月と太陽がすれ違う時

月と太陽がすれ違う時38

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ピアノの音色が聞こえた気がして目が覚めた。

何かすごく物悲しい音色で頬には涙の跡が残っていた。

「流星?」

あれ?俺、確か風呂に入って…。

それからの記憶がない。

布団をめくるとちゃんとパジャマに着替えている。

「流星が風呂から上げて着替えさせてくれたのか…。」

リビングから切ない音色は響いているみたいだ。

俺は布団から抜け出るとリビングをそっと覗いた。

その先の大きなグランドピアノに流星は腰掛けてピアノを弾いていた。

泣いてる?

いつも閉まったままのピアノを誰が弾くのかと思ってたけど流星ピアノも弾けるんだ。

部屋の電気もつけずに月明かりの中でピアノを弾く流星はすごく綺麗だと思った。泣いているのかと思ったのは見間違いだったのかな?自分の気持ちを吐き出すように弾いている気がしたんだ。

「日菜太か?うるさかったか?寝室までは響かないと思ってたんだが…。起こしてすまない。」

「ううん。俺こそ邪魔してごめん。」

「ああ。寒くないか?」

「大丈夫。今の何て曲?」

「ベートーヴェン ピアノ・ソナタ第31番 作品110第3楽章」

「俺にはピアノなんてわからないけど何か悲しい事でもあった?」

「何でそう思うんだ?」

「ピアノの音が悲しいって言うか切ないって言うか…。」

「ふっ。そんな事は何もない。」

そう言った流星の横顔はやっぱり悲しそうだ。

俺には話せない事なのかな?俺じゃ流星を癒す事は出来ないのかな?

ポロンポロンとピアノをつま弾く流星を見ながら思った。

流星が何も言わないのを良い事に気を良くして流星の横に行くと、流星が椅子を出してくれた。

「流星はピアノが好きなの?すごく上手だね。」

「ピアノの音は好きだ。綺麗だからな。俺にはない綺麗さだから憧れているんだろうな。母親が好きだったんだと思う。弾いてもらった記憶とかはないが…。俺のピアノは独学だから上手じゃない。上手く聞こえるのは日菜太があまりピアノを聴いてないからだ。」

「そうかもしれないけど、俺は流星のピアノの音も綺麗だと思うよ。もっと何か弾いてよ。」

「何かか…。」

流星は一瞬思案気な顔をして軽快にピアノを奏でだした。

この曲俺でも知ってる。

流星の綺麗な長い指が次々と鍵盤をステップして音楽を奏でるのを目で追うだけで楽しい。

クラッシックなんて音楽の授業で聞いたくらいしかないけど、流星の奏でる音楽は授業で聴いたのなんかよりもずっと綺麗で楽しい。

「これは何て曲?」

「ショパンの子犬のワルツ。日菜太見てたらこれが頭に浮かんだ。」

「俺、この曲知ってるよ。ショパンなんだ。子犬のワルツか。覚えておこうっと。流星が俺をイメージして弾いてくれた曲だもんな。」

「そうだなあ…。」

そう言って流星は又曲を奏でだす。

「あ、運動会の音楽だ。」

「そう。ネッケのクシコスの郵便馬車。」

「すごい。すごい俺でも知ってる‼流星すごいや‼」

ピアノを弾いてる流星は一人で弾いてた時の悲しさなんて見せないで楽しい曲ばかりを選んで弾いている。

楽しそうにピアノを弾く流星が見たくて何曲も何曲も弾いてくれと頼んだ。

そうしてどれくらい時間が経ったのか、パジャマだけでいたせいかもう3月も終わりだというのに寒くて身震いした。

「少し冷え込んできたな。日菜太が風邪をひいてしまう。もうピアノは終わりだ。布団に入れ。何か温かい飲み物でも持っていく。」

「ココアがいい。流星も一緒に寝るよね?」

「ああ。そうしないとお前は寝ようとしないんだろう?」

少し困った顔をしながら流星が言う。

最初のころに比べたら、ずいぶんと俺を受け入れてくれるようになったと思う。

だからって恋愛対象として見られているわけではないけど、今の距離感も好きだ。これを壊したくない。流星の傍にいたい。

「俺、先に布団に入ってる。ラルクもおいで。」

ラルクを抱き上げて寝室に入る。

しばらくするとココアを持って流星が入って来て俺に手渡してくれた。

俺の横でブラックコーヒーを飲む流星が大きなため息を漏らす。

「やっぱり何かあったんじゃない?俺が聞けることなら聞くよ。無理にとは言わないけど俺じゃ力になれないかな?」

もう一口コーヒーを飲んでからポツリポツリと流星が話し始めた。

「昨日俺の父親がここに来た事を言っただろう。日菜太と電話してる時にもいた。」

「うわっ。ごめんそんな時に電話して。お父さんと大事な話をしてたんじゃない?」

「いや。俺とあの人はそんなんじゃない。普通の親子ではないんだ。お前も知ってるだろう?俺はあの人と愛人の母親の間に生まれた子供だから、あの人にとっては迷惑な存在なんだ。」

「そ、そんな迷惑な存在だなんて…。」

「あの人の家族にとっては迷惑だろう?あの人にとってもだ。そうじゃないと年に2.3回しか顔を合わさない親子なんているか?」

「前に会ったのは6か月前って言ってたもんね。」

「ああ。あの人は忙しいしな。その代りに片桐がいるんだ。」

そうして流星は母親の事。と言っても流星にはあまりその頃の記憶がないらしく、母親の事はあまり覚えてないと言っていた。

6歳で施設に入れられ、9歳になるまでそこで過ごした事、今の家に引き取られてからも肉親と過ごす事はなく、メイドたちに囲まれていた事、それが嫌で高校になった時にここに一人で住むようになった事を話してくれた。日菜太の生い立ちを聞いたからなって俺のも言っておくって…。

流星が愛を信じないのは今までの生い立ちがあるからだ。

子供の頃に愛された記憶がなければ愛する事も愛される事もわからない。

子供の頃なんて一番親からの愛情を求めていて、それが与えられるべき時期なのに…。

流星はどんなに愛を求めただろう。

どんなに寂しかっただろう。

どんなに孤独な時間を過ごしてきたのだろう。

そう思うと涙が溢れて止まらない。

「何で日菜太が泣くんだ?」

「流星が泣かないからだ。だから俺が泣いてるんだろ。」

流星は優しく頭をポンポンと叩くから余計に涙が出る。

「もう泣くな。それでもこうして裕福な暮らしが出来るのもあの人のおかげなんだ。いつまでも世話になるつもりはないが…。」

「流星はここを出て行くのか?」

「いつかはな。今は俺一人じゃ生活も出来ないから無理だ。俺の自由になる金もないしな。」

「この街を出て行く?」

「さあな。その時になってみないとわからない。」

流星が遠くに行ってしまいそうな気がしてぎゅっと流星に抱き付いた。

「今いなくなるわけじゃない。あの人がさ、昨日来た時にすごく疲れた顔をしてたんだ。仕事中に抜けて来たって。俺の顔を見たかっただけだって…。今までそんな事を言って会いに来たことなんてなかったのに。大きな背中が小さく見えたんだ。それが気になってる。」

「流星に会いたいって来てくれたんだ。流星の子供の頃の話を聞いてたらお父さんの事を許せないって思う気持ちはわかる。でも何か事情があったんじゃないのかな?」

「事情があったら子供を一人にしていてもいいのか?」

「そう言うわけじゃないけど…。そうだね。理由は関係ない。でも昨日のお父さんの様子は気になるんでしょ。」

「まあな。」

「お父さんに聞けないなら片桐さんに聞いて見ればいいじゃないか。うん。そうしよう。明日は片桐さんを夕食に招待しようよ。」

「そんな事しなくてもいい。それに今会社が忙しいって言ってたから片桐も忙しいはずだ。仕事以外の事で片桐の手を煩わせたりしたくない。」

「流星は優しい。片桐さんの事が好きなんだね。」

「片桐を好きなわけあるか。会えば文句しか言わない奴だぞ。俺の天敵だ。」

そう言って感情を表に出すって事は、それだけ心を許してる相手ってことだ。

流星が感情を表に出す事は滅多にないから…。

「はいはい。片桐さんて忙しくない時は流星に連絡してくるんでしょ。その時に食事に誘ってよ。俺夕食作りに来るから。」

「連絡があったらな。それよりもう寝るぞ。いくら明日から春休みだと言っても夜更かしはダメだ。」

「遅刻魔だったくせによく言うよ。」

「うるさい。さっさと布団に入れ。」

こんな会話が出来るなんて思いもしてなかったな。

クスクスと笑いながら布団に潜り込むとラルクも中に入って来る。

「おやすみ流星。」

「おやすみ。」

身体が触れ合う距離ではないけど、同じ布団で寝るから温かい。

流星もそんな風に思ってくれたらいいな。

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