土曜の雨のジンクス

土曜の雨のジンクス4

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今でもオレはあの街から出た時と同じマンションで生活している。

実家には一度も戻っていない。

男だからと父親もさして気にしていない様ではあったが時折電話はしていた。

大学の時に一度、泊まりに来たことがある。

女っ気もない殺伐とした部屋をどう思ったのか…。

「無理だけはするな」とだけ言われた。

あれからもう数年が経つ。

もちろん全く会っていなかったわけではない。年に何回かは一緒に食事をしている。

就職が決まった時にはお祝いだとスーツをプレゼントされ、洒落たイタリアンレストランで食事もした。

それでも小さな溝が埋まったわけではなく、今も父親との間には一枚の壁があった。それをどうにかしようと思わない。今の距離が一番いいと思っている。

お互いが無理をする必要はない。もう大人なのだから。

もともと大学の時に一人暮らしをすると決めたのは鷹之もオレも実家暮らしだったから、思うように二人の時間をすごせなかったからだ。鷹之は実家から通える大学で、オレは実家から少し離れた大学だったから一人暮らしをする事は必然とも思えた。実際は邪魔される事なく二人の時間を過ごしたかったと言うのが一人暮らしを決めた理由だ。本当は卒業式の後に合鍵を鷹之に渡すつもりだった。

今まで鷹之以外に合鍵を渡そうなどとは思ったことはない。

今まで付き合って来た相手に渡したいと思うような恋人はいなかった。一度も使われた事のない合鍵はきっとこれからも使われないのだと漠然と思う。

そんな事はないとかぶりをふってみても、どこか諦めに似たような気持ちでそう思ってしまう。

未だにオレの携帯の番号は二人の誕生日をつられたものだ。

替えた時はそのうちこの番号を返せると思っていたが、未だにこの番号のままだ。

鷹之と別れてから、付き合っていた恋人がいないわけじゃない。むしろ多いかもしれない。長く続かないから…。

もちろん相手はみんな男だ。オレが女を好きになれない事は十分学習した。

大学の時に学部でも1,2番に可愛いと言われる子と付き合った。もちろん身体の関係にもなったが、1度したらもう抱けなくなった。

その一度も無理やり勃起させて突っ込んだだけのもの。性欲処理だ。

相手の子に悪い事をしたと思ったがそうしなければ出来なかった。

勃起させる事は簡単だった。鷹之とのSEXを思い出せば身体が熱くなったから…。

その子とはすぐに別れた。

プライドの高い子だったからオレがフラれた事にした。あんなSEXだったから陰口をたたかれる事を覚悟していたが、その事については彼女は何も言わなかったようだ。その後しばらくはいろんな噂が流れてそれは酷くオレを疲弊させた。

それ以来大学での知り合いとは付き合うのは避けた。どこから噂が立ってしまうかわからないからだ。

もちろんあらかさまにそんな店に行く事は出来ないし、そんな店がどこにあるのかもオレは知らなかった。

それでもオレは相手を見つけるのに困った事はない。

男同士の恋愛なんて、普通の男女の恋愛と違ってそこいらに落ちているわけではないのだけど、何故かオレはその手の人達に出会う事が出来た。

付き合っていた相手にオレはそういう人種だとフェロモンが出しているのだと言われた。一人なら笑って流せたが何人にもだ。

自分では全くそのつもりはないし、その話を信じたわけではないが探すまでもなく相手が寄って来るのだからもしかしたらそうなのかもしれないとも思う。

付き合って半年ほどで別れ、その時はもう恋人なんていらないと思うのに、しばらくすると一人が寂しくなって「好きだ」と言われると呪文のようなその言葉に吸い寄せられるように縋り付いてしまう。

その時は好きじゃなくても付き合っていれば好きになるだろうと思うのだ。実際に好きになろうとする。でもある程度好きになるとのめり込むのが怖くて別れた時の事を考えている自分に気づく。そう付き合っているのに別れの事を考えている。そんな気持ちが相手に伝わるようでいつもその頃に別れを切り出される。そんな気持ちだから相手が嫌になるのも仕方ないと諦めてしまう。のめり込んで立ち直れなかったあの時を思い出して…。もうあんな思いはしたくない。

鷹之以外との恋愛ではオレはフラれてばかりだ。でもそれはオレが相手の事をちゃんと好きになれないから仕方のない事だけど、やっぱり別れは多少なりとも傷を作る。

高校生の時に失った恋はオレを臆病に変えた。今でもその時を思い出せば酷く胸が痛んでジクジクと血が滲む気がする。あれから5年が経つというのに…。そうオレはまだ立ち直れてはいないのだとこんな時に痛感させられる。

鷹之はオレと付き合うまでは普通に女と付き合えたのだ。オレとは興味半分だったかもしれない。性に対して奔放で興味のある年頃だったのだ。そこにたまたまオレが居ただけ…。熱が冷めたら女に戻っても不思議じゃない。むしろ当たり前の状態に戻っただけだ。オレがおかしいだけ…。




いつまでもコーヒー一杯でそこに居るわけにも行かず、冷めたコーヒーを飲むとオレは店を出た。

ポツリポツリと降っていた雨は少し雨脚が強くなっていたけど、あいにくとオレは傘を持っていなかった。そのうちザーザーと降り出してもオレはそのまま歩いた。


また一人になった…。


大丈夫だと思っていたけど、別れは思った以上にオレには辛い物だったようだ。

別れじゃないな。一人になった事が辛いのだ。現に付き合っていた恋人の事を考えているわけではない。一人になった事を憂いでいるんだ。鷹之との別れを思い出して…。

傘をさしている人が怪訝そうにずぶ濡れで歩いているオレを見ている事には気が付いたがどうでも良かった。

コンビニで傘を買えばいいとも思ったが寄ろうともしなかった。どうせこんなに濡れているのだから今更傘をさしても仕方がない。それよりこのまま冷たい雨に濡れていたかった。自分を、心を、とことん冷たくして欲しかった。そう何も感じない様に…。




「…っしゅん…。」

どれくらいそうして歩いてたのか、気が付くと見覚えのない街に来ていた。

時計を見ればあれから1時間近くが経っている。

さすがに身体は冷え切ってしまっていた。このままじゃヤバイ。明日も仕事があるのだ。

社会人として仕事をおろそかにする事はオレの許せる事ではない。こんなオレでも仕事は責任と誇りを持ってしている。男としてのプライドがおろそかにする事を許さない。それを許してしまえばオレは男じゃないとさえ思っている。

恋愛の中では男を受け入れる身だが、仕事では誰にも負けるつもりはない。男としての矜持だ。

そんな事を思ってもブルブルと身体が震えだす。ヤバイな。早く帰って温めなければ本格的に風邪をひきそうだ。しかしこの格好ではタクシーにも電車にも乗れない。どこかで服を買って着換えないと…。

そう思ってよく前も見ずに歩き出して人とぶつかりバランスを崩して水たまりに尻もちをついてしまった。

「わっ…。」

「いたっ…。」

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