月と太陽がすれ違う時
月と太陽がすれ違う時10
これ以上自分の中に踏み込まれるのはごめんだ。
流星はそう思っていた。
日菜太といると本来の自分でいられない。
コイツは俺の事が好きだと言う。
何がどうしたら俺を好きになるのかわからない。
こんな事を考えてる時点で自分らしくないと思う。
他人はすっぱりと切り離していたのだから。
なのに日菜太は突然流星の中に入り込んできた。
入り込んできたものは当然消去しなくちゃいけないのに、家にまであげている。
一体どうしたというのだ。
「流星。ねえ流星ってばっ。」
突然目の前に日菜太の顔があって驚いた。
「な、何だよお前は。脅かすな。」
「流星でも驚くんだね。ずっと流星の事を呼んでるのに気が付いてくれないからだよ。」
日菜太の顔から目をそらして距離を取る。
「晩御飯はどうするの?」
「晩御飯?別に腹減ってないから今日はいい。」
「何それ?ちゃんと食べなきゃダメだろ。」
「俺はいらないって言ってる。お前は食いたきゃどっかで弁当でも買ってくればいい。」
「弁当なんて油ものばっかりじゃん。俺あんまり好きじゃないんだよね。何か作ってもいい?」
「お前作れるのか。というか食材なんてなにもないぞ。」
「嘘だ。こんな大きな冷蔵庫…。嘘っ。水だけ?」
「食材なんかあっても俺は作れないし、必要ない。それなら弁当で十分だ。俺的にはエコだと思うしな。食べたいなら自分で買ってくればいい。」
「そんな…。ラルクのごはんはあるの?」
「ああ。買う必要は…。」
しまった‼流星は朝思っていたことを思い出した。
猫缶はあるにはあるのだが、食べない猫缶だった。
いろいろと買ってみて試したが、これだけはどうしても食べてくれなかった。
朝見た時にこれしかなかったから帰りに買ってこなければいけないと思っていたのだ。
なのに日菜太の騒ぎですっかり忘れていた。
「仕方ない。猫缶を買いに行ってくる。弁当がいるならついでに買って来てやる。」
「弁当は無理だって。買い物行くなら俺も行く。」
「その格好でか?一緒に歩くのはごめんだぞ。」
日菜太は流星のブカブカのスエットを着ていた。
「だよね…。じゃメモに書くもの買って来て。」
「作っても俺は食わないぞ。それに料理をいれる皿なんてない。」
「嘘。お皿もないの?」
「ない。そんなもの必要ないからな。」
「流星はどんな生活してるんだよ。」
「うるさい。俺は今の生活に満足してるんだ。お前にとやかく言われたくない。」
「お願いだよ流星。一宿一飯の恩義って言うだろ。俺少しは料理出来るから、流星にお礼をさせてくれよ。」
目に少し涙を溜めて日菜太が言うので邪険に出来ないなんて…。
大きなため息がまた出る。
日菜太といるとため息が多いような気がするのは気のせいか…。
沈黙の時間が過ぎる。
お互いに譲る気持ちがないから生まれる沈黙。
しばらくそのままで、耐えきれなくなったのか日菜太が口を開いた。
「お願い流星。俺に料理を作らせて。一緒に食べたらおいしいって。」
誰かと一緒に飯を食べるなんて、ずいぶんとしてない。もう何年も…。
日菜太の言葉に食いついたわけではないが、このままでは平行線だろう。
俺が折れるしかないか…。
「仕方ない。このままでは猫のごはんも買えないからな。買うものをメモしろ。」
「猫じゃないよラルクだよ。でもありがとう。流星は何か食べたいものある?」
「別にない。何でも一緒だ。」
「一緒じゃないよ。俺の愛情がこもってるんだから。そのへんの弁当と一緒にするなよ。」
「身体に入ったら一緒だ。早く書け。」
「流星においしいって言わせてやる。いつも弁当なら和食がいいかな。流星は好き嫌いある?」
「ない。」
「そっか。じゃ肉じゃがと和え物と味噌汁にしよっか。余っても明日食べれるしね。」
そう言って日菜太は材料をメモする。
「あ、調味料とか鍋ないんじゃないの?」
「鍋はある。調味料はないな。」
「調味料があっても困るだけか…。味付けはめんつゆを使うか。味噌はチューブのを買って来てもらって、だしは素の小さい箱を買えばいいか。」
ブツブツ言いながら日菜太はメモに書き足すと流星に説明する。
「めんどくさいな。こうまでして作らなくても弁当でいいのに。」
「ダメ。人間は身体が資本なんだ。ちゃんとおいしいものを食べないと身体も心も元気にならないんだぞ。」
熱く語りだしそうな日菜太にうんざりし、財布と鍵を持つと玄関に向かう。
「お料理を入れる紙皿かなんかも買って来てね。鍋から食べたいんなら別だけど。」
誰が鍋から食うか‼
という突っ込みはすんでの所で飲み込んだ。
これ以上いたら俺がおかしくなりそうだ。
日菜太をジロリと睨むと玄関のドアを閉めた。
まったく俺らしくないったらありゃしない。
今日何度目かわからないため息をついて近くのスーパーに行き、メモの通りにカートに食材を詰め込む。
牛乳?何で牛乳なんだと思って日菜太がコーヒーを飲んでいた光景を思い出す。
砂糖を3杯も入れたのに苦いと言っていた日菜太。
きっと家では牛乳を入れてカフェオレみたいにして飲んでいるのだろう。だから牛乳か。
流星の家の他の飲み物は水しかない。
流星はクスッと笑うとカートにココアと紅茶も入れる。これなら飲めるだろう。
この時流星がとても柔らかい表情で笑っていたことに本人は気が付いていない。
この場に日菜太がいればどんなに喜んだだろう。
「あとは紙皿か…。」
ようやく食材をカートに入れ込み紙皿を数種類選ぶとキャッシャーの列に並ぶ。
「こんなにたくさんの荷物を一人で持つのか…。」
流星の目の前には大きなスーパーの袋が3つ並んでいる。
カートに入れてる時は重みはないからどんどん入れていたが、これを持つとなるとかなりの重さである事は持つ前から想像出来る。
「見てたって持って帰らないといけないんだ。さっさと帰ろう。」
覚悟を決めて袋を持つと思った通りすごく重い。
「家が近くて良かった。」
歩いて5分。流星はちょっとイラッとしながら家に帰って行った。
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