土曜の雨のジンクス

土曜の雨のジンクス34

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鈴城さんと会う事を避けるようになっても鈴城さんは優しくて、いつも気遣うようなメールをくれた。それも負担に思わないようにするためか頻繁にというわけじゃなく時折くれる。

オレが避けている事に気が付いているだろうにいつも労わるような文面に、このままじゃいけないと思った。

鈴城さんにちゃんと気持ちを打ち明けないでズルズルと引っ張るような事をしている自分が嫌だった。

鷹之と鈴城さんを天秤にかけているつもりはないけど、あっちがダメならこっちと鷹之にも鈴城さんにも思われたくない

なんて身勝手に考えたりする自分も嫌だ。

鈴城さんにちゃんと断ろう。鈴城さんを好きになる事は出来ないとちゃんと言おう。オレの中の鷹之は消える事はないと思うから。

優しい鈴城さんの事だ。ちゃんと断らないといつまでも待っていてくれるかもしれない。

会社で仕事だけをする毎日の生活と週末だけ鷹之に会う事に疲れていたのかもしれない。征一郎さんと遥斗さんに鷹之との事を言えていたのなら違ったのだろうと思うけど、今更言っても仕方のない事だ。

今日も鈴城さんからメールが来ていた。昼休憩の時間にくれたのだろう。相変わらずオレの事を気遣ってくれる優しいメールだった。

しばらくその文面を見て考え、フッと小さな息をついてメールを打ち返す。




『時間が取れる時でいいので一度お会いできませんか?』




愛想もくそのないとは思ったけど気遣うような文章が出てこなかった。鈴城さんはいつもオレを気遣ってくれているというのにオレにはそんな事が出来なかった。

申し訳ないとは思うけど、それ以外の文面は浮かばず、直接会って話す方が自分の気持ちが伝わると思ったのもある。




メールを送信してすぐに返信が返って来る。





『いつでも伊藤さんの都合のよい時を知らせて下さい。』




オレが言いだしたのにオレに合わせようとしてくれる鈴城さんの気持ちが痛くて仕方ない。鷹之の事と鈴城さんの事、二つを抱えているのが辛くて一つだけでもケリをつけたがっている。

鈴城さんの優しい顔は曇るのを見たくない。そんな優柔不断な自分に嫌気がさして来る。

明日は鷹之に会う週末。それなら…。





『今日、仕事が終わってから時間ありますか?』





鷹之に会う前に鈴城さんと会っておきたい。

鈴城さんには関係ない事で自己満足でしかないけどそうするべきだと思った。

いつもなら定時に帰る同僚たちを見送っているオレが先に帰る事に珍しい事もあるもんだと言う顔をされつつ「お先に…」と会社を後にして約束していた居酒屋に入る。

いつもは鈴城さんが洒落た店に連れて行ってくれるけど、今日はオレがこの店を提示した。

洒落た店でするような話ではないし、変な空気を漂わせたくない。間違っても流されるような事にはなりたくない。

鷹之との関係を言うつもりはなかったけど、ある程度は話さないといけなくなるかもしれないと思った。話してる内に感情が昂って涙してしまうかもしれない。個室でもない限り他の人の目に止まってしまうかもしれない。そうなれば困るのは鈴城さんだろう。

だから注文は呼んだら来る居酒屋の個室を指定した。




約束の時間に店に行くともう鈴城さんは来ていた。

何となくいつもと違う事に気が付いているのだろうけど、いつもとかわりなくオレを見ると笑顔を向けてくれる。何だか申し訳ないような気持ちになりつつも、向いの席に腰を下ろした。


「伊藤さん何飲みます?あ、つまみとか適当に頼んじゃいましたよ。他に食べたいものがあったら言って下さい。追加しますから。」

「じゃビールで。料理は頼んで下さったもので…。」

「わかりました。」

そう言うと近くのインターホンでオレのビールを注文してくれる。

注文してくれた料理が全て来てビールで乾杯する。

乾杯するような気分じゃないけど、グラスを合わさないわけにはいかない。

一口ビールを飲むと鈴城さんの顔を見る。

鈴城さんはオレの言おうとしている事がわかったのかもしれない。自分にとって良い話ではないのだろうと…。



「まあ慌てないで。せっかく料理が来てるんですから食べましょう。オレすごく腹が減ってるんですよ。今日は忙しくて昼飯食い損ねたんですよね。」

そう言われてしまうとすぐに話す事も出来ず、オレは食べる気も起きないままビールを飲む。空きっ腹にビールが浸みて来るのがわかったけれど、鈴城さんが上手そうに食べているのを見てた。いつ話を切りだせばいいのかそればっかりに気を取られていた。


「で、オレは何て言ってフラれるんです?」


ビールをくいっと飲んで切りだされた言葉にとっさに何も言えなくて鈴城さんの顔を凝視してしまう。

直接的に断るつもりはなかったのに、本人から切りだされてしまって考えていた言葉はすっかり飛んでしまった。


「好きな人がいるんです。もうずっと…。」

結局はそのまんまの事を言う事しか出来ず気遣いの欠片も見せられない自分がはがゆかった。

好きな人がいるなら最初から言ってくれたら良かったのに…。そんな言葉が帰って来るだろうと思った。

「それって菅沼さん?」

図星をさされてまた言葉に詰まる。黙ってしまえばそうだと言ってるようなものなのに。なのにオレの口は否定の言葉も次の言葉も出てこずに、鈴城さんの大きなため息が聞こえてビクリと身体を揺らす。

「何かそんな気がしてたんですよね。」

「え?」

鷹之と鈴城さんと会ったのは数回もなかったはず。それに鷹之の話なんてした事はなかったはず。それとも知らない内に話してた?

「何となくね。好きな人の事って知らず知らず見ちゃうもんじゃないですか。まあオレの場合は伊藤さんなんですけど。で、気が付いちゃったって言うか…。伊藤さんがオレに付き合ってくれているうちはそれでもチャンスはあるんじゃないかと思ってたんだけど。オレ頑張ってたつもりなんだけどなあ。」

オレを見て茶目っ気たっぷりに片目を瞑る。

「頑張ってたって…。」

「オレの方を向かせようと必死でしたからね。伊藤さんだからですよ。どうしてもオレの方に向かせたかった。」

「意外です。鈴城さんは誰にでも優しくてみんなにそうなのかと思ってました。」

「あ、オレそんないい人じゃないんで、どうでもいいと思う奴にはこんなに時間裂いたり、相手に合わせたり、ご機嫌伺いにメールしたり、あんまりしつこくしたら引かれるだろうとか考えたりしないですよ。計算してたんですよ。どうすれば伊藤さんの中に入り込めるだろうって。」




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