月と太陽がすれ違う時

月と太陽がすれ違う時11

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たかが5分と言えど、大きなスーパーの袋を3つも下げていると重い。

いつもの買い物でなら1袋ですんだ。

そう思えば腹ただしい気がする。

そんな事を考えるなんて俺は何て小さい男だとは思うのだが…。

非効率だと思う。

どうして弁当ではいけないのか、野菜が足りないというなら野菜ジュースでも飲めばいい。最近はいいサプリだってある。

流星にとって食事はおいしいというイメージがないのだ。

生きるために食べるという行為をしているにすぎない。

母親が生きていた時はおいしいと思ったのかもしれないが、そんな昔の事は忘れた。

普通なら6歳ごろの記憶は何かしら残っているものなのかもしれないけれど流星には残っていない。

母親には愛されていたはずだと思うのだが、その記憶がない事も流星が愛を信じない事に繋がっているのかもしれない。

母親との生活を思い出そうとした時もあったのだが、思い出せない事と、もういいという投げやりの気持ちから今は思い出そうとも思わない。

別に生活するのに困るわけでもないからいい。

またイラッとする。

その気持ちを抑えて玄関を開けた。

「流星お帰り。うわっ。すごい荷物だね。俺も持つよ。」

誰のせいでこんな荷物になったと思っているんだと言おうとしてやめた。

言ったからって今更どうしようもない事だ。

だまってリビングに荷物を置くと日菜太が荷物を広げる。

「え?嘘。流星こんな大袋でジャガイモとか人参とか買って来たの?少量サイズのなかった?」

言われてみれば、小家族用に小さい袋に入ったものが横にあった気がする。

「めんつゆも1リットルって…。てかこの牛肉なに?えええっ5千円って。グラム2000円っ⁉そんな肉で肉じゃが作るのっ?流星の金銭感覚おかしくない?」

「お前に言われた通りの買い物をしてきただけだ。それで金銭感覚まで言われなくちゃいけないのか?そもそも俺はこんな買い物はしたことがない。わかるわけないだろう。嫌なら捨てろ。金を出したのは俺だ。お前の金じゃない。」

「俺ワリカンにしようと思ってて…。こんなに高いと思わないだろっ。俺そんな金ないよ。」

「別にいらん。初めから払ってもらおうなんて思ってない。」

そう言いながらもワリカンにしようと思ってたと言う日菜太に驚いた。

今まで周りにいた人間は財布など出すつもりのない奴ばかりだった。

流星が払うのが当たり前だと思っている人間ばかり。

でも日菜太は違うようだ。テーブルの上に薄そうな日菜太の財布が出ていた。

「お前俺に全部払わすつもりじゃなかったのか?」

「どうして?一緒に食べるんだからワリカンだろ。店に行っても友達同士って行ってもワリカンじゃない?そんなお金持ってるわけじゃないしさ。」

「金を持ってる奴が払うもんじゃないのか?」

「送別会とか誕生日とか特別な時はおごるけど、金を持ってるとか関係なしに普段はワリカンだろ。」

日菜太はそう決めているらしい。

日菜太の周りもそうみたいだ。

「でも俺はこんな家に1人暮らししてるんだし『蒼井』の人間だぞ。たかろうとか思わないのか?」

「流星は『蒼井』ってやたら言うけどそれが何?別に俺は関係ないと思うけど?流星は流星だろ。」

日菜太の言っている事が素直に頭に入らない。

コイツは本当にそう思っているのか?

「まあいいや。せっかく流星が重いのに買って来てくれたんだもんな。俺、料理する。」

日菜太はキッチンに行くと食材を冷蔵庫に入れたりしながら下準備をし、どんどん料理を作っていく。

流星はいつもは聞きなれない料理の音を聞きながら日菜太を見ていた。

コイツは俺の周りにいた奴とは違うのかと…。

料理の音は不思議と雑音だとは思わなかった。



「じゃ食べよう。頂きます。」

日菜太が手を合わせる。

日菜太と対面に座った流星の前にも綺麗に出来上がった肉じゃがとほうれん草の胡麻和え、キノコの味噌汁が湯気を立てている。

ごはんでさえつやつやに光っていて、いつもの弁当のごはんとは大違いだ。

そうだ。この米も俺が買って来た。

2㎏のだったが…。

料理したのは日菜太かもしれないが、買い物したのも金を払ったのも俺だ。食べる権利はむしろ俺にある。

そう思った流星は無言で箸を持つと一口肉じゃがを食べた。

「上手い。」

思わず出てしまった声。

言葉を飲みこもうとしてももう遅かった。

日菜太が嬉しそうな顔をして流星が食べているのを見ている。

「おいしい?」

「ま、まあまあだな。」

「でも上手いって言ってくれたよね。良かった。流星の口に合って。まだあるからたくさん食べて。」

「ああ。お前も食え。見られてたら食べられないだろう。」

「そうだね。ごめん。でも食材がいいからかな?いつもよりおいしい気がする。流星と二人だからかな?」

「お前はよく料理するのか?」

「昔、両親が共働きだったから自然と覚えた。今では母さんも家にいる事が多いからあまりしなくなったけど。」

「そうか。」

二人で話をして食べるなんて事が久し振りのためか食事が進む。

日菜太の作った料理はとても温かくて、何だかなつかしい味がした。

「でも紙皿に割り箸って何だか味気ないね。ちゃんとした食器ならもっとおいしいのに。」

「これで十分だ。食器なんて邪魔になるだろ。俺は料理しないんだから。」

「でも弁当よりおいしいだろ?」

「まあな。久し振りにこんな料理を食べた。」

「食材も残ってるし、また料理を作りに来てもいい?」

「それはダメだ。今日は仕方ないから俺が折れたんだ。今日だけだ。」

「じゃ、残ってる食材はどうするのさ。まだジャガイモやら人参やらたくさんある。」

「お前が持って帰ればいい。」

「こんなの持って学校になんて行けないし、家に持って帰っても不審に思われるだけだよ。」

「じゃあ仕方ないが捨てる。」

「そんなのバチが当たるよ。食べ物を粗末にしたらダメだろ。」

ここでも日菜太は折れようとしない。

本当に頑固者だ。



流星は大きくため息をついた。



「食材がなくなるまでだぞ。」

「うん。次は何を作ろうかな。」

楽しそうな日菜太とはうらはらに流星はまたため息をついた。

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