土曜の雨のジンクス
土曜の雨のジンクス22
オレが部屋から出て行けと言って仲たがいのようになってから鷹之とは全く会わなくなった。
会わなくなったというのはおかしいのか…。会わなくて普通なんだ。鷹之の店にでも行かない限り鷹之とオレには接点がないから。
偶然会った事や、鈴城さんに言われて鷹之が合コンに来たのも、オレを病院に迎えに来てくれたのも鷹之の意志じゃない。頼まれたからだ。だからそれ以外で会う事はない。
鷹之に会えない事は寂しいと思う反面、これが当たり前なんだとも思う。きっと鷹之とオレはすれ違っただけで一緒に時間を紡ぐ相手ではないのだと思う。その代わりというわけではないけど、鈴城さんと会う事が多くなった。
あれからお礼に食事に付き合ったが、思いのほか楽しい時間を共有出来た。口では迫るような事をいいながらも鈴城さんは決して押しつけようとはしなかった。
二人で時間を過ごす中でオレがゲイだと正直に告げたのは、二人の時間を持つ中で鈴城さんという人がわかって信用できる人だと思ったからだ。
ゲイだと知れば緊張感も無くなって慣れあってしまうかもしれないと思ったけど、鈴城さんはゲイだとわかってからも変わらずに接してくれる。鈴城さんの告白に答えられていないオレを急かすことなくゆっくり考えてくれればいいからと今は友人としていてくれている。
今は感情を持ってるわけではないけれど、鈴城さんとの時間は穏やかに過ぎてくれるので甘えてしまっている自覚はある。このまま一緒に過ごす時間が重なって行けば穏やかな恋となるかもしれない。
鷹之との恋のような激しさはないかもしれないけど、穏やかな恋もいいんじゃないかと最近は思う。
愛するばかりじゃなくて、愛されるのもいいかもしれない。そうは思うものの一緒に出掛けるだけでその先には進めなかった。そういう空気が流れるとつい身体をそむけてしまう。それでも鈴城さんは焦らないからと無理やり先に進まずにとどまってくれるから、後ろめたいような気持ちが湧く。鈴城さんの腕の中に飛び込めば幸せになれるかもしれないのに、どこかで最後の一歩を踏みとどまってしまう。
鈴城さんを利用してるみたいで進めない自分に嫌悪を感じる。未練たらしく鷹之を思ってる自分がいる。忘れようとして、忘れきれない。そんなオレの気持ちを鈴城さんは感づいているんだと思う。相手は鷹之だとは思ってないだろうけど、心の中に誰かがいる事はわかってて待っててくれてるんだ。
鈴城さんを好きになれたらいいのに…。
明日は休みなので今日は征一郎さんと遥斗さんの自宅に招かれていた。時々こうして二人はオレを呼んでくれる。いつも一人になりがちなオレを気にしてくれて、おいしい遥斗さんの手料理と征一郎さんセレクトのおいしいお酒をごちそうしてくれる。
二人と話す事で迷っている事に答えが出たり、相談にのってもらったり出来る大切な時間だ。何気ない会話の中から二人はさりげなくアドバイスしてくれるから反発したり落ち込んだりする事はない。
今日は最近店に行かないオレを気にかけて誘ってくれたので、時々鈴城さんと食事に行ってる事や、鈴城さんから告白された事を話していた。
「それで?明日叶は好きになれそうなのか?その鈴城さんをさ。」
「好きになれたらいいなとは思ってる。」
「好きになれたらか…。いっその事付き合っちまえば?案外鷹之の事も忘れられるかもしれないぞ。」
ぎゅっと心臓を鷲掴みにされたように胸が痛くなってシャツを掴んだ。そうすれば鷹之の事忘れられる?次の恋に進める?胸の痛みもなくなる?
「征一郎、無責任な事を明日叶に言わないで下さい。明日叶も征一郎の戯言を真に受けない。よく考えなさい。それは鈴城さんに対して失礼だとは思いませんか?」
「……。」
「鈴城さんは早く返事をしろと言ってるのですか?」
「ゆっくりでいいって。オレの中に誰かがいる事に気が付いてるんだと思う。」
「じゃあ急いで答えを出す必要はないんじゃないですか?明日叶の心が決まってからでもいいと思います。それが待てないような人なら付き合わない方がいいと私は思います。」
「遥斗の言う通りかもしれないけどさ、このままじゃ明日叶はウジウジしたまま答えを出せないんじゃないかと思ってさ。」
「それでも征一郎が答えを出すのはお門違いです。付き合うのは明日叶なんですから。決めるのは征一郎じゃなくて明日叶です。」
「そうだけど…。」
二人の間の空気が剣呑なものを含みだしてオレは慌てて間に入る。オレの事で喧嘩して欲しくない。この二人はお互いの事を思いやれるオレの憧れのカップルなんだ。
「ちょっとオレの事で喧嘩しないでくれるかな。遥斗さんに言い任されて後で明日叶のせいでって絶対に征一郎さん言うもん。だから喧嘩しないで下さい。」
ぺこりと頭を下げると二人は顔を見合わせて同時にため息をつく。こんなところまで息があってるんだ。
「そうでした。明日は休みだから酒を飲もうって集まったのに喧嘩をしてはいけませんね。さあ征一郎、冷蔵庫からおつまみを出して下さい。明日叶はお酒の用意をして。ちょっと頑張っておつまみを作ったんですよ。」
「うわー。楽しみ。全部遥斗さんの手作り?」
「カナッペに具を乗っけたのはオレだぞ。」
「具を作ったのは遥斗さんでしょう?征一郎さんは乗せただけじゃん。」
「バカ。この色彩感覚の素晴らしい事。あと味の組み合わせもベストチョイスなんだぞ。」
「どれ。うわっほんとにおいしい。やっぱ具がおいしいから何を組み合わせてもおいしいんだね。」
「明日叶てめえ、もう食わせないぞ。」
「いたっ。遥斗さん征一郎さんが暴力をふるうよ。」
「征一郎、明日叶相手にそんな大人げない事しないで下さい。言動も明日叶と同等ですよ。」
「うわっ。何気に遥斗さん酷い事言ってない?」
「あ、そんなつもりはなかったんですが、そうですね。酷い事言ってますね。」
3人で大きな声で笑う。そう言えばこんな風に大きな声で気兼ねなく笑ったのって久し振りな気がする。
「まあ、5年経っても忘れられなかったんだからすぐには無理だろうな。焦る必要はないさ。時間が経てば自然に答えは出てくる。」
「そうですよ。応えは導かれるものです。今度、鈴城さんと一緒にお店においで。征一郎と二人で鈴城さんが明日叶に相応しい人か見てあげましょう。」
「ええ。そんなのいいよ。なんか遥斗さん父さんみたいだよ。」
「酷いですね。お兄さんにしてくれませんか?」
「おい遥斗それずうずうしいぞ。もう40になろうってオッサンがさ。」
「私がオッサンなら征一郎もオッサンですね。同じ年なんですから。じゃあ征一郎も明日叶のお父さんですね。」
「いやいや明日叶オレ達は明日叶の兄という事で…。」
「はいはい。頼りにしてますよ兄さんたち。」
その後は遥斗さんの作ってくれたおつまみをつまみながら、出会った頃から今までの話をしながらお酒を飲んだ。
過去のオレはしょっぱい事もあって、その話の時は耳が痛かったけど、繰り返さなければいい。過去に自分を忘れるなって言われて素直に頷いた。過去は変えようがないけど、同じ過ちを繰り返さない様にすればいいんだ。
次の日は休みという事もあって3人で潰れるまで飲んで、そのまま雑魚寝した。本当の兄弟のように3人で川の字になって…。
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