月と太陽がすれ違う時

月と太陽がすれ違う時77

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片桐がDRを連れて出て行ってしまい、病室にはあの人と俺だけが残された。しばらくお互いにしゃべる事もなく静かな時間だけが過ぎていく。その静寂を破ったのはケホケホというあの人の咳だった。

「大丈夫ですか?」

「ああ。大丈夫だ。」

そう言いながらもちっとも大丈夫そうに見えない。本当に過労だけなのだろうか?

冴えない顔色のその人を見てふと不安がよぎる。母親が死ぬ前もこんな感じだったような気がしたからだ。

「そういえば母さんは何の病気だったんだろう?」

心の声を呟いていたらしい。

「深雪はもともとそんなに身体が強い方ではなかった。働きづめで無理がたたったのだろう。」

何も言えずに黙って聞いていた。

「父さんは…。」

「私は丈夫だよ。心配ない。」

また二人の間に沈黙が訪れる。

「もう休んだ方がいいんじゃないですか?」

「あ、ああ。流星明日も来てくれないか?」

「入院は1日だけのはずでは?」

「片桐がこの際だからしっかりと検査をしておきましょうと言いだして、3日ほど入院することになったんだ。」

「でも俺よりも本家の人が来てくれるでしょう?」

「来ないよ。来なくていいと言ったしね。こんな時でもないと流星とゆっくり過ごせないから。」

「俺が来ても何も出来ませんよ。」

「いいんだよ。来てくれるだけで。日菜太くんだったか?その子と来てくれてもいい。」

「日菜太…ですか…。無理…です。彼は俺の事を嫌ってますから…。」

日菜太に「大っ嫌い」と言われた事を思い出して胸がズキズキと痛んだ。

「喧嘩でもしたのかい?」

「日菜太が勘違いしたんですけど、原因を作ったのは俺ですから俺が悪いんです。自業自得です。」

どうしてこの人に言ってしまったのか…。つまらない事を言ってしまったと思いつつも話した事で少し救われたような気がした。

あまり長居をして無理をさせてはいけないと明日また来ると約束して病室を出た。

片桐を探したが見当たらず帰る事をメールして帰路につく。マンションに戻って家の鍵を出し、日菜太に渡した鍵がキーケースに並んでいるのを見てなぜかすごく落ち込む。

その日も大きな音の洪水の中で眠れずに夜を過ごした。



次の日、学校で会った日菜太の目は少し赤く腫れていた。でも俺と目が合う事はない。避けられていた。今までもそんな感じだったが、今日は日菜太の意志で避けているのだと明白にわかった。それは思ったよりも俺の心を傷つけた。もしかしたら俺は日菜太が好きでいてくれる事に甘えていたのか。嫌われる事はないとどこかで思っていたのかもしれない。

夕方、病院のあの人の所へ行く。

行く前に片桐に確認するとあの人の言っていた通り、本家の人は来ていないようだった。

トントンとノックしても返事がない。静かにドアをあけるとその人はベッドの上で横たわっていて、顔色が青白くて息をしていないんじゃないかと思って慌てて傍による。

胸が上下に動いていてホッとした。まるで死んでいるようだったから…。

夕暮れに染まる病室で窓の外を見ながら時間を過ごす。

不思議な時間だった。

ついこの間まで憎んでいた人といる。いつの間にか憎しみや恨みは薄れ、二人で過ごす時間はぎこちなさはあるものの安心感みたいなものを感じるようにさえなっていて穏やかに流れる。

普通の親子みたいになるにはまだ時間がかかるのだろうけれど、いつかはそうなれるんじゃないかと思うようになっていた。

「流星来てくれてたのか。」

目を覚ましたあの人が俺を見て静かに微笑む。でもその顔には力がないように見えて、ますます母親が亡くなった時の事を思い出させた。

「父さん本当に過労だけなんですか?」

違う病気を隠していると核心に近いようなものを感じていた。だから俺のところに急に来るようになったのだと。そう思えばこの人の行動も納得出来る。

「過労だよ。何度もそう言っているだろう。もう若くないからね。」

「37ですよ。まだまだ若いじゃないですか。」

「ありがとう。そうだな。まだこれからだ。」

二人で黄昏ゆく景色を眺める。会話のない静かな時間。

病気の事を詮索するのはやめた。気になるけれど、今聞いてもちゃんと答えてくれないような気がする。頻繁に会う前なら病気の事も聞かされずに、知る事もなかっただろう。でも今は前に比べれば会うのだから今じゃなくてもいつかは聞けるだろう。

「こうして何もせずに寝ているといろんな事を考えるものだな。」

「そうでしょうね。」

「流星と日菜太くんとの事を考えていた。」

「え?」

「喧嘩しているのだろう?前にそう話してくれた。流星は十分に愛されていないせいで感情に幼いところがある。話を聞けば流星よりも私の方がその感情を説明出来るのではないかと思うんだ。今の流星の気持ちを話してみないか?」

感情に幼い。確かに感情に希薄に生活していたし、他人と深く接してないから日菜太との事はわからない事だらけだ。
美樹という女にも「あの子の事が好きなんじゃない」と言われた事が引っかかっている。

「話してみるだけでも自分の中で気持ちの整理が出来て自分の気持ちがわかるかもしれないぞ。」

優しくそう言われ、俺はぽつりぽつりと話し出した。話す事で自分の気持ちを整理していく。あの人の言った通りだ。すべてを話し終わった時には何だか少しスッキリしていた。

俺、日菜太の事が好きなんだ。そう認めればしっくりと心の中が落ち着く。日菜太が好きだと認めたくなかったのは、認めてしまう事は今までの俺を否定するような気がしたからだ。愛なんて幻想、まやかしと言い続けて来た俺を…。

「私が助言するまでもなく自分でわかったみたいだな。」

「みたいです。」

日菜太が好きだとわかった。でもだからといってどうしようとも思わない。俺は日菜太を傷つける事しか出来ない。今までを振り返ればそうだ。

日菜太の幸せを考えれば俺じゃない方がいい。日菜太は大嫌いだと言った。このまま嫌われていればその内俺を好きだった事なんて忘れていくだろう。

一時でもこんな俺に好きだという気持ちをくれた。俺でも好きになるという事が出来た。それだけで十分じゃないか。

「流星、本当に欲しいものは欲しいと言わないと手に入らないよ。」

「そう…ですね。」

俺はこの人の愛が欲しかったのに言わなかった。我慢しないで、怖がらないで言えばもしかしたら手に入ったのかもしれない。でもこの人の俺に対する愛は時間がかかったけど今感じる事が出来る。俺は愛されていたんだ。もうそれだけで十分だ。これ以上の愛を望むのは俺には身分不相応だ。

それから数日が過ぎ、あの人は無事に退院した。今は仕事にも復帰している。俺はまた一人の生活に戻っていた。

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