土曜の雨のジンクス
土曜の雨のジンクス8
コンビニで鷹之の服を送り返してから2週間が過ぎた。
別に何かが変わったわけではないはずなのに、1日の中でオレの頭の中を鷹之が占めてしまう毎日が繰り返されていた。
気が付くと鷹之の事を考えている。そんな自分を否定して忘れよう忘れようと思うほど忘れなくて…。高校生じゃない大人の鷹之が目に焼き付いてしまっている。
会う事がなければ忘れられていたのに…。
それでも会わなければ忘れられる。こんなに鷹之の事ばかり考えてしまうのは突然の再会に驚いたから。
もう会わないのだから鷹之の事なんて忘れるはず。
そう思ってる時ほどうまくいかないものなんだと知るのは数日後の事だった。
その日オレは仕事の打ち合わせでもう来ることのないと思っていた街に来ていた。
今まで一度も来た事のない街だったのにどうしてここなんだろう。
今日、訪問した会社は今まで入っていたビルが建て直しとなったためこの街に移転してきたのだという。迷惑な話だ。
来たくなくても移転祝いを持って行けと部長に言われれば行かないわけには行かない。
本来なら担当が行くべきなのに、地方に出張に行っていて留守な為、何度か担当と訪問した事のあるオレに白羽の矢があたったのだ。
相手方の営業の人はとても気さくでいい人なので代わりに行く事は問題ないんだけど、場所がこの街だとは…。
しかもオフィスビルが鷹之の店のわりと近くなので会うんじゃないかと冬なのに手のひらはじっとりと汗をかいていた。
人ごみに紛れるように歩いてオフィスビルに入る。
どうやら鷹之に会うという事はなさそうだ。
考えてみたら鷹之は店をやっており外にいつでも出れるわけではない。それにオレと鷹之が外で会う確率なんて低いに決まってるじゃないか。鷹之はオレがこの街に来ている事を知らないんだから。
そう考えて気が楽になる。そうだそんな偶然が続くわけはない。
この会社にだって、今日はたまたま担当がいないからオレが来ただけで、今度からは担当が来るのだ。オレが来ることはない。
何ナーバスになってんだかと一人エレベーターの中で苦笑する。
早く挨拶をして会社に戻ろう。
オレは受付で訪問の旨を告げ、担当者が来るのを待つ。
「こんにちは伊藤さん。お久し振りです。嬉しいなあ又、伊藤さんと会えるなんて。村下さんが来るものだとばかり思っていました。」
「こんにちは。鈴城さん。酒井は出張中で私が替わりで申し訳ありません。本来なら酒井が来るべきなんですが、出張から戻るのがまだ先ですので…。本社ビルの移転おめでとうございます。柴田がよろしくお伝えくださいと言っておりました。」
「ありがとうございます。柴田さんはお元気ですか?相変わらず子供自慢されてるんですか?でも32歳で部長ですもんねえ。スゴイ人だ。でも相変わらず伊藤さんは真面目ですね。」
「すいません…。通り一遍の事しか言えなくて…。」
「伊藤さんらしくて僕は好きですよ。こんなところで立ち話もなんですからちょっと出ませんか?」
「いえ、私は合い冊をしに来ただけなので。では今度は酒井が挨拶に来ると思います。」
「近くに美味しいコーヒーを出す喫茶店があるんです。僕、昼まだなんですよね。なので伊藤さん付き合って下さい。」
「え?いえ、私はこれで…。」
「酒井さんの替わりです。付き合って下さい。拒否しないで下さい。あ、僕と一緒が嫌なら仕方ないですけど…。」
「嫌だなんて。」
「じゃ、決まりです。行きましょう。」
嫌な予感がして仕方ない。
近くの喫茶店って鷹之の喫茶店じゃないだろうな。
鷹之と会うのだけはごめんだ。何とか違う店にしてもらわないと。
「鈴城さんすいません。喫茶店はやめてちゃんとした店に食べに行きませんか?そうだパスタが食べたいです。」
「あ、安心して。そこランチうまいから。パスタもおいしいよ。」
鈴城さんはそう言うと見知った店に入って行く。
やっぱり…。
鈴城さんが入って行ったのは一度来た事のある喫茶店。そう鷹之の店だ。
「こんにちは。今日のパスタ何?」
「あら鈴城さん今からお昼?今日はペペロンチーノよ。いいオリーブオイルが入ったんだって。ね、タカ。」
「鈴城さんいらっしゃい。奥のテーブルにどうぞ。」
すみれさんはそれぞれのテーブルに可愛らしい花瓶に活けられた花を置き、鷹之はカウンターの中でコーヒー豆を煎っていた。
鷹之とすみれさんと目が合わない様に下を向いて鈴城さんの後にテーブルにつく。鷹之が見えない様にカウンターに背を向ける席でホッとする。目が合ったりなんかしたらオレだとわかってしまう。
「伊藤さんもパスタ食べるでしょ?」
「いえ、ペペロンチーノ苦手なんです。ニンニクの匂いがダメで。それにあんまり空いてないので。でも鈴城さんは召し上がって下さい。」
「そう?じゃ僕は食べようっと。すみれちゃんランチとコーヒー一つ。」
「はい。ランチとコーヒーね。タカよろしくね。」
すみれさんが鷹之に微笑み、鷹之が笑顔で応える。そんな雰囲気が見なくてもわかる。いたたまれない気持ちになるけどここで出て行ってしまうわけにもいかない。
「でね…。伊藤さん?」
「え?」
「もう伊藤さんさっきから僕の話たんと聞いてます?なんか上の空っぽくありませんか?」
「す、すいません。ちょっとぼーーっとしてしまいました。最近寝不足なんです。」
「伊藤さんやだなあ。惚気ですか?彼女が寝かせてくれないとか?」
「ち、違いますよ。私に彼女なんていません。ただ単に眠れないだけです。」
「真っ赤になっちゃって可愛いなあ。本当に彼女いないんですか?伊藤さんきれいな顔してるのに意外。前髪で隠してるからわかんないのかな?伊藤さん髪の毛切って顔出したらいいのに。もったいないですよ。」
「綺麗時ゃありません。それに綺麗とか言われても嬉しくないです。」
「もったいないって。ほら髪の毛あげたら…。」
鈴城さんがオレの前髪をすくって上にあげる。
「や、やめてくださいっ‼」
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