土曜の雨のジンクス

土曜の雨のジンクス19

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さっきまでと違うほの暗い雰囲気の鷹之にわけがわからずに固まる。

何かオレした?そう思うほどに鷹之の目はオレを責めているようにも見えた。さっきまでオレを気遣ってくれていた雰囲気は欠片もない。

「な、何?」

間合いを詰められて息が止まりそうになる。

「オレと話すときはすごく距離を置いてる。」

当たり前だ。オレは鷹之の傍に居たくないんだから…。見込みのない気持ちをこれ以上膨らませたくない。今でも十分に苦しいのに、これ以上の苦しみなんて欲しくない。そんなの耐えられない。

今までだって本気にならないようにしてきた。そうだ。本気になる前に別れるように仕向けて来たんだ。フラれるのは当たり前なんだ。オレが本気になろうとしないから…。でもそれくらい鷹之との別れは辛かった。自暴自棄になるくらい。もう自分なんて壊れてしまえばいいというくらい。

「あ、当たり前じゃないですか。最近知り合って、それも接点の薄い人と距離を置くのは普通でしょう?」

傍に来て欲しくなくてにじりと距離をあけるのに、平気で鷹之は距離を縮めてくる。何をしたいのか目的がわからなくて恐怖心が湧く。

「今の電話恋人ですか?」

「恋人じゃありません。昔からの知り合いなんだから親しいのは当たり前じゃないですか。何を勘違いしてるのかわかりませんが、侮辱するならここから出て行ってください。貴方に知り合いをそんな風に言う権利はないし言われたくありません。出て行ってください。」

オレの言葉に鷹之の瞳の奥に黒い焔が灯ったのを見つけてマズイと思った。どうして鷹之が怒ってるのかわからないけど、オレの言い方は鷹之を逆上させてしまったと気づいた時には遅かった。

「何をするんですか?やめてくださいっ‼」

ソファーに乗り上げてきた鷹之がオレの両腕を拘束する。振り払おうにもすごい力で掴まれてるのでピクリとも動かない。ならばと足で蹴ろうとしたが、それに気が付いた鷹之がオレの上に乗ったので足をバタバタするだけだった。

怖い…。

付き合っていた頃の鷹之は優しくてこんな事をするような奴じゃなかった。いつでもオレの気持ちを優先してくれて、今思えば本気じゃなかったから余裕があっただけなんだろうけど…。

ギリッと掴む手首に力が加わった。

「痛いっ‼」

思わずこぼれたオレの言葉は届いているのかいないのか、鷹之の瞳はオレを見てるけどうつろにも見えた。そのまま顔が近づいて来て唇が触れそうになり顔をそむける。

「何考えてるんです‼オレは男です。離して下さい。」

「男でもいいくせに…。」

思わず鷹之を見る。『男でもいいくせに』確かに鷹之はそう言った。何で?

「何でって顔してるな。そりゃわかりますよ。征一郎さんは男だ。貴方は嬉しそうにその人と話をしていた。いつもはみせない柔和な顔して嬉しそうに頬さえ赤らめていた。」

そりゃなるだろう。溝の開いた父親以上にオレの事を思ってくれている相手だ。オレだって兄みたいに思っている。父親よりも家族に近い相手なんだから。

「いい加減にして下さい。そうだとしてもそれは貴方には関係ないでしょう?オレに腹を立てるのは筋違いじゃありませんか?たまっているならそういうお相手にしてもらって下さい。男としたいならその手の店に行って下さい。オレは嫌だ‼」

これ以上拘束されるのは嫌だ。オレだって男なんだ。こんな屈辱はプライドが許せない。

腹に力を入れて暴れまわる。手も足もこれでもかと言うぐらい暴れて拘束している鷹之の手に噛みつくと掴んでいた鷹之の手の力が弱まり思い切り鷹之を突き飛ばす。

「出て行けっ‼早くっ‼もうオレに近づくな。早く出て行けっ‼」

ズキリと嫌な痛みが襲って来て頭を抱える。大きな声を出し過ぎたらしい。痛い…。

「あ、大丈夫か?」

見上げると茫然としつつもさっきの黒い焔のない鷹之の目と視線がぶつかる。オレに突き飛ばされて正気に戻ったらしい事に少しホッとする。あんなの鷹之じゃない。何がそんなに鷹之を怒らせたのかはわからないけど、これ以上傍に居ない方が良い事だけはわかる。鷹之は男も抱けるのだ。本気じゃなくても…。なにが間違ってそうなるかわからないし、そうなった時に求めてしまうのが怖い。抱かれればオレはきっと鷹之を受け入れてしまう。あの時と同じように。あの頃と違うのは鷹之が本気じゃなく男を抱けるのだと知っている事だ。そう抱かれても未来はない。先のない関係なのだ。身体だけの…。オレはもうそんな関係を持つのは無理なんだ。間違いが起きる前に離れてしまった方がいい。

「出て行け。」

オレは鷹之の顔を見ずに静かに言う。それでも動かない鷹之を見て頭を押えながらフラフラと立ち上がると玄関に向かう。二人きりで居たくない。

ガチャっとドアを開け、外の寒さに身を震わせる。3月なのに寒の戻りで冷え込んでいた。スエットだけの服装は寒すぎたようだ。

「っとあぶねぇな。やっぱり名刺入れ取りに来た。会う時間がずれて時間出来たから。ってどうした?そんな恰好で出て行く気か?…何が有った?」

「征一郎さん…。」

征一郎さんの顔を見たらどうしようもなく涙が溢れて来た。嗚咽が止めることが出来ずにポロポロと涙が零れて…。よほど緊張していたのか立っていられずに身体が倒れ込みそうになり征一郎さんに抱き止められて、ウワンウワンと頭の中が音をたてていた事もあり考る事を拒否したオレはそのまま意識を手放してしまった。

「おいっ。明日叶‼」




それからどれくらいしたのか目が覚めるとオレはベッドの中だった。なぜかスエットを着ていたはずなのに今はパジャマに着替えていた。寝室には一人だけで人の気配はない。

オレはベッドに身を起こし何が有ったのかを思い出そうとして、征一郎さんの顔を見て意識を手放した事を思い出す。

ここで寝ているという事は征一郎さんが運んでくれたのだろう。でもあの時部屋には鷹之が居たはず。という事は征一郎さんは鷹之に会ったんだ。どんな会話を二人が交わしたのかわからないけど、征一郎さんは鋭い人だ。鷹之とオレの間に何かがあった事はわかってしまっただろう。泣いてしまったオレを見てるから鷹之を責めたかもしれない…。

責められるべき事をしたのだから仕方ないかもしれないけど、鷹之を悪く思われるのは嫌だった。バカだなオレ…。

のどが渇いている事に気が付いてベッドからおりるとリビングに行く。リビングに人がいたのでビクリとすると穏やかな笑顔のマスターが静かに本を読んでいた。

「起きたんだね。身体大丈夫ですか?よっぽど疲れたんですね。寝返りもせずにずっと眠っててたんですよ。」

「マスター仕事は?」

「あれ、征一郎の事は名前で呼ぶのに私の事は呼んでくれないんですか?征一郎が「明日叶が名前で呼んでくれた」と自慢していたので羨ましかったんですよ。」

「遥斗さんってば…。」

名前を呼ぶと嬉しそうにする遥斗さんは子供のようだ。征一郎さんも同じような顔をしてくれたのかもしれない。

「そう言えば征一郎さんは?」

「打ち合わせがあるので私と入れ違いに出て行きました。明日叶の事を心配していましたよ。」

「そう。悪い事しちゃったな。遥斗さんもごめん。仕事さぼらせちゃったね。」

「いいんですよ。征一郎にもたまには休めって言われてますしね。店を任せるのも下を育てる事になりますから。」

「ありがとう。」



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