土曜の雨のジンクス
土曜の雨のジンクス18
どうしていいのかわからないまま鷹之を部屋に上げたからか、オレは無感情なままの表情だったようでそれが鷹之にとっては不機嫌に見えたのだろう。
オレの体調に気遣ってベッドで横になってるように勧められた。
オレもすぐに寝たいのはやまやまだ。
頭痛は相変わらず続いていたが、汗臭い気がしてこのままベッドに入るのは気持ち悪かった。それに隣に鷹之がいるのに心が休まるとは思えない。他人がこの部屋にいる事の違和感もぬぐえない。
「気持ち悪いのでシャワーを浴びて来ます。」
「そうだな。シャワーでスッキリしたほうがいい。オレは食べるもの作っておきます。キッチン借りますよ。」
嫌だと言っても借りるつもりだったくせに聞いてくるのにムッとする。オレの身体を気遣ってくれるのだからムッとするのはお門違いだとは思うのだけど、オレの気持ちをざわつかせている事に違いはない。
鷹之の声には返事をせずにシャワーを浴びに風呂場に向かう。オレが嫌だと言ったところで聞く耳を持つつもりはないくせに…と思いながら。ひねくれた考え方だとはわかっているけど、好きだと自覚した相手が傍に居る。絶対に好きだと言えない相手がなのだとわかっているから苛立つのかもしれない。
熱いシャワーを浴びると少しスッキリする。本当なら湯船に浸かりたいところだけど身体が疲れてるからかお湯をためる気力もその時間もめんどくさく感じて諦めた。
パジャマを着ようとして、鷹之がいる事を思い出す。他人にパジャマを見せるのは何だか無防備でその人に日常を許している気がして一人の部屋でしか着た事はなかった。オレはかなりめんどくさい男になっている事は自覚しているけど、そこまで気を許す人が少ないという事なのかもしれない。これがオーナーやマスターなら平気なのに…。
オレは迷った挙句に無難なスエットのよ上下に着換えた。
リビングに戻ると醤油とだしの優しい香りが部屋いっぱいに広がっていた。オレの部屋には似合わない香りだし今まで漂った事のない香りだ。まあ部屋d料理をしないから当たり前なんだけど…。
「すいとんを作ったんだ。知ってる?すいとん。」
聞いた事があるようなないような…。
オレの返事なんか期待してなかったのだろう、そのまま鷹之は話し続ける。
「御粥とか、うどんとかにしようと思ったんだけど、どっちも時間がたつとふやけてしまうからすいとんにしました。野菜もたくさん入ってて身体に優しいんですよ。今日は醤油味にしましたけど、味噌でもうまいんです。」
楽しそうに作っている鷹之の顔を見て高校時代を思い出す。そう言えば泊まりに行った時、たまたま鷹之の父親が留守で鷹之がレタス入りのチャーハンを作ってくれて、それがとても美味しかったことを思い出した。きっとそのすいとんもおいしいのだろう。
何も言わないオレを不審に思ったのかオレの方を向いた鷹之と目が合いそうになって慌てて視線を降ろす。自分の家なのに居心地が悪くて、間が持たなくてどうすればいいのか迷っていた時にテーブルの上に置いてた携帯が鳴り、助かったとばかりに出る。
「おーい。明日叶大丈夫なのか?」
電話の主はオーナーで安心して力が抜けた。気まずい雰囲気から逃れられたことにホッとしたんだ。
「何がです?」
「何がってお前の体調だろうが。携帯に繋がらないから会社に電話したら体調不良で帰ったって聞いて何度も電話したのに出ないからこっちは心配したんだよ。」
「あ、ごめんなさい。大丈夫、病院にも行ったしただの頭痛だから。」
「あのな明日叶、頭痛をバカにしちゃいけない。遥斗も頭痛持だから知ってるんだいつも辛そうだからな。」
「そうなんだ。でもオレのはそんな深刻なもんじゃないよ。CT撮ったけど異常なし。寝不足だったんだ。」
「いい大人が寝不足って…。まあ明日叶は子供だからな。」
「ひどい。その子供扱いやめてよね。もう23なんだ。あの頃とは違うんだ。」
「オレと遥斗にとっちゃいつまでたってもあんときの子供だ。無茶ばかりして自分を傷つけてたな。」
オーナーの声が慈しむような声色でいつもそうやってオレを見守っていてくれるのがわかって心があったかくなる。
「うん。ありがとう。で、何の用だったんです?」
「ああ、忘れてた。オレこないだ明日叶を送って行った時、煙草と名刺入れ忘れてないか?今から人と会うんだけど、連絡先わかんなくて困ってるんだ。」
「ああ。ちょっと待って。」
昨日それを言おうと思って忘れてたんだった。オレは煙草を吸わないけど、オーナーの為に灰皿がある。まあそんなに活躍はしないんだけど、オーナーが来た時に缶に吸殻を入れてるのを見て購入した。
TVの横に置いてある灰皿の傍に煙草と名刺入れをおいてたんだ。
「あるよ。ごめん昨日店に行った時に言うつもりだったのに忘れてた。どうしよう。届けた方がいい?」
「いや。明日叶の体調が戻ってからでいい。今からオレが言う会社の名刺探してくれるか?」
「もちろん。でどこ?」
言われた会社の名刺はすぐにわかって、相手先の電話番号を言う。
「ありがとう明日叶。ちゃんと食べて寝ろよ。あ、明日叶はメシ作れないんだったな。遥斗行かせようか?」
「そんな仕事中なのに悪いよ。それに作ってもらったから。」
「作ってもらった?誰に?女か?」
「そんなわけないだろ。友達だよ。」
「明日叶に友達?まさか昨日店に来てた奴か?鈴城だっけ?」
「違う。あの…。」
「もしかして鷹之か?」
「なんでわかる?」
「最近の明日叶の話聞いてたらその二人のどっちかだろう。大丈夫なのか。」
「うん。大丈夫。鈴城さんがオレの事を心配してくれて迎えに行くように言ってくれたみたいで…。」
「迎えに来てくれてメシまで作ってくれるなんて優しいな。でも何で言われたからってそこまでするんだ?女がいるんだろう。」
女がいる…。そう鷹之には恋人か奥さんかわからないけど一緒に歩む人がいる。いくら好きでも仕方ない。もうあの時みたいに傷つきたくない。今なら女の人といるってわかっているからあの時ほど傷つかずに済む。
「明日叶?やっぱり遥斗を行かせる。心配だ。お前鷹之と二人でいられるほど強くないだろう。オレはあの時の明日叶を知ってるから傷ついて欲しくないんだ。それは遥斗も同じだと思う。」
「ん。ありがとう。でも大丈夫。食べたら寝るから。」
「そうか…。鷹之には早く帰ってもらえ。二人でいるのは明日叶の精神衛生上よくない。」
「はは。オジサンみたいに言わないでよ。」
「子供に言われたくないね。それと明日叶、いつも言ってるけど店でオレの事をオーナー、遥斗の事をマスターって言うのは仕方ないが、プライベートでは征一郎、遥斗って呼べって言ってるのわかってるよな。外でもそう言われると仕事してるみたいでオレも遥斗も嫌なんだよ。明日叶に一線引かれてるみたいな気がするしな。」
そう何度も言われてるのに癖が抜けなくてどこでもオーナー、マスターと言ってしまう。一線引いてる気は全くない。仕事みたいだって言うのもわかる気はする。オーナーやマスターに一線引かれてるなんて思われたくない。
「わかったよ征一郎さん。これからは気を付ける。それよりこんなに長電話してていいの?誰かと会うんじゃなかった?」
「忘れてた。ヤバイ。じゃ明日叶身体大事にしろよ。いつでもオレとか遥斗呼んでいいからな。」
「征一郎さんはいつもは無理でしょう。忙しいのに。」
「そうかもしれんが頼れって事だ。マジヤバイ。じゃあな明日叶。」
「ありがとう征一郎さん。」
征一郎さんの忘れ物のタバコを指で触りながらもう一度心の中でありがとうと呟く。後で遥斗さんにも電話しておこう。
「親しい人と話す時はあんな顔して笑うんだ。」
冷やかな声に驚いて振り返った先には表情の読めない顔をした鷹之が立っていた。
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