月と太陽がすれ違う時

月と太陽がすれ違う時21

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寝室に入りベッドに寝ている日菜太の横に腰掛ける。

「どうした?」

自分でも驚くほど凪いだ優しい声が出た。

「流星の声が優しい。やっぱり流星はあの時と同じで優しい。」

「あの時?」

「うん。流星は忘れてるけど、俺と流星ずっと昔に出会ってるんだよ。」

「ずっと昔?」

「うん。9歳の時に。」

9歳というと今から8年ほど前だ。施設にいた頃か、蒼井に引き取られた頃か…。

そんな頃に関わった人間なんていただろうか?

もうその頃には俺の人嫌いは構築されていたはず。その頃の人間に優しくした覚えはない。

「誰かと間違えてるんだ。俺は人に優しくするような人間じゃない。」

「間違えたりするもんか。俺は流星のおかげで今の俺があると思ってるんだから。」

「お前は俺の事を買いかぶりすぎだ。そんな人間じゃないって言ってるだろう。」

「流星覚えてない?俺はあの施設に1ヶ月ほどしかいなかったけど、流星は俺がいじめられるといつも助けてくれたよ。」

そう言われて当時を思い出す。

そう言えばそんな奴がいたような…。

「俺、本当の両親を交通事故で無くしたんだ。俺もその車に乗ってたけど、母さんが庇ってくれてかすり傷だけで済んだんだ。両親は実家とは絶縁状態で俺の引き取り手がなくて施設に入れられた。そこで俺達は知り合ったんだ。」

そう言えば、すごく暗い奴がいた。

いつも下を向いていて、いじめられるとすぐ泣いていて、いつも怪我をしてた。

「もしかしていつも怪我して下向いて泣いてた?」

「そう。思い出してくれた?」

「今と全然違うな。あの頃はすごく暗かった。」

「うん。両親が死んだのは俺を庇ったからで、生き残っても一人で悲しくて仕方なかった。『お前のせいで親が死んだ』っていじめられても言い返せなくて泣くしかなかった俺を流星は庇ってくれた。」

ああ、そういえば俺をいじめてた奴が日菜太を標的にした事に腹を立ててやり返した事を思い出す。

別に日菜太を庇ってとかじゃない。そいつがムカついたからやっただけなんだ。

「お前誤解してる。俺は別にお前を庇ったんじゃない。いじめてるやつがムカついたからやり返しただけだ。あいつには俺もいじめられたからな。」

「流星はそうだったとしても俺には流星はヒーローだったんだ。あの頃から不愛想だったけど、俺がいじめられているといつも助けてくれた。流星はあの頃俺の太陽だった。」

俺が太陽だと?本当にこいつは見る目がない。

「どこをどう見たら俺が太陽なんだよ。太陽ってのはお前みたいな奴の事を言うんだ。」

「俺が太陽だって言うなら、それはあの頃流星と出会えたからだ。流星が俺に言ったんだ。『泣くな。お前が泣いて親が喜ぶのか?安心できるのか?親に申し訳ないと思うなら。親を安心させるような顔しろ』って。」

9歳の俺はきっと、こまっしゃくれたガキだったんだろう。いきがってたのかもしれないな。そんな事を言うなんて。

「こまっしゃくれたガキの言い分だ。9歳のガキが言う事じゃないな。子供らしくなさずぎだろ。」

「そんな事はないよ。俺はその言葉に救われたんだ。」

「でも俺には意味はない。現に今までそんな事忘れてたし。」

「俺、そこにいたのは1ヶ月くらいで、父さんの兄さんに当たる人が俺を引き取ってくれたから流星に挨拶する間もなく出て行っちゃって…。もう会えないと思ってた。あの日流星に会うまで…。」

「あの日?」

「2年前のあの日。父さんの単身赴任先に遊びに来た時、流星とすれ違ったんだ。」

2年前…。

それが2年前だったかそうかは定かじゃないが、街中で振り返った事を思い出す。

すれ違って、何かに惹かれるように振り向いた先にいた太陽のように笑う笑顔があった。その笑顔に温かい陽だまりのようだと思った事を思い出す。

その温かさが忘れていたもので、目が離せなくて視線が絡みあった事を…。

「あれ…。お前だったのか…。」

それが日菜太だったなんて今まで気が付かなかった。

もちろん施設で会った奴だなんて思いもしない。

施設にいた頃の日菜太は暗くて泣き虫で弱かった。

笑顔なんて見た事もなかった。

思春期になり、子供の殻を脱皮して綺麗な笑顔で笑う日菜太と重なるわけもない。

「俺、流星だってすぐにわかった。嬉しくて流星から目が離せなくて…。声をかけるのも忘れて…。そしたら流星はスッて人ごみの中に紛れちゃって…。せっかく会えたのに…。」

「俺に会わない方がお前は幸せだったと思うぞ。」

自虐的にそんな事を呟いていた。


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