月と太陽がすれ違う時

月と太陽がすれ違う時68

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運転席に座る片桐はいつも見るスーツ姿ではなかった。

質のよさげなチノパンに白いVネックの綿シャツ。その上には落ち着いたピンク色のカーディガンを羽織っていた。片桐の白い肌にピンク色のカーディガンがよく似合っていて、仕事の時とは違う柔らかい印象を日菜太に与えていた。

「これ飲んで。」

日菜太に手渡されたのは温かいココアだった。来るときに自販機で買って来てくれたみたいだ。

泣きすぎて水分がなくなり、嗚咽を漏らしていたために嗄れた喉に甘いココアが浸みていく。ポトポトと落ちていた涙もやっと止まってくれた。

「片桐さんごめんなさい。」

「どうして謝るの?日菜太くんは悪い事なんてしてないでしょう?」

「片桐さんお休みだったんじゃないの?スーツじゃない…。仕事大変なのに、せっかくのお休みを俺が邪魔した。」

「バカだな。邪魔だと思ったらこうして日菜太くんを迎えに来たりしないよ。流星様が絡んでいるんでしょう。日菜太くんがそんなに泣くなんてそれ以外に考えられないから。」

「そうだけど…。」

片桐さんは流星のよき理解者だと思う。流星の事を相談するなら片桐さんしかいない。そう思ったから素直にそうだと言った。相談というよりも話を聞いて欲しかったのだ。一人で鬱々と考えてしまう自分を引っ張り出して欲しかった。

「着いたよ。」

そこは流星のマンションほどではないにしてもグレードの高いマンションで有る事は外観を見ただけでわかる。

前を歩く片桐に遅れないように後をついて行く。

「ただいま」と片桐が言うと奥から「おかえり」という声が聞こえる。誰かいる…。

片桐一人だろうと思っていた日菜太は全然知らない人の声に一気に緊張が高まった。少し低い大人の男の人の声だ。誰かいるのに自分は入ってもいいのかと思って片桐を見る。

「怖い人じゃないですよ。私の同居人です。さあどうぞ。」

そう言われてしまうと帰るわけにもいかず、おずおずと靴を脱いで上がる。

「お邪魔します。」

その人はソファーがあるのにわざわざラグの上に座り新聞を読んでいた。迫力のある美形な人だと日菜太は思った。片桐は綺麗と言う言葉が相応しいと思うが、この人は男の色気が溢れた美形。精悍で艶があるというのか…。

言葉も出ずに固まってしまった日菜太にその人は「いらっしゃい」とニカッと笑った。少し崩れた顔も見入ってしまうほどだった。

片桐は向いのソファーに日菜太を座らせるとその人の持っていた新聞を取り上げる。

「英知。日菜太くんが怯えてるでしょう。飲み物でも入れて来てください。日菜太くんにはミルクティーを。」

「悠斗はいつものだな。」

そう言うと英知と呼ばれた人はフンフンと鼻歌を歌いながらキッチンの方へ行く。

「日菜太くんごめんね。英知の事は気にしなくていいからね。あんな大きい男を空気とは思えないだろうけど、いないものとして扱ってくれていいからね。」

「片桐さんあの人とここに住んでるの?」

「ええ。」

「俺をいないものと思えだなんて酷くないか?悠斗。俺はお前の恋人だろう?」

日菜太の前にミルクティーを置き、片桐にコーヒーを渡して頬にチュっとキスをしてその人が言った。

「どこでもかしこでもそうやって言うのはやめて欲しいと言ったでしょう。日菜太くんが驚いているじゃないですか。」

その人を見上げながら文句を言う片桐は、失礼だがとても可愛くそして綺麗だと思った。二人でいるとそこだけ空気が違う。愛し合っているのだと日菜太にはすぐにわかった。

「流星様の日菜太くんだろう。すぐにわかったよ。あと、俺と悠斗の事を口外するのは言っても大丈夫だという奴にしか言ってないぞ。悠斗が傷つくような事を俺がするわけないだろう。」

「そう言う事にしておいてあげますよ。日菜太くん驚きましたか?私の恋人が男の人で。」

俺は慌てて首を横に振った。こうして二人を見ていたら何の違和感もない。もし片桐の相手が女の人だったら…そう思って想像しようとしたが思い浮かばなかった。

「良かった。私は日菜太くんに嫌われるのは嫌ですから。でも隠してるのも嫌だったんです。英知をいつか日菜太くんにも紹介したいと思っていたんですよ。」

本当にホッとした顔をする片桐に英知が「良かったな」と声をかける。

英知が入れてくれたミルクティーを飲んでいると片桐が日菜太をじっと見つめた。

「で、何があったんですか?」

英知がいるのに話してもいいのかと思っていると英知が仕事が残ってるからと部屋を出て行った。

「あれでも気を使ってるんですよ。何かあったのは流星様の様子を見ていればわかります。」

「流星、学校に来てないんです。俺、流星と喧嘩しちゃって…。」

「流星様は不眠と軽い栄養失調で休んでいるんです。でも大丈夫ですよ。英知が診察して薬も処方しましたし、食事も摂れていますから。明日には学校に行けると思います。」

「不眠と栄養失調…。何で?」

「さあ、流星様は何を考えているのかわからないところがありますから。誰にも本心を明かそうとしませんしね。で、何で喧嘩になったんですか?」

日菜太は流星に食事を作りに行った時の出来事を片桐に話した。その時の自分の気持ちも、流星と会えなくて考えた事も、離れたくないと言う気持ちも…。

片桐は日菜太の話を口を挟まずに聞いてくれる。時に感情が昂って涙が出そうになり黙ってしまっても、催促することなく日菜太が話したい様に話させてくれた。

片桐に聞いてもらえた事で日菜太の中に燻っている気持ちが少し和らぐ。全て話し終わってふぅーと息を吐いた日菜太に片桐は優しく微笑んだ。

「流星様は子供ですからね。ある意味日菜太くんよりもずっと子供なんですよ。」

「流星が俺よりも子供?そんな風には思えないよ。何でも知ってるし、俺みたいに感情を押し付けたりしない。」

ただ、時折激流の中にいるような激しい感情を日菜太にぶつけて抱かれた事はあったけど…。

片桐は何かわかったのかニコニコと日菜太を見ている。

「片桐さん俺どうしたらいいのかな?」

「どうしたらいいんでしょうね。」

てっきり何かいいアドバイスをくれるものだと思っていたから「え?」と片桐の顔を凝視してしまう。

「いい案があればいいんですが、残念ながら思い浮かびません。せっかく私を頼ってくれたのに申し訳ないですね。」

そう言う片桐の顔はちっとも申し訳ないと思っているようには見えなかった。でもそんな片桐に腹が立つ事はない。

解決策は見当たらなかったけど、片桐に話を聞いてもらえた事で幾分か気持ちが楽になったのは本当だから日菜太はそれでいいと思った。

遅くなったからと日菜太を家まで車で送ってくれた片桐にぺこりと頭を下げる。

「今日は話を聞いてくれてありがとうございました。」

「ごめんね。聞く事しか出来なくて。」

「いいえ。聞いてもらえて少し楽になりました。」

「そう。それは良かった。日菜太くん…。」

「何ですか?」

「日菜太くんは流星様とこれからどうしたいのかな?」

「……これから?」

「じゃ、おやすみ。」

謎かけのような言葉を残して片桐の車は遠ざかって行った。

「おやすみなさいって言えなかったな。」

テールランプが見えなくなってもぼーっと立っていたのに気が付いて門の中に入りながら呟いた。

「俺は流星とこれからどうしたい?」

片桐さんは何を言いたかったんだろう。

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