月と太陽がすれ違う時
月と太陽がすれ違う時18
流星は寝室のドアをパタンと閉めるとリビングのソファーに身を沈めた。
ラルクが近づいてきてお腹の上に乗り流星を見上げる。
「俺何がしたかったんだろう。あいつを泣かせて…。」
暗い部屋の中で月明かりを浴びて流星の顔が青白く浮かんでいる。
何を求めて日菜太にあんな事をしたのか。
愛を求めて?
まさか…。
もう信じないと決めたはずだ。
愛なんてまやかしだと…。
幻想なんだと言い聞かせていた。
どうして?
そうでも思わないと一人ではいられなかったから。
一人でいるのは寂しすぎる。
まだ小さかった流星はそうでも思わないと孤独に耐える事が出来なかった。
自分はいらない人間なのだと、誰にも愛されていないとわかっていたから。
一人でも寂しくないために愛という言葉は否定し続けた。
ラルクを抱き、立ち上がると音楽をかける。
ベートーベン「月光」第3楽章。
ピアノの音は流星の心のようだった。
叩きつけるようなピアノの音。
激しく波立つ心。
そのままベランダの大きな窓から青白く輝く月を見上げる。
「俺はどうしたら…。」
月が出ていたのにその日は夜半過ぎから雨が降り出した。
ザーザーとではなくシトシトと降る雨は誰かの涙のようにベランダの大きな窓に幾筋も流れていく。
流星は眠る事も出来ずにソファーに身を沈めていた。
あれから何度か日菜太の様子が気になって寝室を覗いたが、日菜太は起きる様子もなくぐっすりと眠っている。
時折眉間にシワを寄せるような表情をするのは、無理やり身体を繋げた行為を夢で見ているのかもしれない。
寝室を覗いてはリビングに戻り、ソファーにごろんと身を投げて、しばらくすると座り込み、寝室を覗きに行く事を繰り返している。
日菜太の両親が心配するだろうと悪いと思ったが日菜太の携帯のアドレスを見て自宅に電話し家に泊める事を伝えた。
日菜太本人ではなく流星がかけてきた事を訝しがられるかと思ったが、「日菜太に流星くんの事はよく聞いています。日菜太が迷惑をかけてごめんなさいね。」と優しい声で母親は言った。
自分の周りにはこんな優しい声を出す人間はいないな。
日菜太ぐらいだ。
日菜太の優しさは母親譲りなのかもしれない。
「今度は家にも遊びに来てね。」
電話を切る時に流星にかけられた言葉。
俺にはそんな資格はない。
俺が日菜太にした事を聞けば、そんな事は言えないだろう。
流星は曖昧に返事をして電話を切った。
雨は相変わらずシトシトと降っている。
結局、流星はその日はまんじりともせず朝を迎えた。
「おい。朝だぞ。」
少しうつらうつらとし、学校に遅れないようにと日菜太を起こそうとした。
「おいっ。お前。日菜太。」
布団から顔を覗くと顔は赤く吐く息が荒く熱を持っている。
首筋に手を当てると熱かった。
「日菜太。おいっ。大丈夫か?」
「りゅ…せ?しんど…い…。」
冷蔵庫には水しかない。
汗もかいているようだし、水よりもスポーツドリンクの方がいい。
「ちょっと待ってろ。」
流星は財布を持つと近くのコンビニで飲み物と冷却材を購入し、急いでマンションに戻った。
寝室に行くと日菜太が起き上がろうとしている。
「熱があるのに何してる。」
「トイレに行こうと思って…。」
立ち上がったもののフラフラしている日菜太の身体を支える。
「危ないだろう。俺が連れていく。」
流星は日菜太を横抱きにすると文句を言う暇も与えずにトイレまで連れ行った。
「やりにくいかもしれないが座ってしろ。こけたら大変だからな。終わったら言え。外にいる。」
「うん。ごめん。」
元はと言えば流星が悪いのに謝る日菜太。
そんな日菜太に少し苛立つ。
俺を責めればいいのにと…。
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