さよならが言えなくて。

さよならが言えなくて。34

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隆也の家でハウスキーパーのバイトを始めてから1週間が経った。

隆也の家の中の荷物の場所も覚え、調理器具も揃って来て少し生活感のある空気がしてきたような気がする。

基本そんなに物を買ってきたり、物を置いたりする性格ではないのか掃除といってもそんなに汚れることはなく、もともとプロに頼んでいただけあって掃除は割と簡単だ。

洗濯物もそんなに溜め込むわけではないし、毎日のように僕がしているので楽だと思う。

料理についても文句を言われる事もなくちゃんと食べてくれる。毎回1品リクエストがあるのでそれに合わせたメニューを作るから、メニューで困る事はあまりない。何でもいいっていうのが一番困るから。でも毎回リクエストしてくる1品が必ず和食で、難しいものではないのだけど、カレイの煮つけとか、レンコンのはさみ揚げだとか、茄子の揚げ浸しとか、うの花とか…。何だか意味があるような気がするのは気のせいかな?誰かに作ってもらった事のある料理を重ねてる気がするんだ。それを隆也に聞くのが怖くて聞けないんだけど…。

いつも隆也がいるとは限らなくて、合鍵で入る事もある。いいのかなと思っていたのは最初だけで、今では普通には入れる様になった。

最初は誰か来てたらどうしようとか、バイトに来てる時に他の人が来たらどんな顔をすればいいんだろうとか悩んだんだけど、それは杞憂に終わった。だってここに他の人が来る事なんてなかったから。

「他の人間を入れるくらいなら俺がそこに行く」と隆也は他人を家に入れる事はなかった。自分のテリトリーに入れるのが本当に嫌らしい。そんな人がよく僕を受け入れたなと思うけど、それは僕が人畜無害で、気を使わないからだと隆也は言っていた。それって僕が空気みたいなもんだって事?いてもいなくても一緒みたいな感じ?

聞きたくても聞けない。聞いて隆也が僕を嫌いになったら、このバイトを断られたらと思うから。結局好きになった者の負けなんだよね。

毎日じゃないけど、隆也の会える事、会えなくても隆也を感じられる事は僕にとってはすごく幸せで、隆也の為に何かが出来る事が嬉しかった。

たまに一緒に食べる夕食も会話はそんなになくても嬉しかった。なんだか家族みたいだと思った。隆也の家族みたいだって。

僕には敦兄も有紀もいるけど隆也には傍にいないから、僕がその代わりにでもあんれればいいなと思った。一人で食べる夕食じゃなくて、誰かと手料理を食べるって大切な事だと思う。そりゃ隆也は外食、それも高級そうなのに慣れてるからそっちの方がいいのかもしれないけど、「こんな料理もいいな」ってぼそりと言ってたから、一緒に食べる時は料理の説明をしながら食べる。

今日はスーパーでこれが安かったとか、この食材は今が旬なんだとか、隆也にとってはくだらない話かもしれないけど出来るだけ会話を絶やさないようにしている。黙って食べるのもいいけど、二人で食べてるってわかって欲しいから。一人じゃ会話は出来ないけど、二人なら出来る。楽しい食事にしたいんだ。

まあ話すのは僕ばっかりで、隆也は返事をするくらいなんだけど、隆也はちゃんと僕の話を聞いてくれている。



「樹ちゃん、隆也の家のハウスキーパーどう?もう慣れた?」

一緒の講義の時間の時に智也が僕を見つけて話しかけてきた。隆也はまだ来ていない。

「うん。わりとね。隆也あんまり汚さないし思ったよりも楽だよ。こんなんでバイト代もらっていいのかなって思うよ」

「そうなんだ。でも隆也が樹ちゃんを家にいれるって以外だったな。続くと思わなかったんだ。正直言って。」

「どうして?」

「うーーん。今まで隆也の家に毎日のようにくる奴っていなかったからさ、隆也きっと窮屈に思うとか煩わしく思うとかあると思ってたんだ。あ、これ樹ちゃんがどうのこうのっていうんじゃなくて、誰でもそうだと思ってた」

「うん。わかるよ。僕だって以外だったもん。もう来なくていいって言われるかもって思ってた。最初の頃は」

「でも最近隆也の機嫌もいいし、夜遊びばかりしてたのに最近は夜は家に帰ってるみたいだし」

「そうなんだ。行ってもいない事あって、そんな時でも料理は作って置くんだけどちゃんと食べてくれてたんだ」

「よっぽど樹ちゃんの料理が気に入ったんだね」

「残さずに食べてくれてる。そう言えば、隆也が居ない時に作ったのもちゃんと食べて最近は食器洗ってくれてる」

「へえ隆也がねえ」

「俺が何だって?」

「あ、隆也、今日食べたいものある?」

「鯖の味噌煮」

「わかった。あとのメニューは勝手に決めてもいい?」

「ああ」

「いいよなあ。毎日樹ちゃんの料理食べられてさ。おいしいだろ?」

「まあまあだな。食べれないものはなかった。洋食は作らせてないからどうかわからないが和食は合格だ」

「ふふっ。何様って言い方がムカつくけど隆也が嬉しそうだから良しとしてくか。樹ちゃんには気の毒だけど」

「合格って言ってもらえて嬉しいからいいよ。隆也がこんな言い方なのは慣れてるから気にしない」

「樹ちゃんって健気だね」

「智也、俺に喧嘩を売っているのか?」

「そんなわけないじゃない。俺は隆也も樹ちゃんも好きだからね。という事で俺も鯖の味噌煮食べたい。樹ちゃんの手料理食べたい。だから隆也の家に行く事に決めた」

「おいおい勝手に決めるな。誰がお前を呼ぶと言った?ポチの料理を食いたいんなら自分の家で作ってもらえ」

「それ無理でしょう。樹ちゃんは平日毎日隆也の所に行ってるし、土日は俺バイトだし。だから隆也の家に行くしかないじゃん」

「ポチも作るのが大変だろうが」

「僕は平気だよ。一人ぐらい増えても大丈夫」

「ほら樹ちゃんもこう言ってくれてるし。ね、隆也お願いします」

「本当にお前という奴は昔からそうだ。遠慮と言うものがない」

「隆也相手に遠慮なんてしてたら今まで付き合って来れないよ。隆也が実は頼みごとに弱いの知ってるからね」

「勝手に決めるな。俺は別に弱い物なんてない。あんまり変な事をポチの前で言うな」

「じゃ隆也の家に行ってもいいね。ダメって言ったら樹ちゃんにあんな事やこんな事言っちゃうよ」

「勝手にしろ」

「てなわけで樹ちゃん俺の分も鯖の味噌煮よろしくね」

何だか今日の夕食はますます賑やかで楽しくなりそうだ。

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