土曜の雨のジンクス
土曜の雨のジンクス11
「伊藤さんってあんまりおしゃべりしないんですね。こういうの苦手ですか❓」
じっとビールの入っているコップを見ていたら話しかけられてビックリした。
「え❓どうしてそう思うんですか❓」
「ずっとコップとにらめっこしてたから。あ、ずっと見てたわけじゃないですよ。ふと目に止まってしまって。ごめんなさい。」
確かこの人は総務の足立さんだったかな。一度有休の事で話をした事がある。
「いいんですよ。確かにコップを見ていたんですから。でも見ていたというかまあ考え事ですかね。オレなんか頭数をそろえるために呼ばれたようなものです。」
「そうなんですか?そうじゃないと思うけどな。この合コンレベル高いですよね。」
「そうなんですか❓確かに女の子はみんな可愛いですね。足立さんもです。」
「伊藤さんが「オレ」って言った事にも驚きましたけど、伊藤さんがお世辞を言うなんてビックリです。」
「お世辞じゃないですよ。足立さん可愛いです。ほら、鈴城さんとこの横田さんでしたっけ。じっと見てますよ。足立さんと話したいんじゃないかな。」
「いいんです。私は伊藤さんと話したいので。」
「オレですか❓オレよりも彼の方が良い男だと思いますよ。こんなダサい男といるより彼の方が足立さんにはお似合いです。」
「伊藤さんわざと顔を隠すように眼鏡かけたり、前髪伸ばしたりしてません❓」
ドキッとした。だから女は苦手なんだ。よく観察してるというのか、洞察力がスゴイというのか核心をズバリと言って来る。本人が隠したいと思っている気持ちも考えず遠慮もなしに。
「そんな事ないですよ。何言ってるんですか。オレはずっとこれですよ。ほらっ横田さんがこっちに来ます。オレ、トイレに行くんで。」
「あ、伊藤さん…。」
オレのところなんか来なくてもいいのに。放っておいて欲しい。ただでさえ鷹之と目を合わさないようにと窮屈な思いをしてるのに。
オレはトイレから出ると時計を見る。もう1時間はとっくに過ぎている。オレの役目は終わったという事だ。廊下から自分達の席を見れば、酒井さんは皐月ちゃんと話しているし、足立さんも横田さんと話していた。それぞれに楽しそうに話している。うん、オレはいなくてもいい。
カバンもコートも入口で預けているからこのまま帰っても大丈夫。お金は明日にでも払えばいいだろう。
オレは座敷に戻らずにそのまま入口に向い荷物を受け取ると店を出た。
外は寒かったけど、ビールで火照った身体にはちょうど良かった。
「このまま帰るには勿体ないほどきれいな月だな。」
まんまるには少し欠けた月が明るく夜道を照らしている。
オレの足は自分のマンションではなく会社からも家からも外れたBarへと向いていた。
満月は性欲が深くなるって本当なのかどうなのかわからないけどずいぶんとしていない。
恋人と別れてからだから1ヶ月ほどご無沙汰だ。そんなに性欲がある方ではないけど、身体が疼く夜だってないわけじゃない。
『criminal mind』
クリミナル・マインド。犯罪を犯す性質って事かな。普通の人にとってはゲイもそうなのかもしれない。異質なものだから。
オレはこの店の名前を気に入っている。こんな名前だからと言ってウリをさせているとか、犯罪に手を染めている店ではない。普通の店よりもそう言う点は厳しいと思う。ここはオーナーが目を光らせているし、マスターもいい人だからヤバイ人種は来ない。酷いサディストとか薬を擦る奴とか…。
Barなのに一見様お断りなのはそれからだそうだ。オレは昔付き合っていた男に連れて来られてそれ以来ここの常連になっている。別れた男とかちあって気まずくないかって言われても本気の相手はここでは探さないから困らない。ここに本気の相手を探そうと思う奴は珍しいと思う。いないんじゃないかな。だってオレはそんな相手に巡り合った事はない。
この店を知ってからオレはここに頻繁に通っていた時期がある。自暴自棄になって毎日ここで相手を探して寝た事もあった。さすがにそれはもうしないけど、今日みたいな気分の日はここに来る。
「こんばんはマスター。」
「おや明日叶じゃないですか。ずいぶんと久し振りですね。」
マスターは40を超えていると言うが、見た目は30台前半でもとおる容貌をしていて本当は何歳なのかわからない。細越ながらも腕はそこいらのチンピラよりもあって、ダーツは的を外した事はないんじゃないかという腕前だ。悪さをする客にはそのダーツの矢が飛んでくるのだから悪さをしようとする奴はこの店には来ない。
一度だけその場面に出くわした事がある。オレがBOXで飲んでいた時に絡んできた男が無理やりオレを連れ出そうとした時にそいつの目の前をダーツの矢が飛んできてマスターが「出ていけ。二度とこに店の敷居をまたぐな。この子に手を出そうとしたら今度は目の玉にダーツの矢をくれてやる」と綺麗な顔で表情を動かすこともなく淡々と言ったものだから、男はあわてて店から逃げ出したんだ。
その事を思い出してクスリと笑みがこぼれる。
「すいません。ラブラブだったんですよ。」
「という事は❓」
「はい。またフラれました。」
「そうですか。カウンターにどうぞ。」
店は平日だというのに8割ほど埋まっていた。女性の姿も見える。
ここはゲイに優しい店だけど、それだけじゃなくて女の人も気軽に来れる店なんだ。それはマスターやオーナーの容貌もあるんだろうけど、やっぱり二人の人柄が大きいと思う。
オレは何度もオーナーやマスターに相談にのってもらったり、慰めてもらったり、助けてもらったりしている。
まあ頻繁に相手を替えていた時はさすがに恨まれる事もあって、そんな時に二人が助けてくれた。それがなかったら、今オレはここにいなかったかもしれない。
「今日はオーナーはいないの❓」
ここではオレは素を隠す必要はない。情けないところも何もかも二人は知ってるから隠す必要はないんだ。
クスリを盛られた時は薬が抜けるまで二人に欲望を吐き出してもらったこともあるからオレの身体の隅々まで二人は知っている。
「今日は仕事だと言っていましたから来るとしても遅くなるでしょうね。」
オーナーは会社を経営している。このBarは趣味で作ったと言っていたけど本当は違う。オーナーはバイだ。マスターはゲイだけど、昔酷い目に合った事があるらしい。二人は高校の同級生で危ない目に合っていたマスターを助けたのがオーナーだった。それから二人は受けの子が酷い目に合わないようにとこの店を作ったのだとマスターが話してくれた。
「そっか。来るの遅いのか…。」
「どうしたんです❓何かありましたか❓」
「だからフラれたんだって。」
「明日叶はフラれてどれくらい経ちます❓別れてから1ヶ月くらい経つんじゃありませんか❓それでフラれたからっていうのは理由になりませんね。何かあったんでしょう❓身体の疼くような事が…。」
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