土曜の雨のジンクス

土曜の雨のジンクス16

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座っているのも辛いほどの気分不良なんて起こした事がなく。額に脂汗まで滲んで来てしまいどうすればいいのか動く事出来ずにいた。

何か飲めば少しはましになるかとも思うのだけど、自販機まで行く自信がない。歩き出したとたんに崩れ落ちてしまいそうな気がする。

携帯で誰かに電話して助けを求めればいいという考えさえ浮かばずに膝の上に肘を置いて頭を支えているのも辛くなり、ベンチにもたれる様に崩れ落ちる。

これ本気でかなりヤバいよな。

こめかみがドクンドクンと激しく脈打ち、気持ち悪さに胃液が上がる。

吐きそう…。




「大丈夫?」

自分に言われたのだとは気が付かずに嘔気をこらえるのに精いっぱいだった。でも優しい声色に鷹之の声を思い出す。あの日、雨の中ぶつかったオレにかけてくれた優しい声に似ている。

「大丈夫?」

2度目に声をかけられ、オレに言ってくれてるんだとはわかったけど声も出せずに少し頭を横に振る。大きく振ると吐いてしまいそうだ。

「しんどそうだな。吐きそう?」

俺の顔色の悪さと胃の辺りを押えていた手に気が付いたのか吐きそうなんだとわかってくれたらしい相手に小さく首を縦に振る。

「立てる?オレの肩に捕まって、そこのトイレに行こう。」

限界が近かったけど、ここで吐くわけにもいかずその人の手を借りながら気力で立ち上がりトイレに向かう。

幸い外にあるにしては綺麗なトイレで個室に入ると安心したのかせりあがってきたものを吐き出す。といっても何も食べていないから出てきたのは胃液だけだったけれど、吐き出したことで少し気分がましになった。

洗面所で汚れた口元を洗いハンカチでぬぐう。口の中をすすぎたかったけど、トイレの洗面所の水だから我慢した。

ふと気が付くと、トイレに連れて来てくれた人は傍にいなくて、まあ吐くところを見たい人なんていないだろうと心の中で連れて来てくれた人に礼をいい、倦怠感で力の入らない身体を引きずりトイレの外に出る。

さっきの人の声ほんとに鷹之に似てたな。そんな事を思えるくらいには回復したけど、頭痛は相変わらずでさっき座っていたベンチに腰を下ろした。

「あ、立ったついでに自販機で飲みものを買えば良かった…。」

口の中が気持ち悪い。座ってしまってから気が付いたけど、立ち上がって買いに行こうという気力はわかない。その時だった。


「気分はマシになった?これどうぞ。飲んだ方がいい。」

そう言って目の前にスポーツドリンクが差し出され、オレは自然に受け取ってしまった。どうやらオレをトイレまで運んでくれた人はオレがトイレから出てくるのを待ってくれていたらしい。

「あ、ありがとうございます。すいません。」

「やだなあ。まだ気が付いてないんですか?そんだけ気分が悪かったって事か。大丈夫ですか?」

知り合い?もしかして鷹之?

恐る恐る顔を上げた先にあった顔にホッとしたようなガッカリしたような気持ちになって苦笑した。

見上げたその先にいたのは鈴城さんだったからだ。

そう、鈴城さんの声と鷹之の声はちょっと似てる。性格が違うから離してる口調で別人だとわかるけど、丁寧に話されると似てるなって思っていた。でもどうしてここに鈴城さんが居るんだろう?

「どうしてって思ってます?オレはいつでも伊藤さんが困ってる時には駆けつけますよって言いたいところなんですが、今日はたまたま酒井さんと打ち合わせが入っていてその帰りなんですよ。伊藤さんを見かけたからラッキーって思ったら、伊藤さん具合悪そうで驚きました。」

「すいません。昨日あまり眠れなくて…。」

「顔色まだ悪いな。それ飲んで下さい。水分が足りないと身体しんどいですから。」

「ありがとうございます。頂きます。」

冷たいドリンクが気持ちよく身体に染みとおっていく。よほど乾いていたのかゴクゴクと一気に半分ほど飲み一息ついた。

「なんか生き返った気がします。頭は痛いですけど…。」

「今日はもう帰った方がいいんじゃないですか?病院に行った方がいいかもしれないな。」

「そうですね。これじゃ迷惑なだけですから早退して病院に行きます。市販薬ではこの頭痛収まってくれそうにないですから。」

「うん。その方が良いと思います。あ、オレ社用車で来てるんで送りますよ。」

「いえ、そこまでしてもらうわけにはいきません。一人で大丈夫です。吐いたら胃痛は少し収まりましたから。」

「オレが送りたいんですよ。伊藤さんに少しでも恩を売っておけばオレの株も上がるかなって計算があるんですけどね。」

正直に言われてクスッと笑いがこぼれる。

「それ言わない方が良かったんじゃないですか?」

「ほんとだ。ま、言っちゃったからしょうがない。荷物は会社ですよね。」

大丈夫ですかとオレの腕を引き上げる鈴城さんはオレの返事を聞くつもりがないのか、彼の中ではオレを送る事が決定してるようだ。

少し強引だとは思ったが「いいです」と突っぱねるのも大人げないような気がして、苦笑しつつ立ち上がる。

「じゃすいませんが病院まで送ってくれますか?」

「もちろんどこへでも送りますよ。」

会社に戻ると上司に体調がすぐれないので早退させてほしいと話をし、了承を得て自分の荷物を持つと会社を出る。

道路で車を停めて待っていた鈴城さんがオレに気が付いて手を振り、助手席のドアを開けてくれた。

「どこの病院に行くんですか?」

「どこがいいのかな?かかりつけの病院ないんです。」

「頭痛だよね。じゃこの近くの病院でいいとこがあるんでそこでもいい?」

「病院よくわからないのでお任せします。」

話している間もズキンズキンと頭の痛みが襲って来て顔をしかめてしまう。

「痛いんでしょう?着いたら起こすから横になってていいですよ。」

「すいません。お願いします。」

鈴城さんと話している間も割れそうに頭が痛くて横になれる事はありがたかった。

そのまま病院まで送ってもらい受付までしてもらった。収まっていたはずの気分不良が再び起きて順番が来るまで椅子に横になる。

鈴城さんはオレの順番が来るまで横にいてくれたが、診察の時に帰ってくれるように頼んだ。鈴城さんは仕事の途中なのだ。

「自分は営業だから大丈夫だ」と最後まで付き合おうとしてくれたのだけどそれじゃ申し訳ないからって帰ってもらった。

気分の悪いオレに反対に気を遣わせて悪いと謝ってくれた鈴城さんに、もう一度礼を言ってから看護士に抱えられて診察室に入った。



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