土曜の雨のジンクス
土曜の雨のジンクス21
まんじりともせずに迎えた朝は薄曇りで気分も落ち込み、収まっていたはずの頭痛がぶり返す。熱いシャワーでも浴びればスッキリするかと思い浴びても状態は変わらず…。このまま仕事に行ったところで仕事にならないだろうとたまっている有休を消化する事にした。
「こんな風に会社を休むの初めてだ…。」
口から出た呟きが思ったより大きな声で苦笑する。
「こんな風に独り言を言うのも…。」
今度は少し小さな声で言う。でも落ち込んでいる気分はそのままで…。シャワーを浴びて濡れたままの髪の毛のままベッドに転がる。乾かさないとと思うのに時間を気にしなくてもいいからか動く気にならない。
「何か食べないと薬のめないな。」
そう思うものの食欲はまるでなく、動く気にもならないままでぼーーっと時間だけが過ぎていく。
しばらくそうしていたものの、頭痛がひどくなりそうなので仕方なく起きるとキッチンに立つ。と言ってもオレは料理は出来ない。パンも何もなくて買いに行くのも面倒でコーヒーに牛乳をたっぷり入れてそれを胃に収め薬を飲む。ついでに眠りを貪ってしまおうと病院からもらった眠剤を飲んで再びベッドに横になる。何も考えたくなかった。
軽いはずの眠剤は飲んだことがなかったせいかことのほか効いてくれて、オレはぐっすりと眠り込む。この2日間ろくに寝てなかったからかもしれない。
目覚めた時はすっかり昼を回っていたが、十分な眠りを取った事で頭痛も収まり、スッキリとした気分になっていた。寝る事ってほんとに大事なんだな。
単純なもので元気になると胃が空腹を訴えてくる。
「お腹空いたな。散歩がてら買い物に行くか。」
独り言ちて財布と携帯を持ち外に出る。
穏やかな日差しが温かく、春が間近に来ている事を告げている。この分だともうすぐ桜の蕾も鼻を咲かせる事だろう。
久し振りに近くのベーカリーで何か焼きたてのパンでも食べようかと思っていたらポケットの中の携帯が振るえる。電話の主は鈴城さんだった。
「もしもし、伊藤さん?大丈夫?酒井さんから今日休んでるって聞いて。昨日しんどそうだったから心配になったんだ。今電話してて大丈夫?」
鈴城さんはすっかり口調が変わってしまい、仕事相手というより友人相手みたいになってしまった事に苦笑する。そう言えばそんなに親しくなかったときは『僕』って自分の事を言っていたのに、最近は『オレ』になっていたっけ。
「心配かけてすいません。大丈夫ですよ。今日念のために休んだだけです。」
「そう?ならいいんだけど、昨日菅沼さんに後を頼んだからどうだったか聞いたんだけどちゃんと送ったとだけしか言ってくれなくて黙っちゃったからさ。何かあった?」
ドキッとした。一瞬間があいてしまって慌てて言葉をつなげる。
「別に何もありませんよ。菅沼さんにはちゃんと送って頂きました。菅沼さん様子が変だったんですか?」
「うん。何だか苦しそうな顔しててさ、聞いても何も言ってくれないし何でもないって言うだけで…。何かあったんなら言ってくれればいいのにな。」
「そうなんですか。でも今日はケロッとしてるかもしれませんよ。体調が悪かったとか…。」
「そうだったらいいんだけどな。じゃオレ仕事の途中だから。」
「わざわざ電話ありがとうございました。昨日も本当にありがとうございました。」
「感謝してくれるなら今度デートしてくれる?」
「食事くらいならいいですよ。ただしデートじゃありません。」
「ちぇっ。伊藤さんは固いなあ。オレ本気なのに。」
「本気になられても困ります。そう言う事は女性に言って下さい。」
「伊藤さんだから言ってるんだけど…。ま、二人の時間を持つことが大事だからいっか。じゃ食事絶対ですよ。いい店探しとくんで。」
「ええ。お任せします。じゃ仕事頑張ってください。」
「じゃ、また。」
鈴城さんはいつでも前向きで明るい。少し強引なところもあるけどそれが嫌だと思わないのは性格のせいもあるのかもしえない。得な人だ。
それよりも鷹之…。
オレにした事を後悔してるんだろうか。何に怒ったのかはわからないけど、あんな事をしたんだ。男を襲おうとしたなんて後から後悔する気持ちはわからないでもない。普通なら男にするような事じゃないから。それもすみれさんがいるのに…。
関係ない。鷹之がどう思ってようと関係ない。後悔するなら後悔するような事しなきゃいいんだ。
また落ち込みそうになってフルフルと頭を振る。
お腹が空いてるから考えても仕方のない事を考えてしまうんだ。
ベーカリーに入るとちょうど焼きたてのクロワッサンが並べられていて、クロワッサンと焼きたてのほうれん草のキッシュを買う。
家で食べようかと思っていたけど、帰る前に覚めてしまうし、こんな温かい日差しの中で食べるのもいいかもしれないと、温かい袋を抱いて近くの公園で遅い昼食を食べる。
春の日差しを受けて食べる焼きたてのパンはおいしくて元気が出る。鷹之はちゃんと食べてるだろうかなんて考える自分に苦い笑いが込み上げる。オレが心配しなくても鷹之には心配して売れる人がいる。
あんな事をされて、怒らない気持ちがないわけじゃないけど許してしまっている。鷹之を責める気持ちなんてちっともないんだから仕方ない。惚れた弱みかな。
一緒に買っていた温かいコーヒーを飲み干して空を見上げる。栄養も元気も充填した。家に帰ろう。せっかくの休みだ。今日は掃除と洗濯をして部屋中を綺麗にしよう。昨日の事なんて欠片も残さない様に…。
ポンと膝を叩いて立ち上がると家に帰る。掃除をして洗濯し新しいシーツと交換する。カーテンも洗うと部屋中に柔軟剤のいい香りがして気持ちがいい。
ふと鷹之の事を思うけどどうしようもない事だ。恋心を抱いたまま思う事くらいは許して欲しい。それ以上を望むわけではないから。鷹之の幸せを壊すつもりなんてない。
でも…。
その幸せを見る事は辛いからあの店には行かないし、鷹之にももう会わない。鷹之もオレには会いたくないだろう。きっと間違ったことをしてしまったと後悔してるだろうから。
もう会えないと思うと胸が痛むけど、大人の鷹之に会えた事だけでも良かったと思わなくちゃな。
高校生の時に止まったまましらんふりを続けてきた恋心を解放した。今は鷹之しか見れないけど、時間が経てばこの気持ちも昇華されて、次の恋を探す事が出来るかもしれない。
今までは本気になれなかったけど、次は本気の恋が出来るかもしれない。
高校生の恋は鷹之にとってはそうでなかったとしてもオレは本気だった。あの気持ちは嘘じゃない。今までのオレは鷹之の気持ちが偽りだった事を怒って悲しんでいたけど、オレはちゃんと鷹之に恋をして一生懸命好きになった。それでいいじゃないか。見返りを求めてたんじゃないはず。好きだった気持ちを否定するなんて、あの時のオレを否定するのと同じ事。そんな事をしたくない。
幼かったけど、人を愛する気持ちを知った。その時の自分なりに一生懸命恋をした。それだけでいい。
ベランダから見上げた空は綺麗な青空で、ほんの少しだけ晴れやかな気持ちになった。
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