月と太陽がすれ違う時

月と太陽がすれ違う時73

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日菜太が家に来なくなったかわりにこの人が来るようになった。何て言えばいいのか…。

俺はかなり当惑している。

俺が倒れてしまってからもう3週間が経った。最初は週に1回ほどこのマンションを訪れていたその人は、俺が何も言わないのを良い事に頻繁にここを訪れるようになり、毎回夕食を作る。母さんの味だといろいろな料理をするのだ。難しい料理は無理だと言いながら簡単な家庭料理を作り、一緒に食べる。

おかげで痩せていた身体ももとに戻り、冷たい弁当を食べる事も滅多になくなっている。

あまりに頻繁に来るので家は大丈夫なのか聞くと「大丈夫だ。気にしなくていい」と言われるので断れずに招き入れている。嬉しそうに食材を抱えてやって来る顔を見ると「来なくていい」とは言えない。それどころか「少し嬉しい」と思っている自分がいる事に戸惑う。許せない気持ちがなくなったわけではないのに…。だから戸惑っている。




「おーい。流星、皿持ってきてくれ。今日はお前が好きだったオムライスだぞ。お前はチキンライスより、ハムの入ったケチャップごはんが好きでグリンピースは嫌がって食べなかったんだ。今でもグリンピースは食べれないのか?」

「俺、子供じゃないんですよ。グリンピースぐらい食べれます…。」

オムライスが好きだったとか覚えているわけないだろう。それに、親のいない子供が生きていくのに好き嫌いなんてしてる場合じゃなかった。嫌いだと言えばごはんは食べれない。代わりのものをくれるわけではなく食べるものがないという事になるのだ。

「そうか。流星も大人になったんだな。」

的外れな事を言いながら嬉しそうにフライパンをふる俺の父親。血の繋がったたった一人の肉親。でも、いまだにこの人を父親だと思えない。当たり前だ。この間まで恨んでたくらいなのだから…。

いくら事情を知っても、はいそうですかと簡単に受け入れられるわけがない。もう10年以上父親だと思っていなかった。嫌われているとばかり思っていたのだから。

父親と母親に愛されていたと言われてもピンとこない。

ふぅとため息をこぼして皿を出して手渡すと、白い皿にケチャップライスが盛られる。さっと洗ったフライパンに溶いた卵を手早く回しいれるときれいな満月のような薄焼き卵が出来てさっきのケチャップライスをきれいに覆う。

「さあ出来た。一緒に食べよう。」

テーブルにはサラダと、オムライスとレタスのスープ。

「これは流星の3歳の時の誕生日のメニューだ。覚えてないかもしれないが、すごく喜んだんだぞ。」

「いただきます。」

「どうだ?おいしいか?」

日菜太の作ったオムライスの方が正直に言えばおいしい。でも、少し心配そうな顔をして俺を見ているから無視も出来ず、ほんわかあったかい味に「おいしいです」と言うと嬉しそうに笑った。

「流星はふわふわのオムライスよりも薄焼き卵で覆ったオムライスの方が好きだった。まあ、あの頃はそんなに裕福ではなかったから、フワフワのオムライスなんて贅沢すぎて食べれなかったんだがな。せいぜい安いハム止まりだったが、3人で食べればそれでもごちそうだった。今は高級な食事を飽きるほど食べているが、あの時食べた食事の方がごちそうだったと思うよ。おいしかった。母さんはとても料理が得意だったからな。」

その人はいつも食事に来ては母さんの話をする。とても嬉しそうに…。どこに行ったとか、どんな料理がうまかったとか、母さんの癖の話とか、苦手なもの、好きなものの話。聞いていていつの間にか日菜太と行ったところとか、日菜太の得意料理、日菜太の癖、日菜太の苦手なもの、好きなものに置き換えて考えている事に気が付く。

この人は今まで誰にも言えずにいたのだろう。俺には話せるからか、当時を思い出しながらいろんな話をしてくれた。俺が聞いていなくてもあの人は母さんの事を話せるだけでも嬉しいのかもしれない。その話を自分と日菜太に置き換えているのはどうしてだろう。俺の周りで仲の良いのが日菜太だけだから?そういつも日菜太の事が頭によぎる。ふとした瞬間に考えているのは日菜太の事ばかりのような気がする。




「流星食べるの早いな。これも食べなさい。」

まだ口をつけていないからと自分のオムライスを空になった俺の皿と換える。

「食べてないじゃないですか。いいですよ。」

「私は会社を出る前に昼を兼ねて食べたからいいんだ。」

いつもそうだ。副食は少し食べるがメインは俺に食べさせようとする。そう言えばまた少し痩せたような気がするのは気のせいだろうか?

いつものように食事の後にコーヒーを入れるのは俺の役目。食事を作る事は出来ないが、コーヒーは淹れられるから俺がしだしたのが始まり。

「流星学校はどうだ?」

「ちゃんと行ってますよ。倒れて休んでしまいましたから、これ以上は休めません。蒼井の為じゃなくて、俺も留年はいやですから。」

「そうだ。片桐に聞いたんだが日菜太くんという子と仲良くしているんだろう?前はここにもよく来ていたと聞いたが私は会った事がない。」

「日菜太は…。もうここには来ませんよ。俺がもうここには来るなと言いました。日菜太はいい子だから友人が多いんです。俺だけというわけではないんですよ。」

「そうか…。」

何か言いたそうな顔をしていたが、その人は詳しく聞こうとはしなかった。つい話してしまったが、深く掘り下げて聞かれると日菜太が俺を好きだと言っていた事も話さなくてはいけなくなるから助かった。

それからは他愛のない話をしてコーヒーを飲むとその人は帰っていった。家で過ごす2時間余りの時間。「流星を守るのは私の役目だから」といつも帰る時に言うのは何故なんだろう。

時折、寂しそうに俺を見ている目を意味を聞けずにいた。その眼の色が深くなっていってるのに気が付いて、何だか怖くて聞けなくなった。

日菜太の代わりのように俺の傍に来るようになったあの人。

学校へは行っているが相変わらず日菜太とは口も聞いていない。日菜太に顔をそむけられるのが嫌で日菜太を見ないようにしていた。中途半端な俺…。時間だけが流れていく。これでいいのか?



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