土曜の雨のジンクス
土曜の雨のジンクス26
いつまで経っても衝撃が訪れない。不思議に思って俯いていた顔を上げるとそこには無表情のまま男の手をひねりあげている鷹之がオレを庇って立っていた。
鷹之が何でここにいるんだ?
オレと言えば今まで自分が何をしていたのかもすっかり忘れて鷹之をじっと見ていた。間近に見る鷹之から目が離せなかったと言う方が正しいだろう。すみれさんの妊娠がどうだとかそんな事も忘れてただ自分の好きな人を見つめていた。
「この人は伊藤さんの知り合いですか?」
だから鷹之がオレに聞いているのだとすぐにわからなくて返事もせずにいた。返事のないオレを振り返ってみた鷹之の視線と絡まって心臓がうるさく音をたて出す。
「え?」
「だから伊藤さんの知り合いですか?知り合いにしては暴力を振るわれて絡まれてるようにしか見えなかったんで止めに入りましたけど、合意の上なら余計なお世話かと思いまして…。」
鷹之から聞こえる言葉に、さっきまで有頂天なほど上り詰めた心臓が一気に下降していく。この前とは違うよそよそしい言葉使いに落ち込んでしまうバカなオレが情けなく仕方なかった。
「いってーな。手を離せよ。オレとこいつは良い仲なわけ。あんたがでしゃばる筋合いはないの。わかったらどっか行きな。それともコイツとやりたいの?今日はオレが相手するけど、あんたしたいなら次お願いしとけば?こいつビッチだからやらせてくれるかもよ。」
「オレはそんな事しない。合意の上なら何も言いませんが暴力はどうなんです?両頬が赤くなってますが殴ったりしてませんよね?」
「は?勝手だろ。こいつはいたぶられるのが好きなの。オレは殴ると興奮する。お互いにいい組み合わせなわけ。わかったろ。お邪魔なんだよあんた。」
「伊藤さん本当ですか?」
鷹之に昔の事をばらされてしまった事で立ち直れないくらいに気分が沈んだ。自業自得だけど潔白そうな鷹之はオレの事を何て思っただろう。高校のに付き合っていた奴だと気が付いていないだけマシなのか…。今日はとことんついていない。もう嫌だ。
「痛めつけられて喜ぶ趣味はないし、良い仲でもありませんが昔の知り合いです。手を離してあげて下さい。」
鷹之が男の手を離すとその手をさすりながらオレに近づき腰を引き寄せ鷹之に見せつけるように顔を上げさせられた。眼鏡をしていない事を思い出してすぐに下を見たから顔は見られていないと思うけど、早くここから立ち去りたい。
「ご迷惑をお掛けしました。すいません。行こう。」
男はまだ何か言いたげにしてたがオレが手を引いた事で気を良くしたらしく、鷹之には目もくれずに一緒に歩き出した。
もうどうでもいい。誰でもいいからオレを汚して欲しかった。鷹之の傍に居られなくなるくらいに汚して欲しい。そうすれば諦められる。傍に近寄る事も出来ない汚い自分なんだと思える。
「どうせなら3Pいや4Pとかでやるか?明日仕事休むことになっちまうけどいいだろ。」
複数相手か。きっと無茶苦茶にされてしまうのだろう。この男の知り合いなどロクな奴はいない。性欲のはけ口にされるだけなのはわかっている。でもそれくらいされたら汚れきってしまえるだろうか。
「バカな事言わないで下さい。伊藤さんがそんな事が好きなわけじゃないでしょう。」
気が付くといつの間にか鷹之が俺と男の間に入っていた。
高校生の時とは違う大人の男の大きな身体はオレをすっぽりと相手から隠してしまう。縋り付きたくなる手を何とか押しとどめてぎゅっと手を握る。
「どんだけしつこいんだよ。お前は関係ないんだからでしゃばんな。それとも殴られたいのか?」
「あいにくとそんな趣味はありません。ただ貴方が殴る言うのなら正当防衛として反撃しますよ。オレかなり強いんで怪我しないようにしてくださいね。頭に血が昇ると加減できなくなってしまうので。」
相手とにらみ合う鷹之の顔は後ろからは見れないけど、相手がとたんに怯んだのを見ると構えただけで強さがわかったらしい。
「もういい。気分がそがれた。別に他にも相手はいくらでもいるんだ。そいつはお前にくれてやる。身体だけは最高だからしっかり楽しませてもらうんだな。」
男はそう言って立ち去った。残されたのは重い空気と鷹之とオレ。しばらくはお互いに何も言えずにいた。先に口を開いたのは鷹之の優しい声だった。
「大丈夫ですか?」
「…はい。あの、ありがとうございました。」
「助けて良かったんですか?ああはいいましたが伊藤さんの気持ちを聞いてなかったから余計な事だったのかと…。」
「…。どうでしょうか?どっちでも良かったのかな。よくわかりません。でも今ホッとしているという事は行きたくなかったのかな。」
気が抜けて身体が崩れ落ちそうになって鷹之に腰を強く掴まれた。
さっきの男にも掴まれたのに、鷹之に捕まれるとそこからじわじわと熱がこもっていく。愛撫されたわけでもないのに身体の中に、身体の奥が何かを求めて疼くのを感じて慌てる。さっき身体に灯った熾火は騒ぎの中でも燻ったままだったようだ。久しぶりの人肌を身体が求めているのだ。このまま鷹之の体温を感じていれば抱いて欲しいと言ってしまいそうで足に力を入れると鷹之から離れる。
「すいません。お恥ずかしいところばかり見られてしまいました。もう大丈夫です。ありがとうございました。」
「伊藤さん…。さっきあの男が言ったのは本当の事ですか?」
「なんでしょう?」
「あの…貴方がビッチだとか…。誰とでもそう言う事をするんですか?男相手に?」
「…。それが何か?菅沼さんには関係ない事です。ああ、気持ち悪いですか?男相手に抱かれるなんて…。でもそれこそ個人の自由です。貴方に迷惑をかけましたか?気持ち悪いと思われてもかまいません。もしこれから会う事があっても私の事は無視して下さってかまいませんから。じゃあ。」
気持ち悪いと思われる事はすごく悲しいけど、今の鷹之には男同士で恋愛する事なんて気持ち悪い事に違いない。これでいい。会って声を交わすから欲が生まれる。無視されていれば傷つくだろうけど仕方がないと諦められる。
「待って下さい。もしかしてこのまま今晩の相手を探しに行くんですか?」
オレをバカにしてるのかと言う言葉が喉から出かけたけどそれを押し込める。オレを批判したいならとことん嫌われてやろう。オレと顔を合わせたくなるなるくらい心底嫌いになればいい。
「そうですけど何か?貴方が相手をしてくれるとでも?止めといた方がいいですよ。男と寝たって後悔するだけだ。」
「オレでいいのならお相手します。」
何を言ってる?オレの耳は幻聴でも聞いたのか?
「…何を言ってるのかわかってるんですか?どうかしてる。出来もしない事は言わないで下さい。じゃ。」
「ちゃんとわかった上で言ってるんです。誘ったのは貴方ですよ。出来るか出来ないかやってみないとわからないでしょう。他の誰かとわからない人間よりも知ってる人間の方が安全だと思いませんか。」
いつの間にかオレの手を引いて歩き出した鷹之にオレは逆らう事なくついて行ってしまう。鷹之がどういうつもりなのかわからない。だけどダメだという自分と1度だけでも今の鷹之に抱かれたいと思う自分とで揺れ動いているオレは鷹之に繋がれている手を離す事が出来なかった。
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