土曜の雨のジンクス

土曜の雨のジンクス1

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「やっぱり別れよう。」

明るかった空が黒い雲に覆われ、窓ガラスにパラパラと打ち付ける雨。

(やっぱりな…)

オレは相手の顔じゃなく、外の雨を見てそう思った。

心の中でわかってたみたいにとても冷静に呟いていた。

今日は土曜日の雨の日。

傍に居た人がいなくなるのは決まって土曜日の雨の日だった。

「オレ、明日叶の事、本当に好きだった。お前がオレの事を本気で好きじゃないのはわかってた。それでもいいと思ってたけどそれじゃ足りないんだ。オレが1番じゃないと。明日叶はオレじゃなくてもいいんだろう?だから別れよう。オレの事を本気で好きになってくれる奴が出来たんだ。」


楽しかったよ…そう言ってコーヒーの伝票を掴むとその男は振り返りもせずに歩いて行く。

本気で好きじゃなかっただって?どうしてわかったように言うんだ?オレの心の中がわかるのか?

オレはお前の事が好きだった。

煙草の匂いのするキスも、強引に身体を繋げてくるところも…。

でもオレは追いかけようとしなかった…。

何もかもあいつの為に投げ出してしまえるほど好きかと言われれば否だ。

もうそんな恋は出来ない。したくない。もうあんな思いだけはしたくない。




「あ、鍵返してない…。」

キーケースで揺れるもう使う事のないあいつの部屋の鍵。そう言えば最後まであいつにオレの部屋の鍵は渡さなかった。それも本気で好きじゃないと思われた原因かもしれない…。

「ポストに入れとけばいいか…。」

外した鍵を手にぼんやりと外の雨を見る。


今まで、大切な人と別れが来るときはなぜかいつも土曜日で雨が降っている。


幼い頃、母親が出て行ったのも雨の土曜日だった。

「明日叶ごめんね。ママもう耐えられないの。」

そう言ってオレをぎゅっと抱きしめたくせに振り向きもしないで出て行った母親。

父親はオレに言い訳一つ言わなかった。

仕事ばかりで家には殆どいた事のない父親だった。

しばらくたってから母親は恋人を作って出て行ったのだと、口さがない親戚の叔母が教えてくれた。

オレは母親に捨てられたのだ。

母親が出て行った事は幼いオレを酷く傷つけた。

母親に見限られた。捨てられた。

オレはこんなに好きなのに…。母さんが大好きだったのに…。

「明日叶…。」今まで呼んでくれた優しい声はその日からオレには届かない。

憎むというよりもただ悲しかった。

家を出るのなら一緒に連れて行って欲しかった。

どうしてオレを置いて行っちゃったの…。




父親はオレの事を思ってなのかそれ以来仕事をセーブして、早く家に帰って来るようになったし、休日出勤も控え、家にいる事が多くなった。

母親のいなくなったオレを不憫に思ったんだと思う。

だからと言って今まで甘えた事がなかったのだから、今更父親に甘える事など出来なかった。

思春期に入りかけていたオレは父親に反発する事しか出来なかった。

家にいる父親に今更、家に居てどうするんだと思っていた。家にいる事が出来るのなら、母さんが出て行くまでにそうすればよかったんだ。そうすれば母さんは出て行かなかったかもしれない。

そういう気持ちがいつも付きまとっていて、父親とオレとの間にある小さな溝は埋められないまま現在に至っている。

高校までは一緒に住んでいたが、大学からは一人暮らしを始め、社会人になってからも殆ど家には帰っていない。



そんな事があったからかどうかはわからないが、人と別れる時は土曜の雨の日が多かった。

好きな人、大切な人で有ればあるほど土曜日の雨の日の別れになる。

たまたまだと思った事もあったが、社会人になった今も同じ事を繰り返している。

恋人が出来ても半年ともたずにいつもフラれていた。

大きな喧嘩をしたわけでもない、いつもと同じように過ごしているのにある日「本当に好きだった。別れよう」と言われてしまうのだ。

別れる時はいつも「本当に好きだった」と過去形にされてしまう。

オレが付き合って来たのは男ばかり…。

男しか好きになれないのではないかと自分の性癖を疑ったのは中学生の時だった。

母親に捨てられたという思い込みからか、女性は苦手な生き物になっていた。でも中学生の時はただ苦手なだけだと思思っていた。

男しか好きになれないなんておかしいという事はわかっていた。

まわりと違う事が怖くて、そんな性癖の奴は周りには誰もいなくて、女性が苦手なだけだ。大人になればちゃんと女性を好きになるのだと、母親がいないから女性に慣れていないのだと自分に言い聞かせていた。


それが逃げなのだと、言い訳なのだと思い知らされたのは高校生になってから。

高校に入り、初めて本気の恋をした。

それが男だった。

その頃のオレの身も心も全て捧げた。バカみたいに…。

『菅沼 鷹之』

オレが初めて付き合った男。

幼いながらも本気で好きだった。

鷹之の為なら誰に何を言われても耐えられると思っていた。

鷹之もそう思ってくれているのだと思っていた。

オレは何も知らない子供だったんだ。

ゲイが認められない事も、不毛な関係な事も、秘密にしておかなければいけない事も、誰にも祝福されない事もわかっていた。

それでも鷹之といたかった。

鷹之さえいれば他に何もいらないと思うくらいに好きだった。

ほんとにバカみたいに好きだった。

あの日、あの場面を見るまでは…。


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読んで下さいましてありがとうございます。

新連載がスタートしました。中編で終われるようにと思っています。いつも長編なので…。苦手ですがやってみます。

最初からちょっと暗いですが…。明日叶がどうやって本気の恋をしていくのか、見守って下さればと思います。

寒の戻りで寒くなっております。皆様お風邪など召されませんようにご自愛下さいませ☆

†Rin†


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