土曜の雨のジンクス
土曜の雨のジンクス14
次の日は案の定酷い二日酔いで、朝食も食べられず液体の胃薬を飲んで会社に行く。
この調子だと昼食も食べれないかもしれない。仕事にならなかったら残業だな…。
昨日は途中から記憶も曖昧で、オーナーに送られた事はなんとなく覚えているのだけれど、その前のことは覚えていない事が殆どだ。
一晩限りの相手を探しに行ったはずなのに、いつ間にか酒に溺れてた。マスターがいたから安心したんだ。音沙汰のなかったオレを叱るでもなく、いつもと同じように受け入れてくれた。
オレは家族とはそんなに深い縁はないけど、オーナーとマスターはまるで本当の兄のように思っている。兄がいたとしたらこんな感じなんだろうと思う。実の父親よりもオレの事を知っていると思うし、何でも話せる。壁を感じる事もない。二人が普通じゃない恋愛をわかってくれるからか。
「伊藤おはよう。昨日は先に帰っちゃってどうしたんだよ。」
「オレ1時間したら挨拶せずに帰るって言ったでしょう。それに酒井さんは皐月さんと上手く行ってたみたいだから邪魔したら悪いと思って挨拶しなかったんですよ。それとも邪魔して欲しかったんですか?」
「いやいや。邪魔しなくて正解。おかげ様でデートの約束とりつけちゃったんだよ。ってそれはいいんだけどさ、いつの間にかお前帰っちゃって、何でか鈴城さんが機嫌悪くなっちゃって。どうもお前とゆっくり話がしたかったみたいなんだよ。こんな時じゃないと仕事以外の話出来ないからって…。それを友達の誰だっけ…ああ、菅沼さん?彼がなだめてくれたんだけどさ。何?お前菅沼さんと知り合いなのか?なんかお前の事を知ってる素振りだったぞ。」
ドキッとした。鷹之がオレに気が付いているはずないのに、思い出してくれたのかと勘違いしそうになる。思い出されても困るのに…。
「そんなんじゃありませんよ。たまたま雨の日にぶつかってずぶ濡れのオレに服を貸してくれたってだけです。それより鈴城さんは何でオレと話なんかしたかったんでしょう?」
「さあな。また誘うって言ってたから付き合ってやれよ。お前が断ったら機嫌悪くなって仕事しにくそうだし。」
「いい大人が仕事と絡めたりはしないでしょう。酒井さんの発想が子供です。」
「うるせぇ。ま、とにかく鈴城さんの事は頼んだぞ。あ、携帯教えて欲しいってさ。オレが教えても良かったんだけど勝手に教えるのもおかしいかと思って言ってない。本人に聞いてくれって言ったからな。なんか菅沼さんも知りたがってたなあ。何でだろう?」
「さあ?」
じゃあなと酒井さんが部屋を出て行ったので大きなため息を一つして机に倒れ込む。
もう二日酔いで気持ち悪いし、頭も痛いのに朝から面倒な話題を持ってくるなよ…。独り言ちて頭をしゃっきりさせようと自販機で低糖のコーヒーを買う。ブラックで飲みたいところだが胃の事を考えてミルク入りを選んだ。
でも鈴城さんは何でそんなにオレと話をしたいんだろう。そんなに深い接点はなかったはずなのに…。
それに鈴城さんと絡むと鷹之が出てくるのでオレとしてはあまり関わりを持ちたくない。でも…。酒井さんの仕事がやりにくくなるのは困る。一度ちゃんと話をして鈴城さんの真意を確かめておくべきなのか…。
鈴城さんがオレの事を好きだなんて思いもしてなかったから、この時は安易に考えていた。
コーヒーを飲んだせいか、液体の胃薬を飲んだせいかはわからないが、酷い二日酔いは時間が経つごとに収まり、その日は残業する事もなく帰路につく。
「あ、マスターの所に寄って昨日の事謝らないと。」
謝るなら早いうちがいい。オーナーもいたら謝って送ってくれたお礼も言わないといけない。今日は飲まないで挨拶だけしたら帰ろう。そう思って店のドアを開ける。
「いらっしゃいませ。」
「こんばんはマスター。」
「明日叶いらっしゃい。今日はちゃんと仕事出来ましたか?」
優しく微笑むマスターがカウンターの席を案内してくれる。
「朝は最悪だったけど。おかげ様で定時で上がれました。昨日は酔っぱらって迷惑かけてごめんなさい。」
「悪いと思ってるんですね。貴方を止めなかった佐々木を叱りつけてしまいましたから彼にも謝っておいて下さい。」
「そうなんだ。オレちっとも覚えてない。」
「あの様子じゃそうでしょうね。今日は何を飲みますか?」
「さすがに今日はやめとくよ。オーナーは遅い?」
その時だった。
「あああっ‼伊藤さんじゃないですか‼」
ギクリと身体が強張る。この店に名前を呼ばれるような知り合いはいない。一晩の相手を求めて欲望を吐き出した相手にオレは名前を教えなかった。この店で恋人になった相手はこの店を教えてくれた相手だけで、そいつも別れて以来この店には来ていなかった。
誰だ?
マスターもオレがどんな反応をするのか見ている。
声をかけてきた相手が座っていた席からオレの方に向って歩いてきた。
「こんなところで会うなんて、すごい偶然だな。これはもう運命って感じ?」
「え?あ、鈴城さん?」
オレに声をかけてきたのは鈴城さんだった。仕事じゃないからかいつもと口調が違う事に戸惑いを覚える。それにどうしてここに?
「最近この店を紹介されてすっごく気に入って良く来てるんだよ。伊藤さんも常連?」
鈴城さんはオレの横に座ると固まってるオレを気にするでもなく話しかけてくる。オレは混乱していた。ここは普通のBarではない。知る人ぞ知る相手を見つける店でもある。鈴城さんはそれを知っているのかどうかわからない。混乱した頭で冷静な判断は出来なくて、どう話していいのかわからなくて薄っすらと額に汗をかく。
「マ、マスターに昔助けてもらった事があって…。たまに顔を見せに来ています。」
無難な答えを何とか言った。声は震えこそはしなかったけれど、少し掠れていたかもしれない。
「そうなんだ。何だ。もし相手を見つけに来てるのならオレが立候補したのに。」
「な、何の事ですか?」
「恋のお相手。オレ伊藤さんの事好きなんだよね。昨日も口説くつもりで伊藤さんが合コン来るって言うから行ったのに、伊藤さんいつの間にか帰っちゃてるんだもんな。おまけに酔った女の子を送る羽目になっちゃったし最悪だった。けど今日はラッキーだな。邪魔ものなしに伊藤さんに会えたもんな。」
「何を言ってるんですか?オレ男ですよ。冗談も大概にして下さい。」
「冗談なんかじゃないよ。オレ本気で口説いてるんだけど?」
「や、やめて下さい。オレはそんなつもり全くないですから。鈴城さん昨日の合コンでモテてたじゃないですか。そう言う事は可愛い女の子に言って下さい。」
「うーーーん。無理。今は伊藤さんしか見えてないから。本気だって言ったでしょう?」
「鈴城さんは本気かもしれませんがオレは迷惑です。オレは好きじゃありません。」
「うわっ。バッサリ切るね。傷ついちゃうなあ。でもそんな事じゃ諦めないよ。これからどんどんアピールしていくから覚悟しといてね。その内にオレの事を好きににさせて見せるから。」
「絶対に好きになんかなりません。」
「今日の所はそれでよしとしておくよ。じゃ、またね。次は二人で飲みに行こう。」
「行きませんから。」
鈴城さんは言うだけ言うと席を立って自分の席に戻って行く。やっとわけのわからない告白から解放されるとホッとして方の力が抜けた。
「あ、そうだ。昨日伊藤さんが帰っちゃって2次会でお開きになったんだけど菅沼さんが心配だからってマンションに行くって言ってたけど菅沼さんに会った?」
え?鷹之がマンションに来た?
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