土曜の雨のジンクス
土曜の雨のジンクス3
あの日走って帰って…。
自分の部屋のベッドに潜り込んで声をあげて泣いた。
母さんが出て行った時と同じくらい涙が出て止まらなかった。
いつの間にか外は薄暗くパラパラと雨が降っていた。
泣きに泣いて、いつの間にか泣き疲れて眠ってしまって起きたら本格的な雨がザーザーと降っていた。
放り出したカバンから携帯が飛び出てて、青色のライトが点灯している。青色は鷹之の着信の色。鷹之だけは着信音もライトも変えていた。オレにとって特別な人だったから…。
携帯を取り開けると何件か着信があった事を教えてくれる。
その中に父親からの着信を見つけ留守録を再生する。
『明日叶、卒業おめでとう。すまないが父さんは今日は帰れそうにない。一人で夕食を食べてくれ。』
一人の夕食?この頃いつも一人だよ父さん。別に一緒に食べたいなんて思わないけど、いつも一緒に食べてるみたいな言い方しないでくれるかな。
その後には鷹之からのメッセージ。
『明日叶先に帰ったんだな。話したい事があるからこれを聞いたら電話してくれ。』
話したい事…。
昼間の光景が目に浮かぶ。
別れ話か…。
あの光景を思い出しただけで胸が酷く痛くて、苦しくて息も出来なくなるのに鷹之から直接別れを言われたら、オレはきっと立ち直れない。
そう、それほどに鷹之の事が好きで好きで好きで…。
鷹之から別れを言われるくらいなら、自分から別れを切り出す方が救われるんじゃないかと思った。
鷹之の口から『別れよう』なんて言葉は聞きたくない。
再び流れ出して止まらなくなった涙を手の甲で拭う。
オレは携帯のメールを開くと
『別れよう』
涙で文字が見えなくなりながら、それだけを打ち込み鷹之のアドレスを入力した。
後は送信するだけなのにそれが出来なくて嗚咽がこぼれる。
この3年間喧嘩もしたけど上手くいっていると思ってた。
SEXだって数えきれないくらいした。
お互いが混ざり合うんじゃないかっていうくらいに二人で一つになっていたのに…。
終わりはあっけなくて…。
結局は女には敵わないんだって3年かかって知ったようなものだ。
もうこんな思いはしたくない…。
オレは意を決して送信ボタンを押す。
「鷹之バイバイ…。」
外は酷い雨だけど、泣きはらした顔を傘は隠してくれるだろう。
携帯の電源を落とすと、オレはキャップを目深にかぶって目元を隠し、ザンザン降りの雨の中を携帯ショップに向って歩く。傘なんて意味のない位の雨ですぐにびしょびしょになったけど何とも思わなかった。
「いらっしゃいませ。すごい雨ですね。」
「そうですね。あの携帯の番号を変えたいんですけど…。」
「何か困った事でも?」
「迷惑電話が…。」
「そうですか。それはお困りですね。ではこちらへどうぞ。」
迷惑電話…。そう言った自分の言葉にツキンと胸が痛む気がした。
「こちらからお好きな番号をお選びください。別途料金がかかりますが末尾4桁は好きな数字にもできますよ。」
「0726…。」
「0726ですか?調べてみますね。」
0726…。7月26日。鷹之の誕生日。
何かに連れお互いの誕生日を使っていた。鷹之は0307。オレは0726.これなら誕生日は忘れないなって決めたんだ。
携帯の暗証番号、パソコンのパスワード。
4桁と言われると自然に出てくる番号。
もう使う事はない4桁の数字。
「すいません。やっぱり…。」
「有りました。080-0306-0726はいかがですか?」
03060726…。鷹之とオレの誕生日…。
なんて偶然だろう。二人で来ていたならば顔を見合って喜んだだろうな…。
そうだったならどんなに嬉しかっただろう。幸せそうな顔をしているだろう自分を想像して切なくなった。
番号を変えてこの街を出たら鷹之とのつながりは何も無くなる。
オレ一人が持つだけならこの番号を持っていても許されるだろうか。
鷹之に知られる事のない番号だから…。
今は鷹之と繋がっていたい。それがどんな小さな事でも…。その内に時間が経てばこの痛みも薄れていくだろう。その時にはこの番号を返すから、今だけ縋らせて欲しい…。
「じゃあその番号でお願いします。」
「はい。ではこちらでお手続きをお願いします。」
携帯はそのままなのに番号だけ違う。
少し雨脚の弱くなった雨の中を家に急ぐ。
傘とキャップで顔を隠すように家に入ると誰もいないかのように電気もつけず、濡れた服を着替えただけでベッドに潜り込む。
オレに電話をかけて出なかったら鷹之が家に来るかもしれない。そう思うと電気はつけられなかった。
明日、オレはこの街を出る。本当はもっと後に出るつもりだったけど、もうここには居られない。居たくない。
鷹之と彼女が二人でいるところなんて見たくない。
大学はこの街から少し離れているので一人暮らしをする予定でもう部屋も借りてあった。
だから取りあえずはそこに行けばいい。荷物もある程度運んであるから困らないはずだ。
父さんには後で話をすればいい。別に反対したりはしないだろう。今とあまり変わらないのだから。
父親になつかないオレを扱い兼ねてか父さんはまた仕事人間に戻っていたから、今でも一人暮らしのようなものだ。
番号を教えてないのだから電話がかかって来る事はない。家電もプラグを抜いておいた。
始発なら知ってる奴に会う可能性も低いだろう。
そうしてオレは次の日、誰にも告げずにこの街を後にした。
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読んで頂きましてありがとうございます。
新連載がスタートしました。中編のつもりですが、もはやプロットになかった話を入れています(@Д@; アセアセ・・・ いえいえ中編で…ええ、中編で参りますともホホホ…。
文中に電話番号が出て来ますが、適当ですからね。ただ誕生日を重ねただけです。深い意味はありません。そんな番号が実在するのかもわかりませんので深く突っ込まないでくださるとありがたいです。
4桁の番号については以前、私が替えた時の事を思い出して書いたもので、今もその制度があるのかどうかはわかりません。ほんと適当で申し訳ないです。でも1話1話思いを込めて書いているのでお付き合い下されば嬉しいです☆
†Rin†
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