月と太陽がすれ違う時

月と太陽がすれ違う時30

 ←月と太陽がすれ違う時29 →月と太陽がすれ違う時31

結局、その日の鍋は寄せ鍋になった。

片桐が何が好きなのか苦手なのかわからなかったからだ。

つくねも手作りで作るんだと日菜太がはりきるから荷物が増える。

鍋の〆は雑炊かうどんかと日菜太が悩むのでどちらもすればいいと言ってしまって更に増える。

あれも欲しい、これも欲しいと言う日菜太をそこから引きはがすのが大変でとても疲れた。

俺とは反対に日菜太は元気だ。

「こんなに買ってちゃんと使うのか?」

思わず一人ごちる。

俺の家用の買い物何だから、これは全部俺の家に鎮座するのだ。

「使うよ。俺、定期的に流星の晩御飯作りに行くから。」

エプロンをカートに入れた日菜太が言った言葉にギョッとする。

「いらん。俺は弁当でいいんだ。作るのは明日まで。俺の家にいる時だけだ。」

「流星の家にいる時は作ってもいいって事だよね。遊びに行く時は作る。」

またあの目だ。引かないぞって目が言ってる。俺はどうもこの目に弱い。

日菜太を家に呼ばなければいいのだと思い折れる事にした。

「勝手にしろ。」

「うん。勝手にする。母さんにもっと料理を教えてもらおうっと。」

「お前の家は仲がいいんだな。」

「そうだね。本当の家族みたいにボクの事を愛してくれてると思う。流星のお父さんは?」

「……。早く清算するぞ。ここにいたらお前次々にカートに入れてしまいそうだからな。」

「そんな事しないよ。」

俺が父親の話をしたくないのだとわかったのだろう。日菜太はそれ以上何も言わなかった。父親の話をするとどうしても声を荒げてしまう。感情が昂ってしまうのがわかっているからしたくないし、日菜太に聞かれたくない。



「ごめん流星。たくさんお金使わせて…。」

清算したら1万円を軽く越えていた。

「別に構わなさ。金を使う事なんてあまりないからな。それに外に食事に行けばこれぐらいするだろう。」

「そんなところに食べに行った事なんかないよ。高校生なんだから行ってもファミレス止まりだよ。」

「反対に俺はそんなところに行った事はないな。」

子供の頃、ファミレスの明かりが眩しくて温かそうで、中で食事をする家族連れが幸せそうで羨ましかった。

高い食事じゃなくても家族で食べる安くても温かい食事がおいしそうに見えた事を覚えている。

その頃を思い出していると日菜太が俺を見て情けない顔をした。

「流星どうしよう。袋が6つもある。」

スーパーの袋が4つと食器や土鍋の入った紙袋が2つ。どう考えても二人で運べる量じゃない。持てたとしても重すぎる。

「仕方ないタクシーで帰るか。」

「俺、調子に乗って色々欲しがってごめん。」

「終わった事を言っても仕方ない。タクシーを呼んでくる。」

制服の高校生がスーパーの袋をたくさん持ってタクシーに乗り込む図は他の人から見たらどう映るだろう。

贅沢だと思われるのだろうか。

「タクシーなんて乗るの久し振りだ。流星、タクシー代は俺に払わせて。そうじゃないと俺すごく流星に申し訳ない。」

「構わない。歩いて帰るよりも楽だしな。あの荷物を歩いて持って帰ると思うとゾッとする。」

「でもっ。スーパーでもたくさんお金を使わせたし、俺の気が済まない。それにお金は大切に使わないといけないと思う。ってスーパーでたくさん使わせといてこんな事言っても説得力ないけど…。とにかく俺が払う。」

またあの目だ。きっと家に着くまで払うと言い続けるのだろう。曲げるつもりはないのだから。

「わかった。じゃあタクシー代は頼む。」

「うん。料理も任せてよ。」

マンションに戻りたくさんの荷物を部屋に運び入れると、日菜太が嬉しそうに食器を洗う。

俺も食材などを冷蔵庫に入れながら食器棚がいろんな食器で埋められていくのを見ていた。

数点の食器しか入ってなかった棚がいろんな食器で埋められると、とたんに生活の匂いがしてくる。

日菜太の選んだ食器は色の明るい物や白いものが多くて俺の買っていた黒い食器が隅に追いやられていた。

「料理は目でも味わうものなの。黒い食器じゃおいしそうに見えないよ。白じゃないとね。」

などと言いながら片付けていく日菜太にもう何も言う気は起きなかった。

俺の家なのに日菜太の色に染まっていく。

それが別段腹が立たない事に気が付いて…。

日菜太を妬む気持ち、可愛く思う気持ち、許してしまう気持ち。

陰と陽の気持ちが入り混じる。

「さてと、俺は夕食の用意をするから流星はゆっくりして。お風呂に先に入る?はは。何かやっぱり新婚さんみたいだね。」

「男と男で新婚はないだろう。俺は風呂に入って来る。」

「いいだろ。俺の気持ちは新婚さんなんだから。」

日菜太の言葉には答えずに風呂に入る。

昨日日菜太と入ったからか、時間が早いからかラルクは風呂場には付いて来なかった。

どうやらラルクも日菜太に取られてしまったようだ。

俺の周りの物はみんな日菜太に持っていかれてしまうのだなと苦笑する。

風呂から上がると片桐がキッチンで日菜太の手伝いをしていた。

「そのエプロン日菜太くんに似合いますね。黄色のひよこ柄が可愛いです。」

「そう?流星に今日はたくさん買わせちゃったんだ。大事なお金を使わせてごめんね片桐さん。」

「いいんですよ。こうして食器も揃ってちゃんとしたごはんを食べる。すごく大切な事です。そのために使ったのですからいいんですよ。可愛い日菜太くんのエプロン姿も見られて、私まで食事に招いてもらってしまって…。」

「お鍋はたくさんで食べる方がおいしいからね。そうだ片桐さんもお料理出来るんだから片桐さんのエプロンも用意しようよ。それで一緒に作れば楽しいよ。」

「日菜太、片桐は仕事をしてるんだ。仕事が終わってからここに来させるのか?それに片桐は恋人の為に料理はしても俺の為に作ろうとは思わないと思うぞ。」

「流星様。そうですね。流星様と二人では食べたいとは正直思いません。会話のない食事になりそうですから。」

「俺も片桐と食べたいとは思わないから安心しろ。作れなんて言わない。俺は弁当でいいんだ。」

「またそんな事を言う。弁当なんてダメだって。おまけに流星は温めもしないで食べるだろ。」

「冷めてようが、温かろうが変わらない。」

「俺が作ったものを食べてたら変わって来るよ。」

「さあさあ、もう下準備は出来ましたから、テーブルで食べましょう。流星様何をしてるんです?お皿ぐらい運んでください。」

俺に拒否権はないようだ。片桐が早く並べろと言うように睨んでいる。

一つため息を小さくついて今日買って来たばかりの皿を3人分出す。

テーブルにはぐつぐつ煮える土鍋や、新しい皿、ポン酢や薬味が並んで色も鮮やかだ。

3人で土鍋を囲み食事をする。横ではラルクが食べていて、家族との食事はこんな感じなのかと思う。家族というよりも友達同士か…。

片桐と日菜太がしゃべっていて、俺は聞いてるだけなのに何だか明るい気分になり、食事が上手いと感じる。

「ね、流星みんなで食べるとおいしいでしょ。」

「そうか?」

「正直においしいと言えばどうなんです?まんざらでもないんでしょう。口元が笑ってますよ。」

あわてて口元を押える。

「嘘です。でも口元を押えたという事はまんざらでもないんですね。」

片桐を睨んでも何とも思ってない様子だ。

「日菜太くん、流星様は素直じゃありませんから。流星様が嘘をついている時は右の眉尻りが上がりますのでよーく見ておいてくださいね。」

「そんな事こいつに言わなくてもいい。」

「流星様はまだ日菜太君の事をコイツだとかオマエだとか言ってるんですか?失礼ですよ。ちゃんと名前で呼んであげて下さい。ほら呼んでみて。」

「用もないのに呼べるか。それに何て呼ぼうが俺の勝手だろ。」

「でも俺名前で呼んで欲しいよ。流星に名前で呼ばれたのって数回しかない…。」

「ほらっ。日菜太くんも望んでいます。呼んであげて下さい。」

「流星呼んで。」

二人にじっと見られていたら余計に言えないだろう。

「そのうちに呼ぶ。二人でそんなに俺を見るな。」

「流星様、顔が赤いですよ。そんなに焦っている流星様を見るのは…楽しいですフフッ。」

「ほんとだ。流星の顔が赤い。」

「うるさい。見るな。さっさと黙って食え。」

二人がくすくす笑うのを目の端に俺は皿に入っていた豆腐をほおばった。

ランキングに参加しています。ポチッと押してくだされば嬉しいです。いつもありがとうございます・:*(〃・ェ・〃人)*:・

にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ
にほんブログ村
にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ
にほんブログ村
関連記事
スポンサーサイト





もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
もくじ  3kaku_s_L.png ご挨拶
もくじ  3kaku_s_L.png 貴方の腕の中で
総もくじ  3kaku_s_L.png キミと空とネコと
もくじ  3kaku_s_L.png S.S
もくじ  3kaku_s_L.png イラスト
もくじ  3kaku_s_L.png 頂きもの☆
もくじ  3kaku_s_L.png 雑記
総もくじ  3kaku_s_L.png 新撰組物語
  • [月と太陽がすれ違う時29]へ
  • [月と太陽がすれ違う時31]へ

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • [月と太陽がすれ違う時29]へ
  • [月と太陽がすれ違う時31]へ