土曜の雨のジンクス

土曜の雨のジンクス7

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「着きましたよ。」

肩を揺すられて目を覚ますけど目の焦点が合わなくてぼーっとしてしまう。

くすっと笑われて鷹之といる事を思い出し顔がカッと赤くなった。

「すいません寝てしまって。送ってくれてありがとうございました。」

あわてて礼をいうとシートベルトを外して外に出ようとした。

「待って。」

握られた手がそこから熱を帯びてくる。オレはその熱にうかされるように固まって動けなくて…。


「あ…又、今度、又、店に来て下さい。ランチが上手いんです。今日のお詫びにごちそうさせて下さい。」

「……。」

もう行くつもりもないのに頷く事なんて出来ない。オレはそんな器用な人間じゃないんだ。

俯いたままのオレを見て鷹之が悲しそうな顔をしてたなんて知らない。その後で何かを決意するような顔をしていた事も…。

固まったまま動けないでいるオレの腕から鷹之の指が離れて、さっきまで熱を帯びていたところが急速に熱を失う。その事を寂しいと思う気持ちに戸惑い、握られていた腕をじっと見てしまう。

「約束ですよ。絶対に来て下さい。オレ待ってますから。」

「……はい…。」

鷹之の手が離れて寂しいと思うのはきっと恋人を失って寂しいからだと自分に言い聞かせる。鷹之だからじゃない。

これ以上傍に居たらダメだ。

自分の気持ちにフタをするように無理やりに足を動かして車から離れる。


「…じゃあ又。」

「ありがとうございました。」

車に向って一礼をし、見送る事なくマンションに入る。鷹之の視線を感じたけど、だからなんだっていうんだ。これから先はもうない。

偶然出会ってしまっただけ。ほんとならもう会う事のなかった人に会ってしまったから動揺してるだけ。そう、それだけ。他には何もない。

玄関のドアを閉め、ズルズルとその場に崩れ落ちた。

何で今更会うんだよ…。



しばらくそのままでいたせいか冷え切った身体に身震いする。

「明日も仕事なのにほんと、これじゃヤバイ。」

いつもなら休みなのに、明日に限って休日出勤になっていた。

のろのろと立ち上がり風呂場で熱いシャワーを浴びる。

熱いシャワーは身体を温めてくれるけど冷え切った心までは温めてくれなかった。


こんな偶然いらないのに…。鷹之がオレに気が付かなかった事が救いだ。

風呂から出てソファーに座り、ビールを飲みながら嬉しくない再会にやるせない気持ちになる。


『すみれ』


鷹之は彼女の事を親しげにそう呼んでいた。

卒業式の時に見た人ではなかったけれど、彼女は今の鷹之のパートナーなんだろう。

二人の会話を聞いていると、すみれさんが只のアルバイトや、手伝いって感じではないのがわかる。

一緒に二人で店をやっているという感じ。鷹之の奥さん…。それがしっくりと当てはまる気がする。

やっぱり女の方がいいんだな。オレとの事は好奇心だったんだ…。そう…だよな。普通はそうだ。なのにオレだけ本気になっちゃって…。ほんとバカ…だ…。

わかっていた事なのに苦しかった。いつのまにか目が潤んで来て…。男なのに何ウジウジしてるんだと思うのに涙が一粒零れると、ダムが決壊したように涙が次々と溢れてくる。

恋人と別れても泣かなかったのに、鷹之と会っただけで泣いてしまう自分がわからない。

オレは結局あの頃のまま止まってしまってるんだ。鷹之はちゃんと歩いていたのに…。オレだけがあの頃をひきずったままでいる。

その日はなかなか眠れずに苦いビールを飲み、少し空が白んでくる頃に浅い眠りについた。




鷹之から借りた服をクリーニングに出したのは再会した次の日。

「朝出せば夕方出来上がる」がうたい文句のクリーニング店だから、その日の帰りには出来上がっていた。

受け取った服を持ち、コンビニでビールと弁当を買い、宅配の送り状をもらって家に帰る。

紙袋に服を入れ「ありがとうございました」とメモを挟み店の住所を記入してから考え込む。

「依頼主のところ書かないとダメなのかな…。」

散散悩んで苗字を記入し、電話はでたらめな番号を記入した。

「伊藤」で良かったと思う。そこいらにある名前だから、オレだとはまさか思わないだろう。

これを送ればもう鷹之と関わる事はない。

今まで通りの生活に戻れる。

今の鷹之を見てしまったからしばらくは胸がざわつくかもしれないけど、時間が経てばそのざわつきも遠くなる。遠くしなくちゃいけない。

それが少し寂しいと思うのは過去に引きずられているからだ。

その気持ちにふたをするようにテープで封をする。

明日、会社に行く時にコンビニでこの荷物を送ればいい。

昨日あまり眠れていないのに、今日もなかなか寝付けない。

浮かぶのは鷹之の姿ばかりだ。

もうオレを振り回さないでくれ。



夢見が悪くて最悪な気分の朝を迎える。

やっと眠れたと思ったら鷹之とすみれさんがオレに向って楽しそうに仲良く笑ってる夢を見た。

「最悪だ…。」

オレは鷹之の服を入れた紙袋を大切そうに抱きしめていた。


「こんなものがあるからあんな夢を見るんだ。早く鷹之に返そう。」

いつもの出勤時間よりも早くに家を出てコンビニに向かう。

それまでは早く返さないとと思っていたのに、コンビニが近づいてくるとだんだん歩く速度も勢いも落ちてくる。

これ返したらもう繋がりはないんだ…。でも返さないとオレはグルグルしたままだ…。

コンビニに入り、意を決して荷物を店員に渡す。

あっけないものであんなに悩んだのに手続きはものの数分で終わってしまいコンビニを後にした。

これで鷹之とのつながりは無くなった。

胸に去来するこの痛みはなんだ?

なんだよこれ…。

何ショックを受けてるんだ?

偶然会っただけ。

会うと思わなかった相手と会ってしまったから動揺してるだけ。

あの時の痛みを忘れたわけじゃない。

あれから本気の恋が出来なくなったのだから…。


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