月と太陽がすれ違う時

月と太陽がすれ違う時63

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その人は俺に顔を見せまいとしてか背中を向けて話している。

その背中がやっぱり小さくなった気がする。この前感じたのは間違いじゃない。小さくなったんじゃなくて痩せた?

まだ37歳のはず。老けるような年齢ではない。今からという時期だと思うのにこの人はもう何もかも捨てているような感じがした。幼いころに会った頃の威圧感も、威厳も今はないような気がした。『蒼井 将星』ではなくただの大人の男。

「流星の初恋はいつだ?」

「さあ。初恋なんてした事ないと思いますよ。愛なんてまやかしだと思います。勘違いですよ。愛なんて俺は知らないし、欲しいとも思いません。」

「流星をそんな風にしてしまったのは私の責任だね。信じなくてもいい。私の初恋の話を聞いてくれ。」

そんなもの聞く気にもならない。「聞きたくありません」と言おうとして母さんの名前が出て口をつぐんだ。

「深雪と出会ったのは大学のカフェだった。私は家の為に経済を学んでいてね、でもやりたいのはピアノだったから勉強に関しては意欲がなかった。それなりの成績を取らなければピアノを弾く事も許されないからそこそこの勉強はしていたが、大学生活は面白いことなど一つもなかったよ。」

俯き加減に話すその人はその頃を思い出してか少し微笑んだ。

「私がコーヒーを注文して運んできたのが深雪だった。彼女はカフェで働いていたんだ。何故だろうね、話した事もないのにどうしてか彼女の事が気になっていつの間にか毎日カフェに通っていたよ。彼女に会いたくて1日に3回も行ったときはさすがに彼女も驚いていただろうに、笑顔でね「お疲れ様。毎日勉強大変ですね。」って声をかけてくれた。

それからかな。言葉を交わすようになって、休みの日には一緒に出掛けたりするようになった。彼女といるだけで私の世界はいろんな色を醸し出すようになった。無意味だった毎日に彼女という色がさしてきて生きてるって実感がわくようになった。

もちろん蒼井の家には秘密だった。彼女は普通の人だったし、両親は他界していて兄しかいなかったからね。それにその兄があまり素行の良くない人だった。深雪は時々痣を作っていた。多分、お兄さんに殴られてたんだと思う。それでも彼女は「何でもない。大丈夫よ」って笑っていた。本当に優しくて、明るくて太陽のような人だった。

彼女を好きになるのに時間はかからなかったよ。彼女を私一人の物にしたい。誰にも触れさせたくない。いつでも傍にいて欲しい。独占欲が溢れて仕方なかった。

カフェで他の学生と話してるのを見るだけでも嫉妬で狂いそうだった。

ある日、私は彼女を自宅に招いてピアノを弾いていたんだ。その頃は流星のように一人暮らしをしていてね彼女は何の疑いもなく私の部屋に来たんだ。

私はもう彼女の事を考えるだけで好きだと言う気持ちが溢れだしていた。コップの水が溢れるように彼女への思いが溢れてしまったんだよ。

それまでの私の恋愛というものは、あれを恋愛と言うならばなのだけど、来る者拒まずだった。寄って来るのは私の容姿と「蒼井」の名前に惹かれてくるものばかり。私自身を好きになってくれる人なんていなかったよ。深雪は蒼井に囚われる事はなかった。私を一人の男として見てくれた。だから深雪が初恋だったんだ。おかしいだろ。大学生になって深雪を好きになって初めて恋をしたんだ。

愛する事なんて初めてでどうしていいのかわからない。何を言えばいいのか、どうすれば好きになってもらえるのかもわからない。

あの頃の私は呆れるほどに一生懸命に恋をしてた。

恋愛のマニュアル本なんかも読んだくらいだ。それくらい深雪の事が好きで、嫌われたくなくて…。なのに男というのはどうしてだろうな。好きすぎて理性よりも本性が勝ってしまう。

深雪に触れたい。深雪の中に自分をうずめたい。深雪の何もかもをさらって奪ってしまいたい。深雪を自分だけのものにしたい。

その気持ちは日に日に募るばかりで、ピアノを聞きに来た日にとうとう深雪を抱いてしまった。

何てことをしてしまったんだと私は項垂れたよ。そしたら深雪が俺をぎゅって抱きしめてくれた。

「将星さん順番が逆よ。身体を繋げるよりも深雪が好きだって先に言ってくれなくちゃ。」って笑うんだ。

その時になって私は自分の事に精一杯で深雪に「好きだ」と伝えてなかった事に気が付いた。

深雪の優しさに、笑顔に涙がこぼれたよ。

「深雪が好きだ。愛してる。」

何度も何度も言った。泣きながらなんてなんてみっともないと思ったが、深雪は「嬉しい。貴方の本当の言葉が聞けて嬉しい」って一緒に泣いてくれた。

深雪は待っていてくれたんだ。私が愛を知らない事は深雪にはわかっていたんだな。だから気が付くまで言わずに私が気が付くのを待っていてくれた。気持ちを押えられず無理やりのように抱いてしまった私がこのままでは罪の意識で壊れてしまうと思ったそうだ。だからそうしてしまったのは深雪に対する感情が溢れたからだと、『愛』なんだと諭してくれた。深雪のおかげで私は『愛』を知ったんだよ。

私に言われても聞く気にもならないかもしれないけれど、流星の母親の深雪の事は流星に伝えておかないといけないと思っていた。

流星、君は私と深雪が本当に愛し合って生まれて来たんだよ。それだけは覚えておいておくれ。」

その時ケホッとその人が咳をした。少し顔色が悪い?

口元をハンカチでぬぐうと何でもないと言う顔をする。

「長く一人で話し過ぎたようだ。流星も身体の調子が思わしくないんだから早く寝なさい。急に来て悪かったね。流星の周りには流星を大事に思ってくれている人がいる事を忘れないでくれ。人を好きになる事も怖がらないで。私と深雪のように流星にもきっと寄り添ってくれる太陽のような人がいるはずだから。」

おやすみと声をかけてその人は静かに出て行った。鍵はポストに入れておくと言い残して。

俺はあの人と母さんが愛して生まれた?

母さんがあの人の初恋。

あの人の語ってくれた母さんとの思い出話は俺と日菜太の事と重なる部分が多くて困惑する。

俺は…。

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