月と太陽がすれ違う時
月と太陽がすれ違う時27
「ただいま。日菜太?何だ寝てるのか…。」
学校を終え、スーパーに寄ってから帰ってくると日菜太はベッドで丸くなって寝ていた。
傍にいたラルクが「おかえり」とばかりに起き上がり、伸びをする。
何だか穏やかな時間が流れる。
誰かが家にいる温もりなんて初めてだ。
「ただいま」なんて言ったのも…。
普通の家なら当たり前の光景が流星には遠いものだった。
ままごとのようだと思いながら日菜太の髪の毛に触れる。
やわらかな少し茶色い髪の毛。
長めの髪が頬にかかっている。
少し口を開けて安らかな寝息を立てる日菜太を見て唇に手をやろうとして引込めた。
日菜太に触れてはいけない。
乱暴に日菜太を抱いてから日菜太に触れないと決めた。そんな資格はないのだと。
太陽に触れれば火傷する。いや死んでしまう。
流星は自分が変わってしまうのが怖かった。
「晩飯を作るか…。」
今日は中華粥を作る事にしていた。そのためにネットでレシピを調べ、材料を買って来たのだ。
干し貝柱を入れるとおいしいと書いてあったが、戻すのに一晩かかるのでやめた。
具材は鶏の手羽先。普通の鶏肉よりも骨からおいしいだしが出ると書いてあった。
キッチンに材料を置くとさっそくプリントアウトしたレシピを見ながら作り始める。
米を砥ぐ。今日は米をこぼすことなく洗う。
ざるを使えばいいと書いてあったので買って来たのだ。これならこぼれてしまう事はない。
洗った米にサラダ油を混ぜる。胡麻油と書いてあるものもあったが香りが好きでないのでやめた。
生姜とネギを細く切るのに手間取り、どうしても細く切れなくて不格好になる。
食べる時には取り出すと書いてあったので不格好なままでもいいかと気にしない事にした。
鍋に手羽先と生姜とネギを入れ丁寧にアクを取り除き米を入れて弱火で50分程炊く。
途中2回ほど底からかき混ぜるだけでおいしそうに出来上がった。
薄切りの生姜とネギを取り除き、手羽先は身をほぐした。
あとは刻んだネギを乗せるだけだ。
「今日は火傷せずに出来たな。」
2回目だが、昨日よりも手際よく出来たと思う。
粥だけでは物足りないと、から揚げも買って来た。
から揚げと粥だけってどうなんだとは思うが考えるのがめんどくさいし、わからない。
流星は山のようにから揚げを買って来ていた。
一人分ならまだしも他人の分もなんてどれくらいの量がいるのかわからなかった。
テーブルの上に中華粥の入った鍋、その横に紙皿に盛られたたくさんのから揚げ。
茶碗と箸を並べ、ペットボトルのお茶を出すと日菜太を起こしに寝室に行く。
「日菜太。メシ出来たぞ。起きろ。」
「ん…。母さん…もう…ちょっと…。」
「何を寝ぼけてんだ。俺はお前の母親じゃない。」
「ん?…流星?」
目を擦りながらムクッと身体を起こしぼーーっと俺を見る日菜太が子供のようで可愛い。
「冷めてしまうぞ。ちゃんと目を覚ませ。」
「ん…。ふわぁ~。うん起きた。流星おかえり。」
「おかえり」なんて言われたのはいつ以来だろうか。
流星は日菜太の言った「おかえり」に心を震わせていた。
自分の孤独が身に染みる。
でも日菜太のくれる言葉は流星にとっては毒だ。
心を蝕まれる。
「先にリビングに行ってる。」
日菜太の傍を離れると寂しいような気持ちと、安堵の気持ちが入り混じる。
不安定だなと思いながらも日菜太の両親が帰ってくるまで、自分の心に矛盾を抱えつつも平静を保っておかなければならない。冷静さを失えば又、日菜太を傷つけてしまうだろう。
寝室のドアの開く音がしたのでテーブルに座る。
「うわっ。今日も作ってくれたんだ。学校もあったのにありがとう。明日は俺が作るね。」
「もう大丈夫なのか?無理するなよ。」
「もう大丈夫だよ。明日は学校にも行くから。」
「そうか。」
「それよりこの山盛りのから揚げは何?」
「粥だけじゃ物足りないかと思ってだな。でも日菜太に揚げ物は…。すまん配慮不足だった。」
「大丈夫だって。片桐さんの持ってきたケーキも食べたけど何ともないし。」
「片桐がまた来たのか。何の用があって…。」
「昨日は言い過ぎたって謝りに来てくれたんだ。あ、コーヒーとエスプレッソマシンも持ってきてくれたよ。」
キッチンの隅に置いてあるのがそうだな。見た事のないものがあると思ったんだ。
しかし片桐が謝りにね。
きっと日菜太の事を気に入ったのだ。
気に入らない相手にはとことん冷たいのが片桐だ。
「酷い事は言われなかったか?」
「酷い事なんて言われなかったよ。本当は片桐さんはすごく優しい人なんだってわかった。」
やっぱり…。
俺とは正反対の日菜太が気に入ったのだと思う。
俺と違い、ヒナタの匂いのする日菜太。
片桐も日菜太の傍が居心地がいいのだろう。
自分と日菜太を比べているつもりはないのだが、日菜太には敗北感のようなものを持ってしまう。
おいしそうに食べる日菜太の顔を見ながらそんな事を思う。
気にし過ぎだ。
俺は日菜太と出会ってから同じ事で悩んでいる。
あと2日。
2日過ぎれば、日菜太が傍にいる時間が短くなれば…。
「今日は一緒に寝よう流星。」
日菜太が真面目な顔で言う。
「寝ない。別々だ。お前はベッドで寝ろ。」
「流星満足に寝てないだろ。目の下に薄っすらクマが出来てる。ソファーで寝るからだ。」
「もともと俺は眠りが浅いんだ。気にしなくていい。」
「気にするよ。」
泣きそうな顔で日菜太が言う。
「一緒に寝ないって言うなら、俺がソファーで寝る。」
日菜太の目が俺の目を射抜くように強い光を放った。
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