土曜の雨のジンクス

土曜の雨のジンクス12

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「身体の疼くような事…。」

そう言われて今日の鷹之を思い出す。

喫茶店で見た鷹之はラフなチノパンとパーカーにエプロンを巻いていたけど、今日の鷹之はストライプのシャツにダークグレーの細見のスーツで、身体のラインがわかるスーツが嫌味ではなくスタイルのよい身体にフィットしていて、高校生の身体ではない大人の男の身体を連想させて酷くオレは焦ったんだ。スーツの下に隠れている身体を想像して…。

「マスターは何でもお見通しなんだから嫌になっちゃうよ。」

「明日叶は18の頃からこの店に出入りしてましたからね。それから5年近くも見ていればね。」

「そうだよ。20歳になるまでノンアルコールのカクテルしか出してくれなかったの今でも恨んでるんだからな。いつまでも子ども扱いなんだから。」

「私に比べれば明日叶なんてほんの子供ですよ。オーナーもそう思っているはずです。」

「そりゃ二人に比べたらオレなんて子供だけど…。…鷹之に会ったんだ…。」

カランとグラスの氷が音をたてる。琥珀色の飲み物がゆらゆらと揺れて、それは今のオレの心のようだと思った。

「鷹之に会ったんだ。偶然さ…。まああの頃とはずいぶん外見も変わってるから鷹之はオレには気が付いてないんだけど…。」

「鷹之って明日叶の初めての人ですよね。明日叶が一時期自暴自棄になったのもカレが原因でしたね。」

「自暴自棄になんか…。」

「なっていましたよ。彼を忘れられなくて忘れようとして自分を傷つけて…。オーナーと私をどれだけ心配させたと思ってるんです?」

「悪かったよ。ごめん…。」

高校を卒業して、大学に入りサークルで知り合った当時の恋人はオレの顔と身体だけが目的なのはわかってて付き合付ていた。この店に連れて来てもらったのはその彼で、オレに気持ちがない事を酷くなじるようになった。

今は好きじゃなくてもそのうち好きになってくれればいいとか言ってたくせに、なかなか気持ちが靡かないオレに腹を立てて、ある時サークルのメンバーに廻された。

その頃にはcriminal mindの常連になっていたからオレの様子がおかしい事にオーナーもマスターも気が付いてそいつを吊し上げてくれてオレは廻されるような事はなくなったけど、それからしばらくはおかしくなってて毎日違う相手を求めて彷徨ってた。

廻された事も辛かったけど、それでも鷹之に助けを求めていた自分の未練がましさに気が付きたくなかった。だから鷹之を求めないように代わりを求めて、人肌の温もりを求めてた。

店で初めて見た客に警戒心も持たずについて行って薬を盛られて犯されそうになった時、酔っぱらったオレを心配して後を付けてきたオーナーとマスターに助けられた。

その後も薬が抜けなくて身体を持て余してたオレを楽にしてくれた。薬が抜けるまでオレを抱いてくれたのはこの二人だ。

「これは薬を抜くためだ。安心してオレ達に身体を預けていればいい。明日叶は何も悪くないし、汚れてなどいない。」

身体の欲求とは裏腹に心が疲弊しているオレにオーナーはそう言って抱いてくれた。

抜くだけの行為しかしないオーナーとマスターに抱いて欲しいとお願いしたのはオレ自身。抜くだけの行為は快感だけに酔えなくて、バカな事をした自分を思い出して心が壊れそうだった。誰かの優しい温もりで癒して欲しかった。一人でいたくなかった。他人の体温を感じてたかったんだ。

オーナーとマスターはオレの気持ちをわかってくれて優しく抱いてくれた。

マスターは「私はタチはあまりしないんですが、明日叶の為なら」といつまでも薬が抜けないオレをオーナーと順番に抱いてくれた。

普通なら恥ずかしくて二度と会えないと思うんだけど、オーナーもマスターも前と変わりなくオレと接してくれたから、オレは大事なこの場所を失う事もなくここにいる。

「明日叶❓」

「あ、昔の事を思い出してた。オレってバカだったなって思ってさ。」

「過去が振り返れるほど大人になっていたのに本人を前にするとダメでしたか❓」

「そんな事ないよ。鷹之はもう過去の人だ。あれ以来オレは壊れてないだろ。」

「そうですね。でも今日の明日叶は危ない気がします。」

「そう❓…マスター鷹之さ、多分結婚してるんだ。結婚はしてなくても女の人と喫茶店をしてる。綺麗な人だよ。」

「おやお相手の女の人にも会ってんですか❓」

「うん。思いがけずね…。やっぱりオレは鷹之にとって好奇心で付き合ってただけなんだなって思った。女の人がいいんだよ。やっぱりさ。当たり前のことなんだけど…。」

くっと琥珀色の液体を煽る。喉に焼け付くような熱さが痛みを伴っていると思うのは気のせいかな。

「喫茶店ですか。喫茶店が悪いとは思いませんが、確か鷹之くんは理系の偏差値の高い大学に進んだんじゃなかったですか❓とても頭がいいんだって明日叶言ってましたよね。その彼が喫茶店ですか…。」

「頭が良くても会社に勤めるとは限らないじゃいか。彼女と結婚するにあたって二人でいつも一緒にいられるように喫茶店を始めたのかもしれないし、彼女の持ち物の喫茶店を一緒にしてるのかもしれない。大事な人の為ならその人といる事を選ぶような男なんだよ鷹之は。オレとはそうじゃなかっただけ…。」

「今でも彼を忘れられないんですね。」

「もう忘れた。なのに急に目の前に現れたから驚いているだけだ。」

おかわりの琥珀色の水をグイッとまた煽る。

「明日叶お酒はそんな風に飲むものじゃありませんよ。」

「わかってるよ。マスターお客さんが呼んでるよ。」

マスターはため息をつき、仕方ないと言うそぶりを見せてお客さんの所へ行く。

オレはカウンターに置かれたバーボンのボトルを近くに持ってくるとグラスになみなみと注いだ。


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