月と太陽がすれ違う時
月と太陽がすれ違う時26
今日もソファーで寝るのかと日菜太に聞かれたが、気にせずにベッドで寝ろと寝室に追いやる。
日菜太と一緒にベッドに寝ると、また日菜太に酷い事をしそうな気がした。
俺が日菜太を妬んでいる心がある事を自覚したから。
日菜太といればこの醜い心を否応にも感じる事になる。
ソファーにもたれて今日もまんじりともせずに過ごす。
とにかく後3日は約束だから日菜太と一緒だ。
自分をちゃんと自制しないといけないと思った。
これ以上日菜太を傷つけてはいけない。
寝室を覗くと、そんな俺の気持ちも知らずに日菜太はラルクを抱きながら気持ちよさそうに寝息を立てている。
「いてもいなくても俺の心をざわめかせてくれる。」
ドアをパタンと閉めて俺はソファーに寝転び、窓から月を見た。
青白く、冷たく光る月。俺みたいに冷たい月。
やはりその晩は寝がえりばかりでぐっすり寝る事は出来なかった。
* * *
「流星おはよう。」
眩しい太陽の光が目に入る。
「寝たの明け方なんだ。もう少し寝かせてくれ。」
「ダメだよ。起きないと学校に遅れちゃうよ。流星は休んじゃダメなんだろ。」
そうだ。留年なんてしたくない。
「わかったよ。」
身体を起こして座るが、頭は覚醒出来ずに目が開かない。
「はい。流星コーヒー飲んで。目が覚めるよ。」
「ああ。そう言えばお前熱は下がったのか?」
「おかげ様ですっかり良くなった。学校にも行けるよ。」
「念のため、今日は休め。ぶり返されたら何にもならないからな。」
「流星がそう言うなら言う通りにする。でも流星はちゃんと学校に行けよ。」
「ああ。そうだここにいるなら鍵がいるな。」
俺はキーケースの中から予備の鍵を外すと日菜太に渡す。
「いいの?」
「ここにいる間だけ貸すんだからな。帰る時には返せよ。」
「うん。わかった。」
何が嬉しいのか日菜太は鍵を眺めては握りしめてニコニコしている。
「何が嬉しいんだか…。」
俺は起き上がると顔を洗い身支度を整えると学校へ向かった。
俺が学校でつまらない授業を受けている頃、片桐がまたマンションに来ていたとは知らずに…。
「流星は学校に行きましたけど…。」
「そんなに警戒しないで下さい。今日はこの前の事を謝ろうと思って来ました。」
そう言いながら片桐さんはお土産だとコーヒー豆とエスプレッソマシンを持ってきていた。
俺コーヒー飲まないのになあって思っていると、その心の声が聞こえたかのように振り向いて…。
「日菜太くんにはケーキを買って来てありますよ。コーヒー苦手なんですよね。」
「流星から聞いたんですか?」
「ええ。だから紅茶とココアがあったんですね。流星様は飲まれないので不思議に思っていたんです。あ、コーヒーは自分で入れます。こだわりがあるんですよ。日菜太くんは紅茶でいいですか?」
「はい。すいません。」
「いいんですよ。まだ完全に治ってはいないでしょう。さ、座ってて下さい。」
する事もないので言われた通りにソファーに座り、ラルクを抱いていた。
片桐さんは流星もいないのに何の用があるんだろう。
この間の事を謝りに来たっていうけど、本当にそれだけかな。
「はいどうぞ。うーーん。困りましたね。そんなに警戒しないで下さい。まあこの間は酷い事を言いましたから仕方ないですけど。正直嫌われているのは辛いですね。」
そう言って苦笑いする片桐さんに少し警戒心が解ける。
だって片桐さん今日はすごく優しい顔をしている。
「俺、流星の事を利用したりなんかしないです。好きでいる事が流星に迷惑をかけている事は自覚してるけど、流星は俺を突き放すような事を言いながらも最後まで突き放せないでいるのは、どこかで俺の気持ちを受け入れてくれてるんじゃないかと思うんです。それが俺の好きとは違う事はわかってます。流星は愛を信じないというけど、本当は自分が一番信じたいんじゃないかって…。だから俺は愛する事をやめない。流星に愛を伝えたいんです。」
「ええ。わかっていますよ。あなたの気持ち。それが嘘でない事も、何も見返りを求めていない事も。この間はどれだけあなたに覚悟があるのか見極めたかったんです。試すような事をして申し訳ありませんでした。流星様にもひどく責められてしまいました。」
「流星に?」
「ええ。流星様の中で日菜太くんは特別な存在のようですね。流星様が感情を露わにするのを久し振りに見ました。日菜太くんは流星様の感情を揺さぶる事が出来ます。あなたなら流星様に愛を信じる心を取り戻す事が出来るのかもしれません。私は期待してるんです。」
「片桐さんは俺の事を反対しないの?」
「流星様は今までいろいろな方とお付き合いなさってきましたが、あなたのように感情を揺らすような人には出会われていません。これから先も現れるかわかりません。男と男なので蒼井の代表としては認められるものではありませんが、私個人としては応援しています。」
「いいの?俺で?というか…。」
「というか?何です。ハッキリ仰ってください。」
「片桐さんと流星は付き合ってるんじゃないの?」
「はっ?また何でそんな事を?ああ、着換えですね。一応置いてますが使った事はありませんよ。この間は泊まるような事を言いましたが、私がここに泊まった事はありません。私にも恋人がいますので流星様と付き合うなんて絶対にありませんから安心なさってください。」
その言葉を聞いて身体の緊張がほどけて脱力する。
「良かった。」
「さあ、紅茶が冷めちゃいますよ。ケーキも食べて下さい。でも病み上がりでしたね。ケーキはちょっと重いですか?」
「大丈夫。俺ケーキ好きだし。」
「でも一つだけにして下さいね。お腹を壊したり、胃にもたれたりしたら私が流星様に怒られますから。ところで昨日は御粥どうされたんですか?レトルトで?」
「ううん。流星が作ってくれた。おいしかったよ。二人で食べたんだ。流星ってば腕にやけどしてた。水ぶくれになるほど酷くないから大丈夫だよ。」
「流星様が御粥をご自分でお作りになったんですか?信じられません。」
その後は片桐さんに昨日の御粥の事や、俺といる時の流星の話や、俺と流星が出会ったころの話をした。
片桐さんは流星につくようになってからの苦労した話とか、流星の苦手なもの、お気に入りについて教えてもらったりして楽しい時間を過ごした。
帰りには片桐さんと携帯のナンバーとアドレスの交換をして、たまには二人でお茶しようって約束したんだ。
困った事があれば相談に乗りますよって言ってくれて…。
この間の事はすべて吹っ飛んだ。
片桐さんすごくいい人なんだ。
片桐さんを見送って、洗い物をしてからラルクと布団に潜り込んだ。
やっぱり完全に回復してないのと、ケーキが重かったようで胃が少しもたれる感じがしたから横になっておこうと思ったんだ。
少し横になるつもりが、いつの間にか深い眠りにいざなわれて行ってしまった。
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