、流星は一言も口を聞かなかった。
「まあ今日は初日だしこんなもんかな?俺の顔と名前は覚えといてね。覚えてもらうまで何度でも名前言うからね。日菜太だよ。」
その声も無視し、教室に入るとやっと日菜太が流星から離れる。
日菜太は満足気に席に座ると、周りに友達が集まってきて楽しそうに話している。
友達がいるのに何で俺に声をかけるのか意味がわからない。
「日菜太って流星が学校を休んでる間に転校してきたんだよ。で、あの顔だろ。明るいし、性格はいいしであっという間に人気者になった。友達も多いみたいだ。流星の事をやたらと気にして聞いてたから心配してたけど、お前とも友達になるつもりなんじゃないか?」
津野の言葉を聞いて日菜太を見る。確かに男だけど、綺麗な顔をしている。どっちかっていうと女顔だ。背も男にしては低く、身体も華奢だから余計に中性的に見える。
「俺は迷惑でしかない。友達になる気もない。」
「でも日菜太はどうかな?今日の様子を見てたら諦めてないみたいに見えるけど?てか、日菜太はお前が怖くないのかねえ。あんなに怒鳴られてるのに着いていくなんてさ。」
「誰とでも仲良くなれると思ってるんじゃないのか?誰にでも愛されると思ってたら大間違いだ。俺は嫌いだね。」
「うっわー辛辣だね。そんなに日菜太が嫌いか?日菜太を嫌うのなんて流星くらいのモンだぜ。」
「嫌いなものは嫌いだ。うるさいのが嫌いなのは津野も知ってるだろう。」
「まあな。」
その日はそれ以上日菜太が流星に引っ付いてくる事もなく、流星はホッとしていた。
日菜太の気まぐれであって欲しいと思う。
「今日はって言ってたな。まさか明日も絡んでくるつもりじゃないだろうな。」
まさか…。
頭が痛い。
取りあえずは今日は学校に行ったのだから、片桐のウザイお説教は聞かなくても済む。
帰り道、スーパーで猫缶とコーヒーと弁当とパンを買って家に帰るとやっと気分が落ち着いた。
何て日なんだ。
とにかく疲れた。
ソファーに身体を沈ませた流星の手を猫が舐める。
まるで「お疲れ様」と言われたようだと猫の頭をひと撫でした。
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