月と太陽がすれ違う時
月と太陽がすれ違う時9
日菜太と二人の帰り道、どちらもしゃべる事なく歩く音だけが聞こえる。
もともと流星はしゃべらないから日菜太がしゃべらなければ必然と会話はない。
日菜太もあの後だから、しゃべる気力もないのだろう。
片桐しか入れた事はない部屋に日菜太を連れて行こうとしている自分が不思議でたまらない。
他人に部屋に入られるのが嫌で片桐以外は入れた事がなかったのだ。
なんで日菜太なんだろうか?
流星はそんな事を考えながら歩いていた。
無言のまま歩く流星と、下を向いて歩く日菜太。
無言のまま流星のマンションまでたどり着いた。
「え?おっきい…。」
流星が入って行くのをあわてて追う日菜太だが、大きなマンションに豪華なエントランスについ口を開けて見てしまう。
「早く入れ。オートロックが閉まってしまうだろう。」
「あ、ごめん。」
流星に言われて小走りにエントランスのドアをくぐる。
日菜太は部屋に入って又驚いた。
玄関も広いけど、部屋の真ん中にグランドピアノ?
「そこのソファーに座れ。風呂用意してくる。」
それだけ言うと流星はさっさと風呂場に行ってしまった。
仕方なく日菜太はカバンを横に置いてソファーに座る。
「広くて綺麗で大きいけど、何か生活してるって感じのない部屋だな。それにあのピアノ…。」
キョロキョロと部屋を見回していると流星が戻って来た。
「傷にしみるかもしれないが綺麗にしておかないと傷の処置が出来ないから風呂に入れ。タオルとか着換えは脱衣所に置いてある。風呂場は出て真っ直ぐ行って右だ。」
「あ、ありがとう。じゃお風呂借りるね。」
日菜太は流星にぺこりと頭を下げていわれた場所に向かう。
「やっぱりお風呂も大きい。俺の家とは比べものにならないな。」
お風呂場は浴槽いっぱいに湯がはられ、ラベンダーの香りが漂っていた。
「リラックス出来るようにって入浴剤入れてくれたのかな?やっぱり流星は優しいよね。」
日菜太が風呂場でそんな事を呟いてる事は知らずに流星は傷の手当の用意をしていた。
昔はよく喧嘩もして生傷の絶えなかった流星の家にはその名残で救急箱が置いてある。自分で怪我の手当てをするために。
たまに片桐に見つかって説教されながら手当てをされた事もある。
その頃をふと思い出しながら、そう言えばいつの間にか喧嘩を吹っ掛けられる事もなくなり、喧嘩はしなくなったなと思う。
「コーヒーでも入れるか。」
冷蔵庫には相変わらず水しか入っていないが、コーヒーを買っておいて良かった。
人が来ることなんて想定していないから、飲み物をだすという概念がなかった。
コーヒーがあったのも猫のごはんを買ったついでにこの間購入したのだ。
湯を沸かしていると日菜太が上がって来る。
「流星お風呂ありがとう。」
日菜太は流星のスエットの上下を着ているのだが、あまりにも大きすぎてブカブカだ。スエットの上も下も裾や袖をまくっていた。
「お前どんだけ小さいんだ?」
「し、仕方ないだろ。流星が大きすぎるんだよっ。」
真っ赤になっている日菜太が可愛かった。
日菜太が可愛いだと?俺は何を考えてるんだ。
ふと思った事にうろたえ、ごまかすように日菜太に話しかける。
「コーヒーしかないけどいいか?」
「え?ああ。ありがとう。さとう3つ入れて。」
「3つってどんだけいれるんだ。子供だな。」
「う、うるさい。苦手なんだよ。苦いのって。」
「やっぱり子供だ。ほら。」
流星に渡されたマグカップを手にする。
「ありがとう。」
「さっさと手当てするぞ。」
コーヒーを飲んで一息ついた日菜太に声をかけて手当てをする。
擦り傷と打ち身くらいしかなく、頭は打っていないようだった。
「顔少し腫れてるな。口の横は切ってるし。」
「喧嘩したってわかる?」
「確実にな。」
「どうしよう。父さんと母さんに心配かけたくないよ。」
「仕方ないだろう。隠せないんだから。」
「1日経てば少しはましになるかな。」
「まあ少しはな。」
「流星。お願い今日はここに泊めてくれないかな?」
「何でそこまで俺がしなきゃいけないんだ。ごめんだ。泊めない。」
「あ、ご両親が帰ってくるから迷惑だよね。」
「帰って来ない…。俺はここに一人で住んでるんだ。」
「え?こんな大きな家に一人で?」
「ああ。」
「だったらっ。このソファーでいいから貸して。床でもいいからっ。」
「ダメだ。」
「泊めてくれないなら流星が猫を飼ってるってみんなに言いふらすよっ。」
日菜太はピアノの下で寝ている猫を指さして言った。
猫を飼っている事をあまり知られたくない。
猫を飼うなど、自分のイメージにない事をしているのは自分でもわかってる。
何より今の猫との暮らしを他人に詮索されるような事を言われたくなかった。
「脅迫とはいい度胸だな。…1日だけだぞ。お前はソファーで寝ろよ。」
「わーいっやったー‼」
日菜太は嬉しそうに猫の傍に行くと猫を抱き上げる。
猫も嫌がる事なくまんざらでもない様子で抱かれている。
「ねえこの子の名前なんて言うの?」
「名前なんかない。猫だ猫。」
「えええー。可愛いのに名前ないの?可哀想だよ。そうだなー。そうだっ。今日からお前の名前は『ラルク』だよ。ラルクって顔してるもん。」
「おい勝手に名前を付けて呼ぶな。」
「いいじゃん。この子も喜んでるよ。ねーラルク。」
猫もミャーンと答えるように鳴く。
日菜太が気に入ったのか腕に顔を摺り寄せてゴロゴロ鳴いている。
「勝手にしろ。ここに泊まるなら親に電話しとけ。俺に迷惑かけたら放り出すからな。」
「うん。そうするよ。流星に迷惑かけたりしないから。」
カバンからスマホを取り出し家に電話をする日菜太を横目にふぅーっとため息をつく。
こいつに関わると自分のリズムを狂わされてばっかりだ。
自分の立ち位置までぐらつきそうな気がして心を引き締める。
これ以上、自分の中に入って来られるのはごめんだ。
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