土曜の雨のジンクス

土曜の雨のジンクス17

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診察を受けてCTも撮ったけど異常は認められず、寝不足とストレスからくる頭痛だろうと診断される。胃の不快感もそこからのものだろうと言われ、念のため嘔気止めに点滴を受ける。

病院で診てもらったという安心感からか、幾分頭痛も収まり、胃の不快感は点滴で収まった。

軽い眠剤と胃薬と鎮痛剤をもらって病院を出た頃には昼を回っていた。

「家に帰って少し横になろう。」

しっかり歩ける事に安堵しながら歩き出すとプッと車のクラクションが鳴らされ、見ることは無しに振り向いて驚きのあまり固まってしまった。

あの車…。なんでここに鷹之がいるんだ?

一度送ってもらった事のある車から顔を出したのは鷹之に間違いなく、オレに向かって真っすぐに歩いてくる。

オレに用なんだろうか?でもなんで?

もう数歩のところまで鷹之が来ていては知らんふりをして踵を返す事は出来ない。

傍に来た鷹之が怪訝な顔をしているオレを見て苦笑する。

「驚かせてしまったようで申し訳ない。実は鈴城さんから電話があって貴方を迎えに言って欲しいと言われたんです。」

それなら鷹之がここの場所を知ってるわけがわかる。

「鈴城さんが…。気にしなくてもいいのに…。」

「鈴城さんは余程貴方が大切なんですね。まるで恋人を気遣っているみたいだ…。」

何となくその言葉に剣を感じる。まるで鈴城さんとオレが付き合ってるかのような意味に取れて不快感が湧いた。それ以上に男同士の恋愛を皮肉っているかのようにも聞こえた。

オレに気がついて言っているわけではないのだろうけど、オレにしてみれば否定されたという事だ。正しくは高校時代の鷹之とオレとの事を…。やっぱり鷹之は後悔してるんだ。男と一時でも付き合っていたという事を…。

その言葉の意味を考えてやっぱりと思うと切なくて涙が出そうになった。鷹之の前でぶざまに泣くものかとギリギリのところで耐える。

「私は男です。鈴城さんと私は貴方が邪推するような関係ではありません。菅沼さんは鈴城さんと友達なんじゃないんですか?友達の事をそんな風に侮辱した物言いをするもんじゃないと思います。私に対しても失礼だとは思わないんですか?ハッキリ言って不愉快です。一人で帰れますから送って頂かなくて結構です。」

少しましになっていた頭痛がズキンと痛みだす。

やっぱり原因はストレスかもしれないと思った。鷹之と出会ってしまった事から始まった今日までの心労を考えればその結論に至る。

何も言わない鷹之に一礼をするとクルッと踵を返し、歩いて行くはずだった。

ズキリと痛んだ頭痛に頭を押さえて蹲る。急に来た痛みに我慢出来ずに膝をついてしまったのだ。眩暈さえする。それでもこんな姿を鷹之の前でさらしたくないという強がりがオレを何とか立たせる。ガードレールを伝いながら歩こうとして急に身体が浮上し、その不安定さにバランスを取れずに傍にあった太い首にしがみついた。

「すいません。病人の貴方に酷い事を言ってしまった。許して下さい。本心ではないんです。ちゃんと家まで送りますから車に乗って下さい。暴れても降ろしませんよ。鈴城さんにちゃんと貴方を送ると約束したんです。約束をたがえるような事はしたくない。」

見上げていた目が今は同じ高さにある。その瞳が放つ真摯なまなざしにザワザワと胸が騒ぎだした。5年前にオレの目を捉えて離さなかった強い光がその目には宿っている。

「鈴城さんの事をあんな風に言うのはやめて下さい。あの人は本当にいい人なんです。私とは仕事上の付き合いしかありませんから。」

「貴方は…。」

「何ですか?」

「いえ、ただ鈴城さんを庇うんだなと思っただけです。」

「そりゃ普通は庇うんじゃないですか?私の事を心配してくれただけなのにあんな風に言われてしまっては鈴城さんが可哀想です。それよりも降ろしてくれませんか?もう大丈夫です。菅沼さんはもっと人の目を気にした方が良いと思いますよ。さっきから周りの視線が痛くありませんか?私はこれでも男ですから横抱きにされて嬉しくないですし。」

「病人に歩かせるわけにはいきません。さっきも歩けなくなったじゃないですか。」

そういうと有無を言わせず車まで連れていかれ助手席に座らされる。

今日は強引に連れまわされる日だなと小さなため息をもらす。すごく疲弊していて早くベッドで横になりたかった。

「マンションまで送って行きますが、何か食べるものとか飲み物とかありますか?」

そう言えば買い物もろくにしてないから冷蔵庫の中は空だったはず。もともと食事なんて作らないから外食か弁当ですましていた。

「何もないですね。すいませんがコンビニにでも寄って行きますのでマンション近くのコンビニで降ろして頂けますか。無理を言って申し訳ないのですが…。あ、お手間ならそのままマンションでいいです。なにか出前を取りますので。」

正直家に帰ったら出前なんかとらないだろうとは思った。そこまで食欲があるわけじゃない。胃が不快感を訴えてるのに重い物は食べられないだろう。

「そんなわけには行きません。わかりました。近くのスーパーで買い物をしましょう。オレが買って来るのでその間、貴方は車で待っていてください。」

「そんな。いいです。自分の事は自分で出来ます。ご迷惑をお掛けするわけには行きません。」

「迷惑なんかじゃない。オレがそうしたいんだ。」

それ以上は異議は唱えさせないというようにアクセルを踏むと車はキュッと音をたてて発信した。

オレももうそれ以上何も言う気には慣れずシートに深く身体を預けると鷹之に背を向けて目を閉じた。

オレはそのまま眠ってしまったらしい。気が付くと後ろのシートにはやけに大きなスーパーのビニール袋が積まれていて、オレのマンションはすぐそこだった。

お客様用の駐車場に車を停めた鷹之に礼を言って車を降りるとなぜかエンジンを切り鷹之も降りてくる。

「?」

怪訝な顔をするオレの横から後ろのドアを開けるとスーパーの大きなビニール袋を掴んだ。

「オレがメシ作りますから。どうせ貴方は何も作らないし、食べる気もないんでしょうけどそれじゃ元気にならない。薬も飲めない。料理出来ます?」

「出来ます」とは言えずに黙ってしまったオレを見て大きなため息が聞こえた。

「さっきの発言もあってオレを警戒してるのはわかりますけど、貴方は病人で料理も出来ない。オレは料理が出来る。ならオレが作ればいいじゃないかと思ったんです。外食も弁当も味付けが濃すぎて胃には重いですよ。」

鷹之の言ってる事は正論だ。だけど鷹之を部屋に入れるのは憚られた。あの部屋に通した事があるのはオーナーとマスターだけだ。恋人と呼ばれた人たちでも入れた事はなかった。

「ほら、ここにいるとどんどん身体が冷えてしまう。オレの事は嫌いでもいいから今日の所はオレの言う事を聞いて下さい。」

嫌いなわけないじゃないか…。オレの中のオレが泣きそうになりながら叫ぶ。好きだから部屋に入れたくない。あの部屋に鷹之を入れたら鷹之を好きだと言ってしまいそうな自分が怖い。

でもそんな気持ちとは裏腹にオレは何も言わずにエントランスに入る。それを承諾ととらえた鷹之が付いて来ても来るなとは言わなかった。

傍に居たくないのに居たい。そんな自分の中の矛盾をどうしたらいいのかわからなかった。



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