土曜の雨のジンクス
土曜の雨のジンクス24
突然バタンとドアの開いた音がして、俯いていた顔を上げると普段着に着換えた遥斗さんが立っていた。オレの顔を見ると傍に寄って来て頭をくしゃりと撫でてからギュッと身体を抱いてくれる。
「せっかく明日叶と二人だからデートでもしましょうか。その前に腹ごしらえ。美味しいイタリアンがこの先に出来たんですよ。トラットリアよりもオステリアって感じのかしこまる事のない言いお店です。ワインもたくさんおいてるので楽しめますよ。」
何も言わないオレの背中をさすりながら優しい声で話をして、オレの返事があるまで待っていてくれる。つい遥斗さんの肩に頭を乗せて甘えた。今は食事よりもこうして人の温もりを感じていたい。心の中は冷え切って凍えそうだから。動機も血の区切りをつけていいのかわからずに、すみれさんにあかちゃんが出来たという事実を受け入れられずに考えているようで考えていない奇妙な気の血の中で漂っていた。泣けたら楽なのに…。
オレはどうやらそのまま眠ってしまったようで目を覚ますとスファーに寝かされて毛布を掛けられていた。
「おっ、起きたか。腹減ったろう。これから3人でメシでも食いに行こう。遥斗ももうすぐ来る。」
部屋の中には遥斗さんはいなくて代わりに征一郎さんがいた。眠っていたのはさほどの時間ではないようだ。
「明日叶…。話は聞いたよ。お前まだやっぱり鷹之くんの事好きなんだな。」
「………。好き…じゃない…。」
「無理すんな。忘れられないんだろう。」
「無理してない。征一郎さんに何がわかるんだ。好きだってどうしようもないじゃないか。どうしようも…。」
「明日叶…。忘れるしかない。明日叶は鷹之くんの幸せを潰したくはないんだろう。なら…。」
「うるさいっ。そんな事言われなくてもわかってるよ。オレが勝手に鷹之のことが好きなだけなんだから。オレが…オレが…。」
涙が込み上げて来てもう何も言えなくて、征一郎さんがオレを悲しそうな目でみるから余計に自分が惨めで勢いのまま底を飛び出した。
征一郎さんがオレの名前を呼んで追いかけてきたけど、人ごみの中をめちゃくちゃに走り回って逃げた。
征一郎さんの言う事は至極まっとうな意見で、それを受け入れないといけないってわかっててもどこかで認めたくない自分がいて、話を冷静に聞いていられなかった。
征一郎さんのオレを見る目が憐れみを含んでいるようで、後から考えれbそうじゃない事はわかったけど、その時のオレは気持ちが暴走して自分の事しか考えられず、行き違う人さえもオレを見て憐れんでいると思った。誰もオレなんか見てないのに…。
息が切れて、足がもつれて走れなくなりはあはあと荒い息を吐きながら近くに有ったベンチに腰掛ける。座ってからも一向に息が整わずに額から汗がしたたり落ちた。
空は真っ暗な闇。星ひとつ見えない。空気は重く澱み雨が降りそうな匂いがしてた。
人はかなえられない思いを抱きながら生きている。
本当に好きな人と結ばれるなんてどれくらいの確立なんだろう。普通の恋愛だって可能性は低い。ましてやゲイのオレが結ばれる確率なんて奇跡に近い。そんな事いまさら考えなくてもわかってる。でも夢見るくらいはいいじゃないか。なのに神様は残酷だ。
別れたまま会わなければ、風の便りに結婚したとか子供が出来たとか聞いてもこれほどのショックはなかったと思う。なのに再会して、いまだに鷹之の事が好きだと気が付いたところなのに、鷹之に子供が出来た事を知るなんて酷い。オレ、何かした?本気にならない恋愛をしていた罰なのか…。
きっとそうなんだろうな。オレが傷つけてきた人の分も今報いを受けてるんだ。
空をふり仰いだらぽつぽつと冷たい雫が落ちてくる。
そう言えば今日は土曜日。本当に土曜日は雨が多い。自分の中の恋心とお別れという事なのかな。
ベンチからフラリと立ち上がるとすぐ近くにBarがあるのが目に止まりその中に入って行く。無性に強い酒を飲みたかった。酔って何も考えたくない。
いつの間にかかけていた眼鏡はなくなり思い切り素顔をさらしてるのも気が付かなかった。眼鏡をかけている事で予防線をはっているのに、それさえもなく無防備なままで一人カウンターで酒を飲む。
いくら飲んでも気持ちは酔えないから余計に酒を煽る事になっていた。
「ねえ一人?何かあったの?そんな飲み方してるとヤバいよ。」
「…。だれ?ほっといてくれ…。どんな飲み方しようとあんたに関係ないだろ。」
「綺麗な子がそんな飲み方してたら心配になるだろ。失恋でもした?」
「男に綺麗とか言うなんておかしいんじゃないの?オレは一人で飲みたいんだ。」
「綺麗なものは綺麗だろ。一人で飲むなんて言わないでさ、あっちでオレ達と飲もうぜ。みんなで飲む方が楽しいし気もまぎれるって。」
嫌だと言ってもそいつも酔ってるのか引かない。オレはうんざりしてバーテンを呼ぶと会計を清せた。店の中でしつこくするわけにもいかないと思ったのかそのしつこい男はチッと舌打ちをして自分の席に戻ったのを確認して店を出る。ああいう奴は店を出てもついて来る事があるので気をつけないと。
昔の経験がこんな時に役に立つ。失敗したからこそで、何度かそんな目にあったなと自嘲気味に笑う。
今晩は大人しく帰った方がいいようだ。そう思って駅の方へ身体を向けた時だった。
「あれえ明日叶じゃん。ひっさしぶり。ん?珍しく一人?じゃオレと遊ぼうぜ。」
前の前にいたのはオレが自暴自棄になって毎夜抱いてくれる相手を求めて街をさまよっていた頃何度か肌を合わせた相手だったけど名前すら憶えていない。
その頃は寒くて寒くて人の温もりが恋しくてそれだけで空虚な心を埋めてくれる相手を探して身体を繋げてた。身体を繋げてても空虚な心は埋まらなかったけど、それでもSEXをしている時は寂しさを紛らわす事が出来た。
「悪いけどもう卒業したんだ。SEXしたいなら他の人を当たって。オレ無理だから。」
「なになに?あんなにビッチだった明日叶がどうしたんだよ?そんな事言ってたっていざやったらよがってドロドロになっちまうくせにさ。行こうぜ。」
「行かないって言ってるだろう。行きたきゃ勝手に行けよ。」
「何だと。もっともっとって自分から腰振る淫売な身体なくせに。それとも勿体付けて煽ってんのか?」
「バカじゃないの?悪いけどオレをドロドロにさせる相手なら顔忘れたりしないと思うんだよね。オレ、あんたの顔覚えてないから下手だったんじゃないの?へたな奴とするのって気持ちよくないし、疲れるだけなんだよね。だからしない。じゃね。」
「てめえ、ちょっと綺麗だからって調子に乗ってんじゃねえぞ。」
いきなり頬を殴られて口の中が切れたのか血の味がする。でも不思議と痛みは感じなかった。相手がうっとおしかったのもあるけど、殴られたかったのかもしれない。バカな自分を…。
このままどっかに連れ込まれて無理やり犯されるんだろうな。それも乱暴に…。もしかしたら輪姦されるかもしれない。
今までの体験からそうなる事は予測出来た。でもそれでも良かった。とことん穢されたかった。汚れて汚れてオレなんか壊れてしまえばいい。
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